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99回告白したけどダメでした  作者: Joker
海と水着と誠実の答え
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176話

「海が近いからかしら……良い風ね……」


「うん、街よりも風が通って、良い気持ちだね」


 二人はならんでベンチに座りながら、海風を感じていた。

 気温は高いものの、風のせいか、そこまで暑さを感じない。

 風でなびく髪を綺凜は手で整える。

 そんな彼女の仕草に、誠実は見入ってしまった。

 綺麗な瞳に、さらさらの髪。

 誠実はそんな綺凜を見ながら思う。


(この人を諦めるなんて瞬間が、いつかは来るのだろうか……)


 そんな事を考えていると、電車がやってきた。

 綺凜と誠実は、電車に並んで乗り込み、ボックス席に座る。

 電車の中は空いており、車両には誠実達を含めても5、6人しか人が居ない。


「雨が上がって、今日は良い天気ね」


「そうだね、雲一つ無いよ」


 窓の外から空を見て、二人はそんな他愛も無い会話をする。


「そう言えば、灯台はどうだった?」


「楽しかったわ、鈴ちゃんと古沢君が騒いでたけどね」


「あいつらは、今回の旅行で一番騒がしかった気がするよ……全く」


「でも……楽しかったわ……こういう経験したこと無かったから」


 笑顔で言う彼女を見て、誠実もふと笑顔になる。

 前の関係では、こんな彼女を見ることは出来なかっただろう。

 この笑顔を見れただけでも、誠実は頑張ってきたかいがあったと思った。

 しかし、誠実が見たい綺凜の笑顔はこの笑顔では無い。


「また、来ような」


「そうね、また……ね」


 誠実と綺凜は、そう話しながら二人、電車にのって街に帰って行った。






「ただいま~」


 誠実が帰宅したのは、丁度お昼を過ぎた辺りだった。

 家には誰の気配は無かった。

 みんな出かけているのだろうと思い、誠実は自室に向かい、荷物を下ろす。


「あぁ~疲れた~」


 なんだかんだ言っても、旅行は疲れる。

 そんな事を思いながら、誠実は久しぶりの我が家の空気を感じ、ベッドに横になっていた。 段々と眠気が襲ってくる中、隣の部屋から物音がするのに誠実は気がついた。


「ん? 美奈穂いるのか?」


 誠実の隣の部屋は美奈穂の部屋だ。

 美奈穂も今は夏休みで、基本は家にいる。

 しかし、モデルの仕事が入っているときは別だ。

 誠実は居るなら、丁度良いから土産に買ってきた貝殻の髪留めを渡してしおうと、誠実は美奈穂の部屋に向かう。


「美奈穂~いるか~?」


 コンコンとノックをした後に、誠実は声を掛ける。

 しかし、返事は無い。

 もしかしたら寝ているのかもしれないと思い、誠実はすぐさま部屋に引き返そうとした。

 しかし、誠実が引き返そうとした丁度そのとき、美奈穂の部屋のドアが開いた。


「お、おかえり……おにぃ……」


「なんだ、居たのか……ただいま、お前何やってたんだ? 汗もそんなにかいて」


「な、何でもないわよ!! それで何よ! なんか用!?」


 急に怒り始める美奈穂に、誠実は若干驚きながら、お土産の髪留めを手渡す。


「ほらよ、土産だ」


「え、あ…ありがと……気が利くのね……」


「まぁ、バイト紹介して貰ったりしたしな……恵理さんの件でも迷惑かけたし…」


「何? キーホルダー?」


「いや、髪留めだ、お前に似合うと思ってよ」


 美奈穂は誠実の居る前で、お土産の袋を開け中身を取り出す。


「可愛い……」


「だろ? 俺って中々センスが良いだろ?」


「まぁ、それは置いといて……」


「置いておくな!」


「でも、これ本当に可愛い……おにぃ、付けて」


「え、なんでだよ、自分で付けろよな」


「良いから! はい」


 誠実は髪留めを渡され、美奈穂の後ろの髪を束ね、髪留めで留める。

 昔はこうやって、良く誠実は美奈穂の髪をまとめてあげていたので、すんなり出来た。


「お、中々似合ってんじゃん」


「そう? ありがと」


 嬉しそうに笑顔を浮かべる美奈穂。

 たまにはお土産を買ってきてやるのも悪くないなと、誠実は感じる。

 これなら、栞と恵理に買ったお土産も好調であろうと、誠実は一安心する。


「じゃあ、俺は一眠りした後に、恵理さんの家に行ってくるわ」


「え? なんで?」


「いや……ちょっと……な」


 誠実は美奈穂に聞かれ、そっぽを向きながら答える。

 そんな誠実を見て美奈穂は思った。


(怪しい……)


 そんな美奈穂の考えを読み取ったのか、誠実は一目散に部屋に戻る。


「じゃあ! お休み!」


「あ! ちょっとおにぃ!! もう!」


 美奈穂はまだ聞きたい事があったが、誠実が部屋に戻ってしまい、聞くことが出来ずに不機嫌になる。

 しかし、自室にもどり兄から貰ったお土産を見て、そんな気持ちはどこかに行ってしまった。


「えへへ……似合ってるって……」


 先ほどの兄の発言を思いだし、美奈穂はベッドの上で笑みを浮かべる。

 一方の自室に戻った誠実は、ほっと一安心していた。


「あっぶね~、この話を追求されるわけにはいかねーからな……」


 夏休み前に、誠実は恵理にある頼みをした。

 それは買い物に付き合って貰うという頼みだった。

 今日、恵理の家に土産を渡すついでに、その買い物の内容についても説明しようと思っていた誠実。

 なぜその事を美奈穂に知られては困るかと言うと……。


「お前の誕生日プレゼントの相談に行く、なんて言える訳ねーもんな……」


 そう、誠実は恵理に美奈穂の誕生日プレゼントの相談と、買い物に付き合って貰おうとおもって、海に行く前に買い物に付き合って貰う約束をしていた。

 女性の意見も貰えた方が良い上に、何より美奈穂と同じ仕事をしている人だ。

 仕事関連での欲しそうな物もわかるかもしれないと、恵理を相談相手に選んだのだった。

 誠実はスマホで恵理にメッセージを送り、あとで自宅にお邪魔しても良いかと尋ねる。

 返事はすぐに帰って来て、簡単に了承がもらえた。


「じゃあ、夕方の四時頃に……伺います……っと! これで送信!」


 誠実はお邪魔する時間をメッセージで送り、ベッドに倒れる。

 出かけるまでの残りの時間を誠実は寝て過ごそうと、誠実は目を瞑る。

 海の次は、美奈穂の誕生日、その後は栞の家に二回目の訪問。

 夏はまだまだ長そうだと感じながら、誠実は眠りの中に落ちていく。 

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