100
その100です。
……約三十分後。
「よーし。そろそろ効果が薄れた頃合いだ。いくぞ」
榊の呼びかけで、一同は問題のお部屋の扉の前に立つ。
ドアのすき間に差し込んでいた発煙筒らしき何かを抜いて懐にしまった榊が改めてドアを大きく解放すると、わずかに柑橘系の香りが泰地たちの鼻孔をくすぐった。
部屋の中は、完全に沈黙している。はっきりと表現するなら、中にいた二十五人ほどの人間は余さず深い眠りを貪っていた。
そう。榊が用意していたのは催眠ガスを発生させる道具だ。筒から噴出したガスは睡魔となって人々に襲いかかった後、二十分から三十分前後で無力化してしまう。
法令上は「化学兵器」に分類され、人間に麻酔を施すのと同様の効果から「医療行為」に分類されるため「実用」はされていない。
「ま、異世界なら法の目が届かないって体でね」
自身が法の目だろうとツッコミたいが、戦わずに済むのならそれに越したことはない。
さて、と部屋を見渡すと、見張り役らしき大人が四人と小学生くらいの子供が二十人くらいが眠っている。
まずは大人たちを縛りあげて部屋の隅へ転がす。けっこう手荒に扱ったのだが、起きる気配がない。……逆に不安になってしまうのは、泰地が心配性ゆえか?
「それで、どーすんだよ。この人数を脱出させるのは目立つし、かといって置いていったら元も子もないし」
タユーの懸念はもっともだ。
約二十人の子供の脱出を優先させれば他の組織構成員たちを逃がしてしまうだろう。かといって一緒に行動するなんて論外だし、この部屋に残しておいたら、後に人質とされかねない。
「君たちが組織の連中を捕まえる間に、私が子供たちを脱出させるか?」
「いや、子供たちが素直に従ってくれるとは限らないし、そもそも俺たちだけじゃ道に迷って組織どころの話じゃなくなる」
ぴるるの提案は建設的だが、榊は現実面で反対した。そりゃそうだ。こんな九龍城砦もどきの建物を案内なしで探索するなど無謀が過ぎる。
「問題ない。当方にぬかり無しって話だ」
また榊が変なモノを取り出した。白くて細長いそれは、どう見てもチョークだった。
大台です。