プロローグ
かつてカロストに、最強と謳われた魔法使いの種族が二つあった。これはその種族の話。
この二つの種族は対をなす種族と言われ、元は同じ種族から別れたのだと伝えられていた。あまりに強すぎる力を持った魔法使いを神が恐れ、二つの種族に分けたのだと。しかし、二つに分けられたとはいえその力は凄まじく、他の魔法使いにとって十分に脅威となるほどの力を持っていた。
二つのうち片方は、魔法を愛した種族と呼ばれた。彼らは魔法の分析を得意としており、彼らに解読できない魔法は無いと言わしめるほどだった。
彼らは一様に赤い髪を持っており、それはまるで燃え上がる炎のようである。一族には一人の女王がおり、女王の下では魔力の大小や年齢に関係なく全員が平等だった。
彼らの最も得意とする魔法は催眠魔法と幻覚魔法。相手を翻弄し、意のままに操ることを非常に得意としていた。彼らと戦った者はそうと気づかぬまま操られ、気づけば負かされているのである。
燃えるような赤い髪と、避けるどころか当たったと気づくことすらできない高度な魔法の技術を持つ彼らは他の種族から赤い牙と例えられ、その一族はその力を持って繁栄した。
もう一つの種族は魔法に愛された種族と呼ばれた。彼らは魔法に愛され、そして魔力に愛された。彼らはたとえその理屈が分からずとも、どんな高度な魔法でも一回見ればすぐに真似ることができたのだ。そのため、彼らに扱えない魔法は無いと言われていた。
彼らの魔法制作の才能は他の種族と比べても群を抜いており、誰も知らないような魔法を生み出しては、その技術を持って一族を繁栄に導いた。
彼らは浮遊魔法も得意だった。なにせ扱えない魔法は無いと言わしめるほどである。その一族はたとえ子供であっても浮遊魔法を使えるのは当たり前で、その速度も非常に早かった。その速さから一族は白い矢と恐れられた。
白と言うからには、彼らはおそらく白い髪をしていたのだろう。だが、それを証明できるものはもはや何もない。
繁栄を極め、最強の魔法使いと恐れられたこの一族はある時、たった一日にして滅んでしまったのだ。それだけではない。それと対をなすとされた赤い髪の一族も、ほぼ同時期に急激に勢力を失ったのである。
彼らに何が起こったのか、それはもうはるか昔のことで、当時のことを知る者は一人としていない。
赤い髪の一族は勢力を失いつつもなんとか滅亡せずにすんだ。今は少数民族として、カロストのとある国の山奥に小さな村を作って生活している。
だが彼らは過去の栄光を忘れたわけではない。その一族には今、とある噂が広がっていた。
この世界のどこかに、白い一族の生き残りがいる。その者と交わる時、一族は過去の力を取り戻し、再びこの世界の脅威として蘇る、と。