16話
「さて、食うか……ほんと、ご馳走様です」
「別にいいわよ。早く食べましょ」
誠実は腹が減っていたこともあり、遠慮なく料理に食らいつく。
やっと一息つくことができ、誠実は安心して食事を楽しんでいた。
「にしても、お前中学生のくせに、よくそんなに金持ってるな」
「知ってるでしょ、私がモデルやってるの。仕事してるんだから、当然ギャラだってもらうわよ」
言いながらドリアを口に運んでいく美奈穂。
モデルをやっているとは知っていても、どのような事をやっているのか誠実は知らない。
「ちなみに、どんなことするんだ? やっぱ立ってポーズを決めたりか?」
誠実のイメージでは、モデルはポーズを決めて立っているだけでお金が貰えるというイメージだった。
「そういうのより、体形の維持とか肌の管理の方が大変よ」
「それなのに、デザートまで食っていいのか?」
「それは別腹」
「同じだろ……」
よくよく考えてみれば、毎日のランニングや風呂上りのパックは必ずしている。
いろいろと努力しているだなと誠実は感心しつつも、一つ引っかかることがあった。
「ん? そういえば、モデルの仕事はただの小遣い稼ぎだとか言ってなかったか? なのに、なんでそこまで努力するんだ? 本気じゃないなら、少し手を抜いても……」
「わかってないわね私は仕事をやる以上、それで一生食っていく気がなくてもちゃんとこなしたいのよ。適当にやって文句を言われるのとか嫌だし」
「な、なるほど……」
なんだか話さなくなった間に、随分大人びたことを言うようになったと思わされた誠実は、自分の事を考え出した。
(美奈穂に比べて俺は……高校入って何をやってたかって言ったら、山瀬さんに振り向いてもらえるように毎日告白していただけ中学の頃から全く成長してないな……)
「ねぇ、あそこの子見て! すっごく可愛い~。お人形さんみたい!」
「ほんとだ! あ‼ あの子見た事ある! 雑誌のモデルやってる子だよ!」
誠実が考え事をしていると、斜め向かいの席の大学生らしき女性グループが美奈穂を見ながらそんな会話をしていた。
同性が見ても可愛いのだから、異性からならもっと可愛いのだろうと誠実は思いながら、女性グル―プの会話に耳を傾ける。
「あ、でも向かいの男って彼氏?」
「いや、違うでしょ? どうせ兄妹でしょ?」
「え! でも男の方はイケメンじゃないわよ?」
「普通より、ちょい上くらい? 似てないけどやっぱり兄妹じゃないのかな?」
(兄妹だよ! 悪かったな、似てなくて! 色々あるんだよ!)
誠実は少し気持ちを荒立てつつもモデルをやるぐらい可愛い妹と飯を食ってるんだから、自分がそう言われるのも当たり前かと思い、ため息を一つつくと食事に戻った。
「やっぱ、お前って可愛いんだな……」
「な、なによ! いきなり!」
急に可愛いと言われ、顔を赤くする美奈穂。
誠実はハンバーグを食べながら言う。
「いや、最近じゃお前と話す事もなくなったし、顔合わせれば睨まれてたし、最近のお前がなにしてるのかとか、最近お前がこんな大人っぽくなったのとか知らなかったからな。今日の事もあって、やっぱり俺の妹って可愛いんだなって思ってよ」
「な……何よ……気持ち悪い!」
「頼むから今日の俺には優しくして、もうおにぃのライフは、ゼロ通り越してマイナスなんだから……」
なんてことを話しながら、時間は進み、二人は食事を終えた。
あとは美奈穂が食後に頼んだパフェを待つだけとなり、二人はそれを待っていた。
「それで……お、おにぃはその……」
「ん? なんだよ? 金ならないぞ?」
「知ってるわよ……おにぃは諦めたの?」
「ん? あぁ……山瀬さんの事か……まぁな」
(急に呼び方を変えたかと思えば、今度は俺が諦めたかどうかの確認か……そんなに俺の失恋話が面白いのか? こいつ)
誠実はそんなことを考えながら答えた。
なんだか今日はあんなことがあった後だからか、美奈穂と普通に会話できているなと思う。
いっそこのタイミングで、今までなどあんなに仲が悪かったのかを尋ねることにした。
「なぁ、俺からも一ついいか?」
「何よ? 言っとくけど女の紹介しろって言っても無理よ」
「ちげーよ。……俺たちって……なんで今まであんな仲悪かったのかなって……」
「は? 別に悪くないでしょ?」
美奈穂は平然と答える。
思ってもみなかった回答に、誠実は美奈穂に再度尋ねる。
「いや、ちょっと待てよ! お前いっつも俺には冷たいじゃん!」
「そんなつもりなかったけど?」
「一切俺と会話しないし!」
「あんたも話しかけてこないでしょうが」
「一緒にお風呂にはいらな……ぶっ‼」
「それは当たり前よ!」
誠実の発言に美奈穂は顔を赤く染め、思わず誠実に平手打ちをする。
誠実は頬をさすって涙目になる。
「お、お前……手は出すなよ……もう、おにぃのライフはゼロ以下なんだから!」
「おにぃが変態みたいな事言うからでしょ!」
誠実は頬をさすりながら、席に座りなおす。
それと同時に店員がデザートを持ってやってきた。
見られていたと思った誠実だったが、パフェをテーブルに置くと店員は戻って行った。
誠実は安心しながら、少し耳を澄ますと……。
「ねぇ、やっぱりあの二人って……」
「別れ話で決定よ! だって平手打ちよ! 賭けは私が勝ったんだから、晩飯おごんなさいよ~」
(あぁ、そっちはそういう見方だったのね……)
他の客や店員に勘違いされながら、誠実と美奈穂は話を続ける。
「じゃあなんだよ……俺が勝手に仲が悪くなったと思い込んでただけか?」
「そうよ、私は別にあんたを気持ち悪いと思っても、そこまで嫌いではないわよ。順位で言うと、時計の次に好きね」
「どんな順位だよ! 絶対俺の順位低いだろ! なんだ時計の次って!」
そうは言いつつ、嫌われているわけではない事を知って、誠実は内心ほっとする。
目の前でおいしそうにパフェを食べる姿を見ながら、誠実は美奈穂ともっと日常の会話を増やそうと思った。