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04 混沌の世界



「姫様、お茶の用意が整いました」


執事の声に私は我に返りました。

そういえば薔薇の香りに埋め尽くされたサロンで、みなさまとお茶を楽しむ約束をしていましたね。


「ありがとう、ベンジャミン」


燕尾服でイケメンの執事に、お礼を言いました。

傍らに控えたメイド服の侍女が、私の縦ロールの金髪と、これでもかとレースとフリルを重ねた花柄ドレスをサッと直してくれます。


「ごきげんよう、皆さま」


膨らんだスカートをわっさわっさ揺らして進んで行き、羽根のついた扇で口元を隠しながら、オホホと高笑いをします。


「姫、今日もなんとお美しい」

「姫、私からのプレゼントをお受け取り下さい」

「姫、あなたは世界の宝。結婚して下さい」


金髪や銀髪、青や緑の目のイケメン達が大挙して押し寄せ、私を褒め称えます。

まぁ、私は何もしていないのに。

美しいとは罪ですのね。


その時、入口の重厚なドアの前で、高らかにファンファーレが鳴り響きました。


「王子様のおなーりー」


キラキラを纏った金髪碧眼の超絶イケメンが薔薇の花束を抱えて入ってきました。


「姫、今日は一段とお美しい。今日こそは私と婚約して下さい」


王子様は薔薇の花束を差し出しながら、白い歯を光らせます。

私の前に跪いてそっと手を取り、指先にキスを落としてくれました。


「ちょーっと待ったぁ!」


入口から叫びながら、長い銀髪の同じく超絶イケメンが駆けこんできました。


「姫、それはなりません。今日こそはお話を聞いて下さるお約束。ぜひ私と婚約し、わが国においで下さい」


「あなたは隣国の王太子殿下さま」


隣国の王太子はものすごく大きなダイヤモンドの指輪を差し出しながら、プロポーズしてきます。


「なんだと、私が先だ。姫は私と結婚するのだ」

「いや、私こそが姫様を一番愛している」


二人の王子様が揉め始めました。


「姫様、大変でございます!」


イケメン執事が息を切らせてサロンに駆け込んでまいりました。


「なんですか、ベンジャミン。王子様の御前ですよ」


「きっ、北の大国が突如として攻め込んでまいりました。かの国の要求は領地でなく、姫様を王妃として連れ帰ることだと・・・」


「な、なんですってぇ!」


ふらりとよろめいたところを、二人の王子様に支えてもらいました。

そのままバルコニーに連れて行かれました。


「あれをご覧ください」

「北の国の軍勢ですね。しかし姫様を渡すわけにはいかない。戦争だ!」

「我が国も参戦するぞ!」


「そんな・・・いけません。私のために争わないで下さいませ」


よよよ、と泣き崩れる私。


真凛は心の何処かで、既視感を覚えていた。

(そういえばあったな、こんなゲーム。傾国の美女である主人公をめぐって、戦までおきるという・・・しかし私はこんな世界に転生したの?それはそれで困るというか)


軍勢の先頭を行く白馬には、黒髪の王子様が跨がっていました。

エキゾチックで美しい顔立ちをしています。


「おい」


イケメン執事が何を血迷ったのか、突然横柄な口を利きました。


「起きろ」


「まぁ、何を言うのベンジャミン。私はちゃんと起きているではありませんか。それに下々の者のような口を利くのはおやめなさい」


私は優しく執事を諭してあげました。


「さっさと起きろと言ってるんだ!」



雷鳴のような怒鳴り声に、真凛は夢の世界から叩き出された。





数分後。

目覚めた真凛は見知らぬ男と向かい合っていた。


「えーっとですね・・・とりあえず、どなたですか?」


目の前の男は、苦々しい表情で腕を組んでいる。


濃い茶色の髪に、淡褐色の瞳。角度によって緑がかって見えて美しいのだが、無造作にかけている黒縁の眼鏡のレンズのせいでよく見えない。

背はすらりと高いが、あまりがっちりとはしていない。どちらかと言うと文官タイプといえた。

一見すると素敵な人と言えるかもしれないが、いかんせん表情が怖い。


男がすっと片手を上げた。

するとバサバサと羽音がして、飛んできたカラスがその腕に舞い下りてきた。

真凛を迎えに来てくれた、三本足の八咫烏だった。


「そのカラス・・・あなたの?」


「そうだ。間抜けにも迷ったやつのために、放してやったんだ」


「それは・・・すみません。そうすると、あなたがアルファ様が遣わしてくれた方ですか?」


「不本意だが、そうだ」


彼は機嫌が悪そうだ。

やはり迷子になって、相当迷惑をかけてしまったのだろう。


「色々ご迷惑かけて申し訳ありませんでした。そのカラス、すごく助かりました・・・」


「そんなことより感想を聞かせてくれ」


「感想?」


「もちろんお前の新しい身体のだ」


「新しい・・・身体?」


なんのことですか、と言いかけて、視界に映る自分の腕が透けていないことに気づいた。


「えっ・・・エエーッ!?」


自分の顔に触ってみる。

ちょっとポニョポニョした贅肉がなくなり、締まった気がする。それに何より、お肌がツルツルでみずみずしい。

見たい。


「鏡はないんですか?それにしても、さすが神様ですね。私が言わなくても、希望を読み取って叶えてくれるなんて」


真凛は自分のお肌のスベスベ感を手のひらで堪能しながら言った。

この感触からして、確実に若返っているだろう。

もうアラサーとは呼ばせない。


「何を言ってる。そんなわけがあるか。お前が遅いから、俺がとびきりイイ女に作ってやったんだ」


「は?」


とびきりイイ女って、どんなカンジ?

なんだか嫌な予感がする。

猛烈に今、鏡が見たい。


「鏡!鏡を下さい!」


「フン」


鼻を鳴らして男が歩き出したので、真凛も後を追いかけた。


何かの建物のバルコニーのようだが、建物の中に入る。

廊下を歩いて行くと、幾つも扉が並んでいて、男はその一つを開けた。


「この部屋にある。さっさと見てこい」


見知らぬ部屋に恐る恐る入ると、アンティークな調度品が並んでいて、同じく凝った細工に嵌め込まれた姿見があった。


真凛は急いでかじりついた。


暗い青の瞳がこちらを見返していた。

少しつり目で、髪は黒のセミロング。すっと通った鼻に、薄く形の良い唇。

身体は中肉中背で均整が取れている。適度に筋肉がついていて、見るからに運動神経が良さそうだ。

お肌のハリを見ると、アラサーの真凛より十歳くらい下、と言ったところか。


全体的に見ると、知的でシャープな印象の美人だ。

しかし。

ある意味、真凛の思い描いていた容姿とはかけ離れている。

真凛の求めるものは乙女ゲーム世界。

ふわふわとして守って上げたくなる儚い美少女しかり、ミトラさんみたいに一目で男心をわしづかみにする、なよやかな美女しかり。


鏡の中の美人さんはシャープできつい印象からむしろヒロインとは対極のタイプに見える。

意地悪キャラ?悪役令嬢って感じ?


「お前が遅いせいで余裕があったからな。身体能力と魔力も鍛えておいたやった。ここでは強さがものをいうからな」


「え・・強さ?どんな世界なんですか、ここは!」


「何を言っている。お前がじじいに頼んだんだろ。ここは強ければ成り上がれる、戦と動乱、魔物で満ちた混沌の世界ヴァングリーヴという」


「はい?」


乙女ゲームとは似ても似つかぬその設定を聞いた時、真凛の中で何かがガラガラと音を立てて崩れていった。




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