11話
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誠実君に告白をした後の放課後。
私は屋上で、料理部の部員たちに迫られていた。
「み、みんな……なんで……」
私は顔を赤くしながら、みんなの方を見る。
みんなはニヤニヤしながら私に視線を集めており、口々になにがあったのかを聞いてくる。
「で、なんであんな面白い……じゃなくて、あんな展開になってるのよ?」
「今面白いって言ったよね? 絶対言ったよね!」
「いいから教えなさいよ~、なんであんな告白みたいな事を言ったのか」
「……じ、実は……」
私は先ほどの出来事をみんなに話した。
勢いあまってあんな事を言ってしまい、私はまだ後悔していた。
絶対に変な子だと思われてしまった。
「へ~、弱々しい伊敷君を見てたらつい言っちゃったんだ~、へぇ~」
「楽しそうね……志保……」
他のみんなも同じような反応だった。
「ついに部長が動き出した! やっと部長が行動に!」
などと言いながら騒いでいるが、むしろ私にすればすべてが終わってしまったと思っていた。
「全く、いつまであんたはしょぼくれてるのよ。まだ告白の返事も聞いてないのに」
「だって……絶対変な子だと思われたよぉ~。急に怒ったと思ったら、あんな事言って……」
「でも、よかったんじゃない? どっちにしろ言うつもりだったんでしょ?」
「そんなのもっと先だと思ってたよぉ~今日多分振られるから、その後でもっと伊敷君と仲良くなって、それから少しづつ距離を詰めて、一気に行こうかと……」
「料理部だけに、おいしくいただこうとしたって事?」
「な、なに言ってるのよ! そんなのは更に先の話でしょ!」
志保の少々下品な発言に、私は声を上げる。
他の部員はその様子を見て笑いながら、「志保、オッサンっぽいよ~」とか言っている。
みんな私の気持ちも知らないで、楽しんでいるのだ。
「いいもん、どうせ私の恋もここで……」
「何言ってんのよ、ようやく始まるんでしょうが?」
「でも……明日どんな顔で伊敷君と会えばいいか……」
「そのために私たちが来たんでしょ?」
「え?」
みんなニヤニヤするのを止め、私に微笑みかける。
「同じ部の仲間じゃない、困ったときは頼ってよ」
「そうよ。まぁ、まだ創部して三カ月も経ってないけど……」
「部長! 頑張って伊敷君をものにしよう!」
私はそこで気がついた。
みんなはもしかしたら、本当は私を心配して来てくれたのかもしれない。
どうしたらいいかわからなくて、困っている私のために来てくれたのかもしれない。
そう考えると、やっぱり仲間って良いなぁ~と思う。
「ありがとう……みんな……」
「気にしないでよ、とりあえずは伊敷君にさっきの事をどう説明するかよね…」
「そのまま明日にでも呼び出して、再告白っていうのはどう?」
「う~ん、多分まだ山瀬さんの事を引きずってるだろうから、ちょっと厳しいわね……」
「面倒だし、体育館倉庫にでも呼び出して押し倒せばいいんじゃない? 部長は大きなミサイルを二つ持ってますし」
「「「「確かに」」」」
みんなの視線が私の胸に集まるのを感じ、私はとっさに胸を隠した。
よく大きいと言われるが、大きくてよかった試しがない。
ブラのサイズはないし、デザインも少ない。
肩も凝って大変だ。
「伊敷君はきっとそういうとこで女の子を見てないわよ! 山瀬さん、小さいし……」
「そういえばそうだね、じゃあダメか~」
「「「う~ん」」」
再び考え始める料理部一同。
今後彼と付き合って行くうえで今日の出来事をどう説明するのがよいのか、私にもさっぱりわからない。
そんな中、何かを閃いた一人の部員が声を上げる。
「じゃあ、こういうのどう? とりあえず告白して、返事を後でもらうようにするのよ!」
「え? 後でもらうの? なんで?」
「そこで返事を貰ったら、かなりの確率で振られちゃうでしょ? なら、あっちにも考える時間を十分に与えるのよ!」
「わかったわ! 返事をするまでの間に、部長は伊敷君にアピールしまくって、自分に振り向かせるって事ね!」
「そう! 流石に告白された女子を気にしない男子はいないわ! 嫌でも部長に目が行くだろうし、意識する。あとは部長が積極的にアピールすれば、彼はもうメロメロよ!」
「「「「おぉ‼」」」
確かに良い作戦だと思う。
ただ、そんなにうまく行くだろうかとも思う。
でも今はその策が一番有効なのも確かなので、私はに乗ってみることにした。
「志保、私……頑張ってみる!」
「お! 沙耶香がやる気だ!」
「みんなもありがとう。私、絶対……絶対……」
私は伊敷君とずっと一緒にいたい。
そのために何をするべきか、私はみんなの意見を聞いてわかった。
応援してくれてもいる。
それなら私はみんなに宣言しなければいけない。
「伊敷君と既成事実を作るから!」
「「「そっちぃー!」」」
なぜか知らないが、部のみんなは叫んだ。
驚いたような視線を私に向けている。
彼とずっと一緒にいるためには、既成事実を作るしかない。
そうすればずっと一緒にいられる。
ずっとコンプレックスだったこの胸だって、活かして見せる。
「あ、あの……ぶ、部長……」
「どうかした?」
「ちなみに既成事実っていうのは……?」
「そ、そんな事……恥ずかしくて言えないよ…」
「「「じゃあ、なんで宣言した!」」」
みんなはなぜか疲れたような表情でその場に崩れ、顔をひくひくさせている。
「ぶ、部長って……奥手なんだか、積極的なんだか……」
「なんか、心配しなくても伊敷君を落とせそうな勢いよね……」
「っていうか、私は部長の今後が心配になってきた……」
先ほどの協力的な感じとは打って変わって、みんなやる気がない。
「な、なんでみんなそんな呆れたような視線を私に向けるのよぉー!!」
この日、私は決意した。
彼を絶対にものにしてみせると。
ライバルは強敵だが、一人だけ。しかも誠実君は振られている。
頑張れば、私の事を見てくれるかもしれない。
そう思うと、私はひとりでに興奮していた。
伊敷君との明るい将来を妄想すると、顔がニヤけてしまう。
「エヘ……エヘへへ……ウフフ」
「志保、なんか部長が怖い!」
「私ら、焚きつけすぎちゃったかも!!」
「ま、まずいわね……主に、伊敷君の貞操が……」