20話
「はぁ……なぁ、どうするべきだと思う?」
「何がだよ?」
「だから、昨日の部長の件だよ…」
「だから言ったじゃねーか、少し待ってもらえよ。お前、まだ気持ちの整理も何もついてないだろ?」
誠実の中で綺凛を好きな気持ちは変わらない。
諦めはしたが、それはまだ昨日今日の話であり、そう簡単に次の恋には行けない。
「うーん……やっぱりそれがいいのかな……でも、そのあとって絶対気まずくなるよね?」
「それは振ったとしても一緒だろ? むしろ、振ったらもう一生元の関係には戻れないかもなぁ~」
「い、嫌なことを言うなよ……でもそうだよな……はぁ……どうしよ」
告白の返事を待ってもらうのはなんだか気が引ける、かといって断るのもなんだか違う気がする誠実。
事実、自分が沙耶香の事をどう思っているのかよくわからなかった。
「俺は少し考える時間をもらうべきだと思う」
「なんでだよ、健?」
健はスマホを操作しているが、会話にはしっかり参加してくる。
話し始める健に誠実と武司が注目する。
「お前、山瀬さんに告白してるとき、何を思いながら告白してた?」
「えっと……、自分を見てほしかったって言うか……自分をもっと知ってほしかったっていうか……まぁ、一番はもっと仲良くなりたかったのかな?」
「それって、今の前橋と同じなんじゃねーか?」
「え?」
考え込む。
告白するときの気持ちを誠実は誰よりもわかっているつもりだった。
何せ九十九回、同じ女子に告白をしたのだ告白する側の気持ちは痛いほどわかる。
「まぁ、正直。前橋の気持ちは、前橋にしかわからねーよ、でも準備も何もせず、思わず告白しちまった前橋は、きっと昨日の事を後悔してると思うぜ?」
「まぁ、誠実が泣かせて、言わしちまったんだもんな~、きっともっと仲良くなってから告白したかっただろうに……」
「お、俺が言わせた訳じゃ……」
二人の言葉に誠実は改めて思う。
沙耶香からの告白を気持ちの整理がつかないからとあっさり振ってしまうのは、かわいそうな気がした。
「確かに健の言う通りかもしれない……折角好意を持ってくれてるわけだし、ちゃんと考えてあげないとだめだよね……」
「何も考えずに、九十九回も告白するような馬鹿には言われたくないだろうがな」
「そ、それは置いといて……ちゃんと考える時間をもらうよ。やっぱり、好きだって言われたのはうれしかったし、それに部長にだって、きっとその方がいいだろうし」
誠実は心を決めた。
今までは綺凛の事しか考えず、綺凛のために学校に来ていたようなものだったが、今はその必要はない。
しっかりと沙耶香の事を考え、答えを決めよう。
誠実はなんだかんだ言っても、ちゃんとしたアドバイスをくれる友人二人に感謝しながら、放課後の回答を決めた。
「なぁ、そんな事よりも廊下の方が騒がしくないか?」
「そういえばそうだな、何かあったのか?」
話に夢中だった三人は気が付かなかったが、廊下の方では何やら騒ぎが起きていた。
三人は廊下の方を見に行くと、そこに一人の女生徒がいた。
「なぁ、なんかあったのか?」
「ん、あぁ、三馬鹿か……」
「「「一括りにすんじゃねぇ!」」」
誠実たちはクラスの中では「三馬鹿」と呼ばれることが多い。入学した時から何かと三人でいることが多かったのと、全員どこか残念な一面を持った馬鹿であることから、クラス内ではそう呼ばれていた。
「んで、何があったんだ?」
「アイドルか?」
「健、アイドルはうちの学校にいない……」
興奮しながら馬鹿なことを言う健に、誠実は冷静にツッコミを入れる。
三馬鹿と一括りにしクラスメイトは三人に話し始める。
「あながちアイドルってのも間違いじゃねーよ。二年の蓬清先輩がなんか知らねーけど、一年のフロアにいるんだよ!」
「ホウセイ? 誰それ?」
「おいおい、誠実知らないのか? 蓬清栞は二年の中ではトップクラスに可愛いって評判だぜ? それに財閥の令嬢で、それを鼻にかけない優しい性格も魅力な人だ!」
「武司、お前ってそういう情報、どこから仕入れてくるの?」
当たり前のように説明し出した武司に、若干呆れる誠実は続きを聞く。
「成績もよくて、教師からの受けもいいらしい。生徒会の役員もしているらしく、校内美少女ランキングではトップ10に入る女生徒だ」
「なぁ、この間から言ってるそのランキングってなんだ? 順位はうやむやなのか?」
「トップ10にランキングされるほどだと甲乙つけがたくてな、順位はないんだ」
「なんだよ、その理由。てか、お前が作ってたの!?」
武司が前から何かをいそいそ作っているのは知っていたが、まさかそんなものを作っているとは思わなかった。
呆れ果てた誠実は武司の将来を心配しながら、興味のない素振りでスマホを操作する健に話を振った。
「健、武司ってそういえば馬鹿だったな……」
「何言ってんだ、お前もだろ?」
「いや、三人全員だっての……」
先ほどから話をしているクラスメイトの言葉に健は異義があるらしく、スマホを操作するのをやめて、言い返す。
「心外だな、この二人はともかく、俺は常識人だ二馬鹿プラス天才に訂正しろ」
「「なんでお前だけ馬鹿から脱却しようとしてんだよ! お前も馬鹿だろ! このアイドル馬鹿‼」」
健の言葉に対し、誠実と武司は声を上げて文句を言う。
聞いていたクラスメイトはそんな様子を見て、肩を落としてつぶやく。
「そういうとこが、三馬鹿なんだよ……」
廊下の騒ぎを見に来たはずなのに、三人はいつの間にか騒ぎを起こしている。
そこへ噂の女生徒がやって来た。