109
その109です。
「……へ?」
泰地が間抜けな声を漏らしてしまうのも無理はない。
可能な限り急いでグワンセンの外へ出てみれば、男が五人ほど逆さ吊りにされていたからである。しかも全員全裸だ。
「なんだよ、これ? スカンピンヘの仕打ちかなにかか?」
さすがのタユーもなるべく上を見ないようにしている。乙女の恥じらいもあるだろうが、やはり汚いモノを視界に入れたくないという部分が大きい。
「死んではいないようだが……誰の仕業だ?」
榊がぴるるへ尋ねる。怪しい気配を探れ、というフリだ。ぴるるも聡く察して例の光の角を出現させるが、やがて無言で首を横に振った。
「『この者たち、女子供を拐す極悪人の仲間なり』ねぇ……。こんなカードを信じていいもんだか」
吊るされた男の口に捻じ込まれていたカードを、榊は胡散臭げに眺める。こんな代物を疑いなく納得するほど頭が天国状態ではない。
というか、組織の人間が逃げる途中で適当な男を捕まえて剥いて吊るした、と言われた方がよほど信じられるというものである(もちろん現実的じゃないが)。
はてさて――と全員が対処に迷っていたところに、何かが差し込んできた。
ぞくりとする感覚だ。明らかに異質な、人間とも魔物とも違う異様な気配だ。
泰地や榊はもとより、タユーもぴるるも四肢が硬直している。あまりにも分かりやすい恐怖に、声すら絞り出せなくなっていた。
……約一名を覗いては。
「なかなかの手並みなのだ」
「誉めていただき重畳の至り」
泰地たちの前に、何の前触れもなく人間が現れた。上から飛び降りてきたとか、物陰から姿を見せたなどではなく、登場する時間が数秒分吹っ飛ばされたかのように現れたのである。
その姿は、頭からすっぽりとローブで覆い隠していて特徴らしい特徴が見出せない。この国の半分以上が砂漠だから普通の格好なのかもしれないが、怪しいのは間違いない。
こんなのと魔王サマはどういう関係なんだ――と泰地たちが緊張しながら出方を窺っていると、当の魔王サマはこんなことを言い出した。
「で、お前は何者なのだ?」