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プロローグ・あの世にもお役所?

初投稿です。


いたらぬ点など多々あると思いますが、よろしくお願いします。

木枯らしが足元の落ち葉をさらって行く。


たった今、回したガラポンが吐き出した、金色の玉を見つめながら、回した本人の真凛も、商店街の福引係のおじさんも、列に並んでいる人たちも、思わず動きを止めた。


一拍おいた後。


「おめでとうございます!特賞の温泉旅行に当選されました!」


ガランガランと大きな鐘を鳴らしながら、おじさんが叫んだ。


「すごーい」「おめでとう!」と周囲から感嘆と祝福の声がかけられる。

真凛は戸惑いつつも、ぺこりと小さく頭を下げて、周囲にこたえた。


特賞・・・もちろん嬉しくないはずはない。


普段くじ運はからきしの真凛は特賞なんて当たるのは無論初めてだし、温泉も好きだ。


しかしどうしても素直に喜べない。


と、いうのも、くじ運が向いてきたのはここ最近であるからだ。


毎朝のテレビ番組のじゃんけんに始まり、アイスを食べれば当たりの棒が、ショッピングモールに行けば、来場者1000万人記念の景品がもらえた。



よく考えると高価なものを手に入れた訳ではないのだが、あまりの頻度に真凛はビビっていた。

いいことの後には悪いことしか待っていないと信じているせいもある。祖母がそう言っていたから。


最近では本気で宝くじを買おうか悩んでいるが、やはり怖くて手が出せないのであった。


そんな中での温泉旅行の目録を、真凛は溜息と共に受け取った。

特賞なのはアレだが、国内の1泊旅行だ。海外旅行が当たったというわけでもない。


幸運の反動があっても、そんなにスゴイものでもないだろう。


(仕方ない、お母さんとでも行こう。早く使っちゃおう)


真凛はそのくじ運が呼び込んだ本当の運命に、まだ気づくことはなかった。






数週間が過ぎた頃ーーー。


真凛はひとり、温泉地のさびれた駅に立っていた。


せっかく福引で当てた温泉ペアチケットだが、母親はあいにく仕事が休めず、声をかけた友人たちもことごとく都合がつかなかった。


彼氏は…いない。真凛はいわゆる喪女であった。


とは言っても、真凛にも仕事がある。

今日行かなければ、次はいつ休めるか分からない。だが、期限&制限つきのチケットを無駄にしたくなかった。

真凛は貧乏性でもあった。


「えーと、次のバスは・・・」


チケットと一緒に送られて来た旅館のパンフを探し、送迎バスの時間を見てみる。

まだだいぶ間があった。


タクシーでも拾えばいいや、と考えていたのだが、予想以上にさびれた駅のせいか、タクシー乗り場の表示すらなかった。


「しょうがない。歩きますか」


真凛はスマホのマップ画面を手に、歩き出した。






数十分後。


「こ、ここ、どこ・・・」


真凛は静寂に満ちた、白い空間に立っていた。


少し前に、確かにトンネルに入ったはずだった。

中は暗かったが、ぽつりぽつりと照明があり、進むにしたがってどんどん明るくなった。


明るくなりすぎて、白一色。


スマホの電波も届かない。


焦って振り返ると進んできたトンネルの歩道も、入り口も、もう何も見つけることはできなかった。






『・・・さーん』


遠くから、声が聞こえる。

・・・ような気がする。


耳を澄ませてみる。


『一文字さーん』


やはり気のせいではない。

誰かが自分を呼んでいる。


「はーい!」


大きな声で返事をしながら、早足になる。


やがて霧が晴れるように何かが見えて来た。


「はい・・・?」

思わず、自分の目を疑った。


ずらりと並んで見えるのは、まさに『窓口』だった。


(な、なにここ。銀行?区役所?)


並んだ窓口には、お揃いのスカーフを巻いたおねえさんが、優しい笑顔を浮かべて接客をしている。


(えっ、まさかここが旅館?それとも観光案内所?)


「一文字さーん。一文字真凛さーん。いらっしゃいませんか?」


「あ、はーい。一文字です」


名を呼ばれて、反射的に『インフォメーション』と書かれたテーブルに飛びついた。


「え、えと、あの、ここって・・・」


「一文字さん、お待たせしました。100番窓口にどうぞ」


「あの、ですからここは」


「お話は窓口でおうかがいします。どうぞ」


質問は笑顔で拒否られた。


仕方ないので窓口のおねえさんに教えてもらおう。

しかし。


「えーと・・・100番?て?」


窓口のナンバーを目で追って行く。

たくさんありすぎて、向こう側が霞んでいる。


ハァハァ息を切らせながらたどり着くと、100番窓口にはおねえさんはいなかった。


不思議に思ってのぞき込むと、おねえさんではないが人はいた。


舟を漕いでいる老人が。


(どうしてここだけ、おじいさん?)


「あの、一文字です」


内心の動揺を押し隠し、声をかけてみるが、老人は目を覚まさない。


「すみません、一文字真凛ですが、呼ばれました!」


少し大きな声を出してみる。

老人は椅子から転げ落ちそうになり、なんとか踏み止まると、びっくりした顔でこちらを見た。


「心臓止まるかと思ったわ。あんまり年寄りを驚かすな」


「すっ、すみません」


思わず謝ってしまう。

老人はノロノロした動きで書類の束を手に取ると、親指をペロッとなめて、めくり始めた。


「おう、あったあった。お嬢ちゃん、いきなりこの窓口に当たるとは運がええのう。久しぶりじゃから、サービスしてやるぞい」


「あ、ありがとうございます。でもこちらはその、どういった・・・?」


真凛はやっと、疑問を口にすることができた。


「なんじゃ、お嬢ちゃんは何も知らんのか。ここは『次元事故被害者救済センター』じゃ」


「はい?」


「お嬢ちゃんは次元地震に巻き込まれて、肉体を失った。事故と言っても自然現象じゃ。ここにたどり着いただけでも運がいい」


「あの、事故って何のことですか?私、何ともありませんけど」


真凛は首を捻った。

この人の話の意味が分からない。


「トンネルに入ったじゃろ?でも車道はなかったじゃろ?お嬢ちゃんは自分でも気づかないうちに次元の狭間に落ち、魂だけでトンネルに入ったのじゃ」


「・・・」


「この救済センターに入った後、トンネルは消える。確かめて来るといい。気が済んだら戻って来るのじゃよ」


真凛はよろりと立ち上がった。


老人の話を信じた訳ではない。

しかし、どうしてか心のどこかで、それが真実だと囁く声があった。


真凛はふらふらと、窓口ナンバーを逆に辿りながら歩き出した。





そうして見たのだ。


受付の扉の外には何もなかった。


ただ広がる闇ーーー虚空が広がっているばかりであった。



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