101話
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あっという間にテストは終わり、放課後になった。
テスト勉強したおかげか、誠実は手応えをつかむ事が出来た。
「ふぅ~後は明日だけだな……」
「なんだか、大丈夫そうだね」
「おう、赤点は回避できそうだぜ」
帰りの支度をしていると、沙耶香が誠実の席に近づき、笑顔で話しかけてきた。
誠実は沙耶香に笑顔で応える。
「明日でテストも終わりだね」
「あぁ、終わったら来週から夏休みだな……」
高校生になって初めての夏休み、花火大会や夏祭り、海にも行きたいと考えていた。
そのためには赤点を回避し、夏休みの補習から逃れなければならない。
「せ、誠実君は…夏休みはもう予定とかあるの?」
「ん? 予定は……あぁ、一つあるな……日程はまだ決まってないけど」
「じゃ、じゃあ……その……夏休み入って最初の日曜日なんだけどさ……わ、私とデートしない?」
「え! デ、デート?」
沙耶香のいきなりの頼みに、誠実は驚く。
生まれてこのかた、誠実は女性とデートというものをしたことが無い。
確かに、美奈穂と買い物に行ったり、美沙と二人で勉強をしたりはしたが、それはデートという形式ではない。
デートという名目が前提であるのとそう出ないのでは、全然違うと誠実は思っていた。
「だめ……かな?」
「あ、いや……全然良いけど……とりあえずは明日もテストだし……」
「そ、そうだね……焦らなくても良いよね? じゃあ、また今度詳しく」
そう言って沙耶香は顔を真っ赤にして誠実の元を去って行った。
なんだかテストを理由に、色々な物を後回しにしているようで、誠実はなんだかモヤモヤした。
「とりあえず、帰るか……しかも今日も一人かよ……」
帰ろうと思い、健と武司を探すと、すでに二人は帰ってしまったようで、教室内には居ない。
テストが終わったら、綺凜との関係やデタラメな噂を流した新聞部、それに武司と志保の関係、そして沙耶香とのデートと考える事は盛りだくさんだった。
「あぁ……なんかテスト終わった後の方が大変なんじゃ……」
そんな事を考えながら、誠実は自宅へ帰って行く。
*
「ねぇ、いっちゃん」
「どうしたの? 和波?」
料理部のメンバーである、森山伊智と丘部和波は、学校からの帰り道を二人で歩いていた。
伊智は髪を後ろで縛ったポニーテールの女性で、和波は背の低いツインテールの女性とだ。 どちらも料理部の部員であり、沙耶香と仲も良い。
「最近さ、しーちゃん変じゃない?」
「え、志保が?」
しーちゃんとは志保の事で、料理部での志保の愛称だ。
和波と伊智は志保と同じクラスで、良く話しをする。
「うん、ぼーっとしてるって言うか? なんか最近変だよ」
「言われてみれば……最近は学校が終わるとさっさと帰っちゃうし、何かあったのかな?」
「沙耶ちゃんは何もなさ過ぎてつまんないし……」
「でも、旦那の方は最近一部の女子の間で有名だよ? 受けなのか攻めなのかって、私は絶対受けだと思うんだけど! か、和波はど、どう思う?!」
「えっと……とりあえず落ち着いて、いっちゃん……」
興奮気味に話す伊智に和波が言う。
伊智は和波の言葉で落ち着きを取り戻し、元に戻る。
「ご、ごめんね……でも、あの噂が本当だったらうちの部長には勝ち目は無いよ? 部長の武器は女の象徴そのものだし」
「だよね……私も少しは膨らまないかな……」
そう言って和波は、自分のぺったんこな胸を触って絶望する。
そんな和波をフォローしようと伊智は言葉を掛ける。
「だ、大丈夫だよ! まだ和波だってチャンスが……」
「伊智みたいにCも有る人にはわからないよ……ぺったんこの気持ち……」
「うっ……で、でも! 肩こるし! 走るとき邪魔なんだよ!」
「男子には最高だね……」
「和波みたいなのが好きな人も!」
「ロリコンだよね?」
なんと言ってもマイナスに変換されてしまい、もうなんと言って励ましたら良いかわからなくなる伊智。
そんな時、前を見るとそこにはなにやらキョロキョロしている志保が居た。
「ほ、ほら! あそこに志保が居るし、志保にも意見を聞いてみようよ!」
「……私なんてどうせ幼児体型ですよ………」
「もう! むくれてないで、さっそく……え?」
伊智が、いじける和波を引っ張って再度志保の方を見ると、志保が男子生徒と一緒に歩いて行く様子が見えた。
「えっと……しーちゃんだよね? 隣の男子って……」
「ま、まさか……志保の彼氏?!」
話しをしながら、伊智と和波は志保の後をつけて行く。
顔が見えない為、志保が誰と歩いているのかはわからない。
「ま、まさか志保に彼氏が居るなんて……早速料理部みんなに!」
「ま、待ってよいっちゃん! まずは相手が誰なのか確認しないと!」
「そ、それもそうね!」
明日もテストがあることなどすっかり忘れ、伊智と和波は志保の後をつけて行く。
「しかし……どこかで見たような後ろ姿だね」
「そうね……私もあの雰囲気に見覚えが……ってえぇぇ!!!」
そんな話しをしていた時、男子生徒の方が志保の方に振り向いた為、顔を確認する事が出来た。
そしてその人物の顔を見て、伊智は思わず大声をあげてしまった。
「ちょ! ちょっといっちゃん! バレちゃうよ!!」
「で、でも! 和波も見たでしょ!? あれって……」
「うん……武田君だったね……」
「確か、この前はなんか険悪っぽい感じだったはずじゃ……」
「一体何があったんだろ?」
伊智と和波は、ファミレスに仲良く二人で入っていく、武司と志保を見送りその場を後にした。
そして二人は早速、この情報を料理部部員達に流す。
「まさか、部長以外に志保まで面白そうな事になってるなんて!」
「これは沙耶ちゃんに報告しないと!! テストなんてもう知らない!」
「ちなみに、和波……この前のテストどうだったの?」
「ギリギリ赤点回避!」
「情報流す前に、勉強しよっか……」
「……うん…」
冷静に考え、伊智と和波は明日もテストがある事を思い出し、家に帰って行った。
しかし、伊智と和波は部長の沙耶香だけにはと、今さっき見た事実をメッセージで送信する。




