112
その112です。
「……へ?」
さっきから立て続けに間抜け面をさらしてる気がするな、などと泰地が考えたのは、もちろん現実逃避である。
ランセの意外過ぎる要求に、タユー・榊・ぴるるはもちろん、魔王サマですら毒気を抜かれたような表情になっていた。
十秒ほどの沈黙の後、どうにか泰地の舌が麻痺状態からの回復に成功する。
「あの、どういう……?」
「弟が欲しい。つまり、お前には私の弟になってもらいたい」
聞き違いじゃなかったのか、と少年は落胆する。
公安ウン課に来てから理不尽が次々と列をなして襲ってくるので、ある程度の耐性を身に付けたつもりだった。そして、その変な自信はあっさりと崩壊させられた。世界は本当に底が窺えない。
微妙な空気が漂う中、ランセが(少年の手を握ったまま)頭を抱えるような仕草をした。
「ああ、理解できないだろう。ヒトの器を超え、無限に等しい力と永遠に近い時間を手にした者が、弟を必要とするなんて」
「あ、いや、今のでなんとなく分かりました」
「全てにおいて高みに達してしまった孤独を理解し得ないのは自然なことだ。些細な幸せなど目もくれないと誤解するのも無理はない。しかし、私には共に歩ける存在が必要なのだ」
……自分の世界に浸りきっているのか、とにかく喋らないと気が済まない性格なのか。
要するに一人じゃ寂しいってだけの話なのに、どうして風呂敷を広げようとするのやら――ぴるるですらも困ったように空を見上げてしまう。
「なら、テキトーなの捕まえて自分で鍛えてみたらよかったんじゃねーの?」
完全に敵意が無いと安心したのか、タユーが提案してみる。対するランセは頭を振った。
「何度か試してはみたが、残念がら私の求める領域には届かなかった。ヒトの器を超えるというのは、教えて実践できるものではない」
「だろうなぁ。簡単にできるなら、おいらだって裁判戦争で役立たずにならなかっただろうし」
「しかし、お前は強力な加護を受けている。いずれは私と同じ道に合流するだろう」
こんな話を聞かされて「そうなの? やったー!」と喜べるなら、泰地はストレスなんて感じない人間だっただろう。「冗談じゃない!」と忌避するから、ここ最近はストレスの塊なのだ。
しかし、彼のストレスの源は涼しい顔で返答した。
「無論、大歓迎なのだ。どんどん鍛えてもらいたいのだ」
次回から新展開で、2編投稿したいと考えてます