102
その102です。
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「故障ですか?」
たっぷり一分は待ってから、泰地は控えめに質問する。
「いや、たぶん最後の条件に引っかかったんだと思う」
最後の条件ン~、と訝しむタユーに、榊は今までより少し声量を大きくして答えた。
「つまりだ。この魔法陣はかなり簡略なものだから機能が非常に限定されているし、使用可能な条件がいくつもある。さっきも色々と説明したけど、最大の問題点は転送する対象に意識があるとダメって点だ」
「いしき?」
「そう。だから、生物を送る時には、気絶させたり眠らせておく必要がある。で、今ので送れないってことは――」
言葉を切って寝ている子供たちを一瞥する榊。
沈黙は数秒で破られた。
「ご、ごめんなさない……」
か細い声とともに、一人の少年が起き上がった。
狸寝入りかよ、と肩をすくめるタユーだが、少年の気持ちを察することはできる。
何の前触れもなく見張りの大人たちや周囲の子供たちが眠り始め、訳の分からない人間たち(と魔王サマと猫)が踏み込んできたのだ。寝たふりをするのが賢明と考えてしかるべきだ。
「君はあらかじめ寝そべっていたのかな? それなら、催眠ガスをあまり吸い込まなかったんだろう」
さてどうしよう、と榊は顎に手を当てて考え込む。
転送そのものは可能だが、彼一人を残すのは厄介だ。部屋に残しておくのは不安であるし、ここグワンセンから脱出させても行き場があるのか分からない。かといってこのまま探索に同行させるなんてありえない。
むむむ、と少年の前で考え込む榊と「しっかりしろよ」とその背中を叩くタユーを尻目に、ぴるるが泰地の足をちょいちょいとつついた。
「申し訳ありません、魔王殿、よろしいでしょうか」
「ウム。言わんとしていることは予想できるが、遠慮せず言ってみるのだ」
「は。ありがたき幸せ。先ほどから気になっていたのですが、あの四人の見張り役たちは、なぜ武器を持っていなかったのでしょうか? 年端のいかぬ者たちが相手とはいえ、武器を持っていれば無言の圧力になるはずなのに」