後日談
オレンジリリィの展望
うちの学校の有名人って言ったら、生徒会長も全国常連のサッカー部のエースも差し置いて、俺のクラスメイトだ。何せあのカップルときたらどこへ行ってもべったべったに引っ付きあうもので、俺たちは常に砂を吐き続けているようなもんだった。なんだこの苦行。
俺にしてみたら、小学校入学の時点であの二人と同クラスに分けられてしまっていたことが最大の不幸で最大の幸運だと思う。クラス分けを担当した教師を恨んだことも二度や三度じゃないが、まあそんなこと言ったらその教師だってあの二人には苦労させられただろう。
「見て、橘野くん。ヒロくんがくれたの」
にこにこと、心底喜んでいるのが伝わる笑みを浮かべながら、愛弥ちゃんは新婦さんがするみたいに左手の甲を俺に向けて言った。
……うん、可愛い子が可愛い顔してるのはいいんだ。ただその横で「さあ思う存分砂吐けよ」とばかりにドヤ顔してる広弥はいっぺん天に召されてくださ────いや召されたら愛弥ちゃんが怖いからやっぱなしで頼む。
「ワーヨカッタネー」
他に何を言えっていうんだちくしょうが。
まあ、幸せそうなのはいいんが、なんというかこの二人、本当に面倒なタイプの人間だから。その二人がカップルになるってことはつまり面倒臭さも倍になるわけだ。それでもって二人が何でも言える相手って俺しかいないんだよなあ。俺、生きていけるかなあ。
こうやって二人で、わざわざ俺のところに来て報告してるのだって、俺が二人のあれやこれやを十年に渡って知っていて、口にしない部分まである程度察してて、加えて余計な批判をしないからだ。
こいつらの面倒臭さは何かって聞いたら、大半の人間は「鈍さ」だと言うだろう。幼馴染ゆえに双方恋愛感情を持ちながら、お付き合いへ発展しないその鈍さ。実際のところはそんなもんじゃないのだが、それこそそんな実情は二人の親だって知らない。だって、二人にとって一番重要で一番必要なのは親じゃないのだ。
「つーかよくやったもんだと思うわ」
「お前が焚き付けたくせによく言う」
「所詮アドバイスじゃん。本気にしたのはそっちだろー」
わざとけらけら笑って広弥の足を蹴れば、舌打ちと共に肘が脇腹を抉った。
「ぐふっ」
「はっ」
「あ、もう、怪我しちゃうよ」
愛弥ちゃんはそう言いながらも広弥を止めようとしない。ついでに怪我の心配をしている相手は俺じゃなくて広弥である。まあ分かりきったことだ。彼女にとって別に俺は関心を払う相手じゃないのだ。嫌われてはいないのだろうが、特別好かれてもいない。言うなら俺は広弥の付属品なのだ。広弥と仲の良い俺に不快に思われるのは避けたいが自分から好んで関わる気はない、くらいのものか?
にしたってずいぶん歪な関係だと思う。十年、俺たちはなんだかんだと一緒にいたわけだ。なのに根本的に相容れていないのは笑い飛ばす以外にどうしろと。
「あれだ、あれ。君らさァ、卒業と同時に結婚しそう」
「するか?」
「してもいいけどその前にプロポーズちょうだい?」
「おっと待ってくれよ冗談だっつーの! 俺の目の前ではやめて!」
だけどそれでも、関わらないでいるのは無理なんだろう。最初に言ったように、こいつらと出会ったのが俺の最大の不幸で最大の幸運なのだ。この上なく面倒だが、この上なく面白い。二人は死ぬまで一緒にいるんだろうなあって、簡単に想像できる。むしろ離れ離れでいるのが想像できない。もしそんなことになったら迷うことなく心中してそうなカップルだ。
「友人代表スピーチは頼むな」
「はァ? いやしますけどー? しますけどちょっと唐突すぎるかな広弥くーん?」
「お母さんたち号泣させるようなやつでよろしくね、橘野くん」
「うん愛弥ちゃんもちょっと待とう?」
ああでも俺、こんなんで本当に生きてられっかねえ。
オレンジリリィ……「華麗」「愉快」「軽率」
※橘野の言っていることと広弥・愛弥の言っていることは主観なので違います。食い違っていても気にしないでください。




