47話
『今すぐボーリング場近くのコンビニに来い』
武司からは、短くそうメッセ―ジが送られてきていた。
誠実は武司に何かあったのだろうかと若干心配になり、近くのコンビニに向かう。
歩いて5分もせずに、コンビニにたどり着いた誠実は、何やら近くの電柱でコソコソする武司を発見する。
「おい、どうかしたか?」
「あ! やっと来たな! ちょっと隠れて、あのコンビニを見てみろ!」
「はぁ? 一体何が……」
誠実は武司に言われるがままに、コンビニの方を見る。
すると、驚くことにそこには綺凛がいた。
しかも一人ではない、何やら爽やかな感じのイケメンと一緒だった。
「な、ななな!! なんだあれ!!!」
「落ち着け、俺も驚いたが、あれが恐らく山瀬さんの……」
「こ、婚約者」
「イケメンだな」
「うぉ! 健、お前も呼ばれてたのか」
誠実がコンビニに夢中になっていると、後ろから健がやって来た。
先ほど解散したはずなのにも関わらず、物の数分で再集合した3人は電柱に隠れながら、綺凛と男の様子を伺う。
「健がイケメンって言うと、むかつくな、お前もだろうが」
「そこら辺のイケメンと俺を一緒にするな、俺は残念なイケメンという事を自負している」
「イケメンは認めるんだな……ってか、そんな事よりも! あれって……」
誠実は綺凛の方を見ながら、低いテンションで健と武司に尋ねる。
「デートではなさそうだが……」
「一緒にコンビニというのも何か怪しい……もしかしたら同棲してるとか?」
「いやいやいや!! 俺ら高校生だよ? そういうのはまだ無いんじゃぁ……」
「でもよぉ、婚約者だったらありえそうだよな? しかも相手は年上っぽいし」
言われて誠実も確かにとそう思う。
見た感じでは、相手の男は身長も高い上に、足も長い、おまけにイケメンで見た目だけなら、申し分ない。
「誠実……ドンマイ」
「……ドンマイ」
「それを言うためだけに、俺をここに呼んだのかよ!!」
「諦めが付くかと思ったんだよ。あれ見て、踏ん切りも付いたろ?」
武司からそう言われ、誠実は考える。
確かに、もうここまで知ってしまったら、誠実には勝ち目がない。
本当に終わりなんだなと誠実はそう思っていた。
「……まぁ、確かにな………あれに俺が敵う訳もねーしな」
わざと笑って見せる誠実。
本当は今すぐにでも泣いてしまいそうだった。
そんな誠実に、健がいつもと違う様子で話始める。
「俺はそうは思わない」
「健?」
「あいつはなんか気に食わない、それに性格なら誠実が勝ってる気がする。まぁ、実際わからないけど」
「いや、気を使わなくても俺は……」
「違う、大体だ山瀬さんは性格が悪い上に、人を見る目がない。誠実、お前は振られて正解だ、あんな女のこ……」
「健!!」
健の言葉に、誠実は大声を上げる。
綺凛の事を言われ、腹がたった事もあったが、誠実は健の言っていることを一方的に責めることが出来なかった。
「……もう、終わったんだ。やめようぜ、こういう事を言うの……」
「……悪い」
気まずい雰囲気になってしまった3人。
そんな空気を換えようと、武司は笑いながら2人に言う。
「ご、ごめんな、なんか俺が呼び出しちまったせいで……あ、あれだ! もう今日は帰ろうぜ! 誠実もなんか悪いな、良かれと思ったんだけど……」
「気にするなよ、ウジウジ引きずってた俺が悪いんだ」
「いや、俺も余計なことを言った……今度、ライブに連れて言ってやるから許せ」
「どうせ、アイドルのライブだろ?」
「当たり前だ、それ以外何がある?」
悪くなった空気が、物の数分で元通りになる。
この3人の良いところで、喧嘩やもめごとが長引くことがあまりない。
だからこの3人は、互いを信頼している。
「ま、あれだな、結局は武司が余計なことしなければな」
「こんなことにすらならなかった」
「うっ! わ、悪かったって言ったじゃねーかよ! お前らずりーぞ!!」
「泣くな泣くな、冗談だって」
涙を浮かべる武司に、誠実と健は笑顔でそういう。
今度こそはとその場で3人は解散し、それぞれ帰路についていた。
「あ、コンビニ寄ってくればよかったなぁ~、アイス食いたかったし……もう居ないよな?」
誠実はコンビニから少し歩いたところで、ふとそう思う。
綺凛をコンビニで見かけてから、もう5分以上経過していたため、流石にもう居ないだろうと思い、誠実はアイスを買いにコンビニの方に戻った。
「金が無い時に限って食いたくなるんだよな~」
誠実は無事、コンビニでカップアイスを購入し店を出た。
幸いなことに、綺凛はコンビニにはおらず、安心して買い物ができた。
アイスが解けないうちにさっさと帰ろうと思い、誠実は急いで帰宅する。
しかし、その途中、誠実は先ほど綺凛と一緒に居た男を見かけた。
「ん? あれって……」
男は狭い路地の方に入っていった。
誠実はなんだか気になってしまい、あとをつけて路地の中に入って行った。
すると、路地に入ってすぐの曲がり角に男は入って行った、誠実もバレないようにと最新の注意を払いながら後をつけると、曲がった先には男と見るからにガラの悪い男たちが数人たむろしていた。
「駿、もう良いのか?」
「あぁ、親父にも困ったぜ、なんで俺が結婚しなきゃいけないんだか」
「でも、かなりの上玉じゃん! 羨ましいぜ~」
「あぁ、顔は良いし、スタイルもなかなかだ、だからあいつの前では優しく振舞って、懐くようにしてんだよ」
「そうやって今まで、何人落としてきたんだよ?」
「あ~、覚えてねーな。ま、覚える必要もないだろ? それより、あの子はお前らに回してやるよ」
「マジかよ! でも良いのか? 大事な婚約者だろ?」
「んなもん、親父達が勝手に言ってるだけだっての、あの子は俺には逆らえねーから、好きにしていいぜ。そういうのを見るのも面白そうだ」
「駿さん鬼畜すね~、そういうところも尊敬します!」
誠実は話を聞いていてすべてを理解した。
駿は綺凛が思っているような男ではない、最低な野郎だ。
誠実はどんどん怒りがこみあげてきた。
綺凛はこの男のために、今まで告白を断り、中学では辛い目にも合ってきた。
なのに、この男は……。
誠実は気が付くと、大声で叫んでいた。




