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9/16

2月/節分と雪と

最近、少し忙しかったりと、更新が遅れ気味ですが、完結はさせます。自身が満足出来るように。

 2月だ。


 1月初め頃、見舞いに来た皆によって我が家は最終的に大変なことになった。


 それは、ひと月近く経過した今でも我が家に傷跡を残していた。


「大丈夫? 学校行きたくないとか無い? あったら直ぐに言ってね。」


 義姉さんはあれから異常なまでに凄い心配してくる。


「姉ちゃん、そのくらいに……。」


「心配にもなるわ……何故先に気付くことが出来なかったのか、悔やまれるわ。……あんな事になるなんて……。」


 何があったのか?


 何かがあったのだ。


 因みにボクは、覚えていない。圭佑と話している記憶を最後にしばらく記憶が、抜けている。


 ただ記憶違いでなければ、眠気は無かった。






 高校生活は変わらず、大きな事件も起こることなく、日々が過ぎていく。


「よう、体調どうだ?」


「まぁ……大丈夫じゃない? 特におかしな所は無くなってきたし。」


「そうか、そんな感じならもう大丈夫そうだな。」


 お見舞いから少ししても体調は治らなかった。たっぷり一週間休んでも。


 しかし休み過ぎは良くないし、どうやら風邪でもない (義姉さん曰く。)ので見舞いからちょうど一週間で登校。


 しかし体調不良は何故か全く良くならず、崩れていた体調が元通りになりそうな頃には一月も月末だった。


「心配してくれるのは良いけど、ボクとしては見舞いの時より後の方がキツかった理由を知りたいよ…知ってるんじゃないの?」


 ジト目で圭佑を見るも彼は目を逸らす。


「知らないよ、お前の体調なんぞ…。」


 小さくそう呟いた彼は直ぐに席に戻っていく。






「今日は何日だ?」


「あー、節分ね? 分かってるわ智が考えそうなことは大体。」


 そう言って鬼のお面を部室にずっと壁際あった本棚、その一番上の段に本に紛れ置いてあった所から取り出した。


「豆? は用意してないわ。何か最近、私に食べられる物を持たせてはいけないみたいな雰囲気を2人して出してくるのに持ってきてわざわざ言われるのは、良くないと思うし。」


「部長、何でそんな露骨に安心してるんですか?」


「悪いか? あれなら唐辛子ぶち込んでおけば良かったと一生後悔するね。」


 何の事言ってるのか訳分からんけれど。そして食べられる物に警戒って言ってもさすがに豆は


「豆だって危険。」


 だから豆のどこが危険なんですかっ!?


 鍋川先輩はしたり顔で心を読んだような発言。ボクとしてはそこまで警戒する必要はない用に思えた。



 なんであれ、今日は節分。鬼退治をするらしい。


 もしかすると来月は雛祭りでもするのだろうか。ボクは心の隅の方で期待した。──そうだとしたら不本意な役回りになりそうなことは失念していたが。






「鬼は外ー…」

「福は内ー…」


 声と共に放たれる豆は鬼役──どうしてかボクがやることになった───に当たり、床に落ちる。落ちた豆を踏まないように移動するが……。


「あの、思ったんですけど。」


「なんだい?」


「つまらなくないですか?」


「そうだね。ただイベントだからやってるだけというのもあるから、本気でやれば詰まらなくないんじゃ?」


 茜屋先輩はそう言った。じゃあ。


「じゃあ、そうさせて貰います!!」


 気の抜けたような軌道で飛来する豆を思い切り横に跳んで回避する。


 次の瞬間、何の気力も灯っていなかった茜屋先輩の目に火が灯る。


「そっちがその気なら!!」


 鷲掴みした大量の豆をばらまくように投げる。


 ボクはそれを机の陰に隠れることで回避。


「鬼は外へ追い出そうじゃないか!!」


 茜屋先輩は一つの豆を指先で摘まみまるで野球選手のようにぶん投げた。


 机の表面を穿つ音が聞こえる。


「あ、やば……。」


 茜屋先輩が小さく呟く声を聞き取り恐る恐る机を見ると、机の板の半ばまで陥没している穴、底に砕けた豆が散らばっていた。


「鬼役…やってたら死ぬと思いますけど…?」


 茜屋先輩は顔をひきつらせながら


「外、出てくことをお勧めするよ? 鬼は外。うん。」


 即刻出てった。






 部室を出てすぐの廊下で待機していたら五分ほどで垣原先輩が、悪いわねと苦笑しながらボクを呼び戻した。


「よし次はこれ。節分と言えば…でよく出てくる奴!」


 茜屋先輩は鞄からプラスチックのパックに入った太巻きを取り出した。


「智……それは。」


 鍋川先輩が豆をもしゃもしゃ食べながら言う。疑問系ではなく『それをやるの!?』と目を輝かせているように見えた。


 誰の目から見ても、少なくとも鍋川と付き合いの長い人から見れば殆ど無表情で放たれたこの言葉のニュアンスなど、はっきり分かるだろう。


「ふふん、そうだあの毎年決まった方角を見て食べるやつだよ!」


 自慢気に茜屋先輩は言う。いわゆる恵方巻きだ。


「ボクの家じゃ殆どやらないんですけど、確か一息? で食べるんですよね。」


「そうね、こういうのみたいよ?」


 垣原先輩がスマホで調べたようでスマホの画面をこちらに見せてくる。へぇ、発祥って割と近くで………。


「早く……やろう?」


「早くやるのは良いですけど、鍋川先輩。」


「何?」


「豆まきの後って、歳の数だけ豆を食べる風習だったと思うんですけど、明らかに歳より多いですよね。」


「………………別に。」


 別にそう言うのじゃない、と口で言おうとしたのだろうが、小さな表情の揺らぎから、しまった! と思っているのが、少なくともボクらにはバレバレだった。






 皆で一緒の方角を向いてもしゃもしゃと太巻きを食べる。


 特に早食いというわけではなかった筈だけれど、ボクは太巻きに口を付けようとしたときに鍋川先輩の目が不敵に輝いき、ボクを見たようにみえた。


 急いで食べようが、ゆっくり食べようが変わりないだろうけど。何となく。


 太巻きを丸飲みにした。それはもう、一気に。一口で。


「─!? 優! 危険危険!!」

「雪も! 丸飲みは!!」


 しかし先輩方の制止の声を無視、というより太巻きの大きさ的に口の中に詰められはしたが、そのまま飲み込むことは出来なかった。



「────ぷはっ…!!」

「───ふう。」


 ボクらが一息吐いたのはほぼ同時、若干鍋川先輩の方が早かっただろうか。


 ボクらが咀嚼している間に茜屋先輩垣原先輩はボクらが喉に詰まらせていたりとかをしていないのが分かったのか、呆れ顔で太巻きを食べ始めていた。


「勝った……。」


「負けました……。」


「2人とも通じ合ってるところ悪いんだけどもぐもぐ。」


「早食いは心臓にも悪いのでもうしないで下さい。もぐもぐ。」


 食べながら注意してくるお二方。その後すぐに食べ終わったのか、飲み込んでいた。


 そして茜屋先輩は鍋川先輩の耳元に口を寄せる。小声、誰にも聞き取れないような声で鍋川先輩に耳打ちする。


 すると鍋川先輩の顔がみるみるうちに赤くなり、茜屋先輩はにやにやしながら顔を離し


「まっ、気にしてないだろうけどねっ!」


 そう言うと、茜屋先輩を鍋川先輩は思い切り睨みつけた。そしてボクの方をちらと見て更に顔の赤が増す。そしてまた茜屋先輩を睨みつけていた。


 その様子を見て垣原先輩はあらあらと優しく微笑んでいた。




 ──☆──


 2月も中旬。


 この時期は晴れが多いが何の偶然かどす黒く濁り今すぐにでも降り出しそうな空。


 テレビのニュースでは、降雪するので気をつけるようにと言うことを何度も言っていた。


 しかし、まだ降っていない上、高校からの連絡もない。仕方なしに登校しなくてはならない。


 今にも決壊してしまいそうな空を背に、駅から出たボクはのんびりと歩く。今にも降りそうだが、とても急いで移動する気にはなれなかった。


 必要性は、何故か感じなかった。



 歩いていても、面白い景色などは無く、見慣れてしまった変わらぬ道が在るのみ。


 ふと、コンクリートで舗装された道に黒点が現れる。


 それは段々と増え、ボクは弾かれたように(そら)を見る。


  雪が降ってきていた。


「………珍しいよね、雪って。」


 突如、背後から聞き覚えのある声がして、振り返る。そこには鍋川先輩が同じように空を眺めていた。


 それから鍋川先輩は降ってくる雪を目で追い、その手のひらにとらえる。


 ボクは鍋川先輩がいるなんて思っていなくて、更には自分から声をかけてくるなんて珍しかったと少々ポカンとしていたが


「そうですね…。」


 していたが故に気の抜けた返事しか出来なかったのだった。


「……? 足止めてると濡れちゃうよ?」


 鍋川先輩はそれなりに歩く速度を上げ、少し足を止めていたボクに向かってわざわざ振り返って発言する。


「大丈夫ですよ、傘なら持ってますから。」


「……私は持ってない。」


 気付けば、少しといえない程度には降り始めていた雪。 


 ボクは傘を差して、それからどうしようか悩む──


「入れて。」


 ──前に鍋川先輩は傘の範囲内に滑り込んできていた。


「うわあっ!?」


 驚いて、跳び下がる。


「失礼な。」


「だって………。」


 だってそんな相合い傘みたいな………。


 鍋川先輩にはどうやらボクの動揺は伝わらなかったようで、責めるような目線でボクを見ていた。


「入・れ・て。」


 鍋川先輩の視線を受けて、何だか悪いことをしてもないのにしている気になってしまっていたボクは


「……良いですよ。」


 仕方なしに、受け入れることしか出来なくなっていた。






 教室は、珍しく雪が降ってきていた影響か、やけに騒がしい。……いや、いつも騒がしい気がするが雪に関わる言葉がよく聞こえる。


「にしても、優、お前朝見たぞ~!」


 圭佑がまだ朝だというのに、酔っ払いみたいなテンションで絡んできた。


 どう考えても面倒な事を言いそうだった。


「ねえ圭佑公共交通機関が雪で止まったりしないかとか知ってる? 調べるの、忘れちゃってさ。」


 ボクは早口で圭佑に聞いた。


「お、おう。確か……無かったぞ。」


「確かじゃなくて、ちゃんと調べて!」


 圭佑は怪訝な顔をしながらもポケットからスマホを出し……今だ。


 ボクは圭佑の目が完全にスマホを見た瞬間を狙い、廊下へとダッシュした。


 圭佑は本人に言うまで他の人には言わないからな。朝のこと、何て今、朝なのだからきっと鍋川先輩の事で、話していたら周りに聞こえるような声で言うだろうから、そうなればかなり恥ずかしかったはず。


 走りながらそんな事を考えていた。






 結局昼休みまでしか守りきれなかった。いや、守るとか守りきるとかそう言う話でもないかとはボクも思ったけれど。


 圭佑? 奴は良い奴だったよ。


 しかしとて、部活である。


 圭佑から逃げた時、相合い傘状態が実際かなり恥ずかしかったと自覚した。


 部活に行けば、ほぼ確実に鍋川先輩と出会うことは分かっている。


 恥ずかしいからと言って、部活に行かないというのも、ひどくおかしい様に思える。


 と言うわけで行かないという選択肢は無いのだった。


「失礼しま───」


 部室の扉を開けた瞬間、目の前が真っ白になり、冷たい物が顔を襲う。


「智!? 先生だったらどうするの!!」


 ボロボロと顔面から落ちていく雪。思い切りぶつけられたのはこの雪だったようだ。


「いやぁ、良いじゃんか、優だったんだし。」


 全く悪びれもせず、茜屋先輩は言う。


「ボクだったら良いとは………!」


 突然雪玉ぶつけられ、投げた本人のその態度に、怒りが湧いてくる。


 足下に落ちていた雪玉───バラバラにならず幾つかの塊のままだったそれの一つを思い切り、足に乗せて、足を振ることで砕ける事なく茜屋先輩を狙い撃つ。


「あっぶっ!?」


 茜屋先輩は避けると背後は窓であることを思い出したか、思い切り雪の礫を殴りつけた。


 ボクはしゃがみ込み、雪を拾う。そして低い姿勢のまま、思い切り投げつける。


「痛いっての!」


 雪はまた、茜屋先輩の拳の前に砕け散った。


「はっはーん、そうか、雪合戦をしたいと申すか! ならば表に出ろぃ!!」


「分かりました、やりましょう!!」


 茜屋先輩がそう言うので、ボクはそれに乗っかった。


「何でしょうか………この節分辺りでみた光景は……。大丈夫でしょうか…。」


「……むぅ…。」


「あれ、雪幸…? どうしたんでしょうか…。」


 鍋川先輩は不満顔で立ち上がる。


「先、行ってる。」


「え、ちょっと…乗り気でないの、私だけ……?」


 戸惑ったように、垣原先輩は呟いた。


 しかし、諦めたように外へと歩いていった。


「何………これ……。」


 浅葱 千由(ちゆ)は衝撃の光景を見た。


「大きな物音聞いて部屋に来てみれば……!!」


「ちょ、ちょっと待ってください優君のお姉さん!」


 こちらに手のひらを向けてあわあわと慌てる女性は零れた───と言うよりもぶちまけられたお粥の残骸を千由をじっと見ながらもちらちらと見ていた。


 しかし、千由が言いたいのはそこじゃなかった。


「何で! 優君が気絶していて更にその口から!! 変な紫色のガスが昇っているの!!?」


「へ?」


 へ? じゃない!!


「タオル持ってき………た!!? 何か紫色のガス出てるぞ!? どうすれば!?」


 タオルを持ってきたのは見舞いに来た客の中で唯一の男子。


 その人からタオルを引ったくる。


 零れたお粥をよく見てみれば、そこからも紫のガスが出ているように見えた、元のお粥はどう見てもお粥だったようだというのに。


 後ろの男子が驚いているところと零れたお粥を見て、千由はそう考えた。


「とにかくタオルで拭き取って!! 優! 大丈夫!?」


 千由は優を起こそうとして、完全に意識が飛んでいることに気づく。叩いたりした程度では起きないような。


 結局このあと、千由は暑くもないのにだらだらと汗をかく羽目となった。



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