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99回告白したけどダメでした  作者: Joker
告白とそれからと……
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12話


「あぁん? なんだお前は!」

「てめぇ、やるってのか!」

「や、やるって……な、なにをですか」


 誠実は柄の悪い連中に絡まれていた。

 誠実はカラオケで歌った後、健と武司と別れて帰宅途中だった。


「あぁ~、二日連続はきついな……」


 二日連続の大熱唱で声をおかしくしながら、誠実は駅前の通りを歩いていた。


「はぁ~、なんだか今日は疲れたな……さっさと帰って寝よ……」


 すっかり疲れ果てた誠実は背中を丸めながら、家への帰り道を少し急いでいた。

 少し歩いたところで、誠実は昨日綺凛が絡まれていた路地に差し掛かった。


「そう言えば、昨日はここで山瀬さんの悲鳴を聞いたっけ……」


 まさかあんな事が実際にあるなんてなどと考えながら、その場で立ち止まり空を見る。


「はぁ~、振られたなぁ………」


 両手を上げ、大きく伸びをしながらつぶやく。


「あ~、漫画とかだと、昨日の事がフラグになって、最終的に結ばれるんだがなぁ~」


 しかし現実は漫画と違う。

 誠実は早く諦めがつけばよいのにと思いながら、再び足を進める。


「まぁ、もうあんな漫画みたいな事は起きないんだ………」

「やめて! 離して!」


 あんな特殊なイベントは現実でもう起きないだろうと思っていた矢先に、またしても女性の声が聞こえてきた。


「またかよ! もしかして、山瀬さ……」

「引っ張らないでください!」

「へへ、いいじゃねーかよ。俺らと遊ぼうぜ~」


 一瞬、また綺凛が絡まれて助けを求めているのかと思った。しかし、声をした路地にいたのは、全く知らない少女と柄の悪い学ラン姿の高校生が三人だった。


「違うのかよっ!」


 誠実は思わず状況にツッコミを入れてしまった。

 その声は意外に大きく、少女と高校生は「なんだこいつ…」と言いたげな顔で誠実を見る。


「神様の馬鹿野郎! そこは山瀬さんで、そこからフラグが立つんだろうが!」


 振られたショックとと溜まった疲れのせいで、誠実は思わずキレて不満をぶちまけた。


「はぁ~、俺ってついてねぇ……」

「なんだお前?」

「邪魔すんじゃねーよ!」

「あ……やっべ……」


 少し落ち着いたところで、誠実は自分の置かれた状況の大変さに気がついた。

 大声を出しすぎて、柄の悪い高校生に気が付かれ、囲まれてしまった。


「おい、まさかこいつ、この子を助けようとか思って出てきたんじゃね?」

「うっわぁ~、カッコいいねぇ~、でも俺らに勝てなきゃ意味ないよ~」


 誠実はまずいを通りこして、終わったと思った。

 こんなイベントが人生で二回起こった事でさえ奇跡だというのに、昨日のように上手く少女を助けられるわけがないと思っていた。


「ま、まぁまぁ。その子も嫌がってるし……ここは穏便に……」

「はぁ? 邪魔したくせに何言ってんだ? 丁度良い、俺ら金なくて困ってんだよ貸してくんない?」


 誠実は大変困ってしまった。

 結局今日のカラオケは、誠実のおごりになってしまい、すでに財布の中身は全くない。


「いや、金も無くて……」

「おいおい、嘘つくと為になんねーぜ?」

「あぁ、めんどい。こいつボコって財布取って、この女連れてどっか行こうぜ」


 誠実はなんかとんでも無い相談をしていると思いながら、状況の打開策を探す。

 少女の手は、不良の一人にガッチリつかまれている。

 狭い道なので、逃げ場も少ない。

 その二つを踏まえて、誠実は心の中で思う。


(これ……あかんやつや……)


 誠実は全く打開策が思いつかず、絶望する。

 しかも今日はなんだかもう、やる気も起きない。

 誠実はあきらめモードに入り、適当に柄の悪い高校生に言う。


「あぁ~、もう好きにしろよ、めんどいなぁ……」

「あ! なんだテメェ! その態度は!!」

「もうそう言うの良いから……さっさとして、良いから。ハイハイ、怖いこわーい。コレでいい?」

「お前……なめてんのか!」


 高校生の一人が誠実の胸倉をつかんで怒鳴る。

 しかし誠実は顔色一つ変えずに、あろうことか欠伸をしながら言う。


「ふあぁ~あ。もう帰って寝たいんだよ……いいから、その子連れてっていいから、さっさと俺を殴って解放してくれ」

「え! 助けてくれないの?」


 今まで黙っていた少女が誠実に向かって、驚きの声を上げる。

 そんな少女に誠実は……。


「人間、諦めが肝心だなって……そう思わない?」

「あなたは、何をしに来たのですか!」


 笑顔で少女に諦めろという誠実に、少女は思わず叫ぶ。

 この発言には不良達も戸惑いを隠せない。


「こ、こいつ…なんかキモイ…」

「うっせぇ! ほっとけ!」

「ほんと何しに来たんだよ……」

「ま、まぁ…でも本人がいいって言ってるなら、遠慮なく!」


 不良の一人が拳を振り上げ、誠実に殴り掛かって来た。

 そこで誠実は待ってましたと言わんばかりに相手の腕をつかんで背負い投げを決める。

 

「ぐぇ!」


 背中から落とされた不良は受け身もできず、思いっきり背中を打って痛がっている。


「て、てめぇ!」

「やっぱりやる気だったのか!」


 誠実はこれを狙っていた。

 強い男子が綺凛の好みだと知って、誠実は一時期柔道部に仮入部し、柔道の知識を持っていた。

 背負い投げを決めるには、相手の懐に入るしかないため、隙を狙ってわざとあんな発言をしていたのだった。


「まぁ……面倒なのに変わりないけど」

「テメェ! ふざけんな!」


 もう一人の男子生徒も誠実に殴り掛かって来た。

 誠実はまたしても落ち着いて、相手の腕をつかんで投げ飛ばす。


「うわぁ!」

「な……お、おまえ……」


 最後に残ったのは、少女の腕をつかんで離さない男子生徒だけ。

 誠実は強気の姿勢で彼にこう言う。


「怪我したくなかったら、さっさとその手を放して消えろよ」

「く、くそ!」


 誠実に言われた最後男子高校生は、走り去っていった。


(一度で良いから言ってみたかったんだよな……でも、よかったぁ~、あれで逃げなかったら確実に俺、やられてたよ~)


 誠実は恰好をつけながら、内心ではこう思っていた。

 誠実が柔道部に仮入部したのは、わずか数週間。

 たかが数週間でそこまで強くなれるはずもなく、今回の背負い投げも一か八かの賭けだった。

 咄嗟にやり方を思い出し、試してみたのが二つとも上手く決まったが、それはただの偶然なのだ。

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