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104/123

104

その104です。

「あひィ……ッててててたぁ」


 情けなく呻き続ける泰地だが、その割には余裕がある印象だ。脇腹からの出血量は相当なものなのに、包丁で指をざっくり切ったくらいの痛がり方である。



 ぴるるが彼のもとへ慌てて走り寄る。


「大丈夫ですか、魔王殿?」


「ルデルはくらを失うほど間抜けではないのだ。それより向こうの決着に注目しておくのだ」


 魔王サマはぴるるだけではなく泰地にも注目するように促したようだが、泰地はそれどころではない。生まれて初めて、こんな大量に出血するような怪我をしたのだ。というか、捻挫くらいならともかく、骨折すらしたことのない少年にとっては、ショックなんて言葉では足りないほどの混乱が発生していた。


 なんだかんだで、公安の仕事をする以上は多少なりとも怪我をするのは当然だとは考えていたが、どこかで「魔王サマが守ってくれるだろ」と甘えがあったのは事実だ。実際、戦闘になった時はサポートしてくれていたのもそれを助長した。



 結果はご覧の有様だ。



 加えて、泰地は意識敵に必死で除外しているものの、無意識化ではある光景が鮮明に記録されていた。


 あの少年を中心に黒い稲光のようなものが四方八方へ奔り、跳ね回り、眠っていた子供たちの身体を次々に寸断していく地獄のような光景を。


 様々な感情が入り乱れ、何かが身体の中で爆発しそうなのを傷の痛みに転嫁していた泰地だったが、砂糖が水に溶けるように痛みはあっさり喪失してしまう。


(また魔王サマか……)


 慣れねばならない、諦めが早い方がいいとは重々承知しているが、それでも少年は落胆してしまう。ルデルが甘やかしているわけではないと分かっているので尚更だ。




 そんな彼の耳に、タユーの震える声音がクリアに飛び込んできた。


「ウソだったのかよ。親に捨てられたことも、冬の寒い中で弟が死んじゃった話も、拾われた先で奴隷のように扱われたことも、三人の友達となんとか逃げ出したってことも、そのうち一人が捕まってボロクズのように河原に捨てられてた話も……」


「ああ、それは本当だよ。いちいちそんなウソを考えるほど暇じゃないし」


「じゃあ何で! 友達もこの中にいたんだろうが!」


「何でって、俺だけが仙術を使えるって分かったからに決まってるじゃないか。今まで殴られ奪われてばっかりだったんだから、俺が殴って奪ってどうして悪いんだよ? 黙ってガマンして許してやれってか? アホらしい」


 迷いや惑いのない解答に、タユーは「そうかい」と小さく頷く。そして、背中に担いでいた黒い和傘を握った。


本日は、もう一編更新させていただきます。

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