103
その103です。
一瞬の出来事だった。
連れ去られた経緯やこれからの不安などを嗚咽混じりに切々と訴えてくる少年に同情してしまうタユーと榊が、唐突に身体が浮く勢いで突き飛ばされる。
「がッ?」
壁に強かに打ちつけられ、二人は呼吸が詰まってしまう。だが、文句を並べる余裕はなかった。
次の刹那、少年を中心に床が妖しい輝きを放ったかと思いきや、視界が真っ赤に染まる。
「なぁっ?」
驚く暇を与えず、タユーたちのすぐ脇に何かが転がってきた。
「ぐえ……いてぇ……痛いたいたいッ……」
それは、全身――特に右脇腹から激しく血を噴き出しのたうち回る泰地だった。他にも、先ほどまではなかったはずの液体やら肉塊やらが、四方八方に撒き散らされている。
なにが起こったのか、などと考えようとすらできないタユーだったが、部屋の中央付近に立つ人影を見て、ようやく現実感が戻ってきた。
榊は舌打ちしながら拳銃を構える。
「お前が組織の構成員だったのか?」
「そうさ。組織は才能ある者を拾ってくれる。それに、『オシゴト』に必要なのはコドモだけじゃないんだぜ?」
ニヤニヤと唇を歪ませる少年。つい数秒前に泣き顔を見せていたのと同一人物とは信じられない変貌だ。
拳銃に威嚇の効果があるのか分からないが、榊は少年――敵の胸に照準を合わせる。
「なぜ子供たちを殺した? その姿は魔法で変装してたのか?」
「いいや? 僕は僕のままさ。つか、大人が子供に化けれるなんて、そんな便利な術があるわけないじゃないか。どっちにしろ、官憲の手が伸びてきた時点で組織はオシマイさ。なら、僕がいたって分かる痕跡は全て消す必要があるだろ」
本来の予定では保護された先で一暴れした後に雲隠れする予定だったのだけど、と楽しそうに語る少年。子供らしい浅知恵なのか狂気ゆえの自信なのか、にわかに判断できない。
(組織の一員と考えて間違いないだろう。しかし、洗脳されている可能性もあるか――)
相手が相手だけに迷いが生じてしまう榊だが、その構えていた拳銃を強引に下ろされる。
「…………」
ずい、と前に出たのは無言のタユーだった。
ちょっと急展開になりました。