011
その11です。
やるせなさで溺死しそうな空気を変えたのは、控えめなドアノックだった。
「はいどーぞ!」
これ幸いとヴェリヨが声を張り上げ――思わず「うへぁ」と凹みそうになってしまう。
扉を開けたのは、これまた理不尽な暴力に屈したかのような暗い顔色のゲアハルトだったからである。……いや、先の魔王サマによる伴侶宣言の後なのだから、元気に振る舞う材料がないのは事実なのだが。
「この度は、何と申していいのか……」
頭を下げてくるゲアハルトを、泰地は止めるべく立ち上がろうとした。事情はまるで把握できていないが、謝罪するべきはこっちだと考えていたからだ。
無論、それは魔王サマによって阻まれる。
「気にする必要はないし、心配も無用なのだ。貴国の事情を承知したからこそ、日本政府はゲアハルトの亡命を承認したのだ」
「はい。ありがとうございます」
「……へ? 亡命?」
唐突に飛び出した単語に、少年は咀嚼できず瞬きを激しく繰り返していしまう。
さすがに哀れに思ったのか、ヴェリヨが冗談抜きで補足した。
「そういうことだ。要するに、魔王の件が片付いたら、ゲアハルト殿下を日本へ亡命させろって話になってたんだよ。ほら、こっちに来る前に、俺がボスから渡された封筒があっただろ」
……思い出した。
言われてみれば、シェビエツァ王国に転送される直前に、雪郷がヴェリヨに変な茶封筒を「王国に着いてから読め」と手渡していた。その中身はメモリーカードで――
(――って、本当に魔王サマはカードの中身を口に入れて読んだの? お茶目とかじゃなくて?)
ちょっとキナ臭い話になってきました。