冬休み/凍えるような暖かい日々
クリスマスパーティーの翌日。
ボクは圭佑の家の前まで来ていました。
それもあまり遅くない時間で、具体的には4時だった。
もう少し早く始めて暗くなる前に終わらせるべきではないかと思うが、実際暗くなった方がクリスマス感が出る気がする。
実は昨日部室に机に載るようなサイズの、もはや手乗りクリスマスツリーと言っても過言でないサイズのツリーが飾り付けられていたり、しっかり輪飾りで部室を彩られていたのだが、描写を忘れていた。と言うより、見回すシーンが導入部分までになかったのだから仕方ないと言わせてもらおう。
「お、来てたか、入っていいぞ。」
「あ、お邪魔しますー。」
インターホンをならす前に玄関が開き、圭佑がボクを家の中に入るよう促した。
圭佑の家の中は特に散らかっていたりする事もなく、きれいだった。
靴を揃えて置く。他に置いてある靴もしっかりと整頓されていたから、そうしなければいけないような気がしていた。元々そうするつもりだったけれど。
「はいじゃ、こっちに居ろよ。」
そう言って通されたリビングには既にモール等で飾り付けられたクリスマスツリーが置いてあった。
ボクはちらりとそちらを見つつ、テーブルの近くに置いてあった椅子に座る。
「あ、長谷さん。早いねぇ。」
そしてテーブルには先客がいた。長谷さんだ。
「まぁね。とゆか、他来る人知っとる?」
「来る人………? うーん、いろいろ呼んだとしか聞いてないから。長谷さんが来るって事もさっき知ったんだし。」
「さながらサプライズって事…どうした浅葱君突然俯いて。」
「な、何でもないよ。」
「そか。」
特に気にした様子でもない長谷さんにほっとした。
そしてここで会話が切れてしまったのだが、直ぐに外から女子の話し声が聞こえて、さらにばたばたと家の中を誰かが走る音、これは圭佑だろうけども、聞こえた。
『いらっしゃい、そっちで待っててね?』
『はーい』『はーい』
そしてリビングの扉が開く。
「おっ。」「先客二人かぁー!」
「最初に来たと思ったのに」「「ねー?」」
「清水姉妹、少し静かにね? 近所迷惑やよ?」
「あっ…。」「すいませーん………。」
長谷さんが注意すると静かになる清水さん姉妹。と言うかここまで息の合う双子もそういないと思うんだけど。
そして清水さん姉妹がテーブルに近づいた時に扉を開けて顔だけ出して圭佑が言った。
「あーとは……、あの2人だけか……チッ、おっせぇなぁ……。」
……あー、誰だか分かった。呼ぶ訳ないと思ってたけど、呼んだのか。
彼らなら、早く来たら圭佑が見たくもない顔を最初に見ると何か悪いだろうと気を使ってるのか面倒なのか分からない理論で最後に来そうだった。
って言ってもボクが来てからまだ30分経ってないし……。
「そろそろ私来てから一時間やな。」
………はっや!? 長谷さんどんだけ来るの早かったの!?
そんな驚きの表情で見ているのに気付いたのか、長谷さんは続けて
「っと、30分前集合は当たり前やろ? 何をそんな……。」
「圭佑、わざわざ集合時間と言ってたし時間差に設定されている開始の時間も言ったしでも、流石に集合の30分前に来るのは驚いたってだけ。早くて損するのは自分だけって言うし、大丈夫?」
「何故か私が心配されてる!?」
「まぁまぁ。」「良いじゃないの。」
「絵面だけ見ると女子会だな。」
「確かに。」
「さり気なく無言で入ってくるなアホ共!!」
「あ、いらっしゃーい。」
ボクはたった今来た彼らに手を振る。保子河と塚見だ。
「まぁまぁ多嶋君、怒りなさんなって。」
「いや、お邪魔しますの一言もないとかおかしいだろ招いたのこっちだけどさぁ!!」
「じゃあお邪魔します。」
「じゃあじゃねえよ、もう一度入り直せ!」
「やだよ。締め出すつもりだろう?」
「しねぇよ! 安心して出てけ!!」
一方既に着席している女子達はと言うと。
「必ずこうなるのは分かっていたと思うんだけどなぁ……。」
「……少し考えれば避けられると思うんやけど…。」
「一番手っ取り早いのはー。」「呼ばないことだと思うんだけどねー?」
各々目の前の口論をそう言いながら見ていた。
「そう言うわけにもいかないだろうと俺からは言わせてもらいたいわけですよ。」
「あ、濁斗、座りたいところに座りなー、例えば床とか。」
そう言うと保子河は長谷さんの隣の椅子に座り込む。
「さり気なく床をすすめるのはどことなく悪意あると思うんだけど。そこんとこどう思うよ。」
「どうとも思わんよ。」
「酷いなぁ……。」
ちなみにボクの左隣に清水姉妹、テーブル挟んで正面に長谷さん、左前に保子河が座っている。
「だいたい、無駄な時間を過ごしたと思うならその時間を取り返すように早く動けばいいだろう。」
「そうじゃないだろ!? 俺はお前らが遅れてきたことを怒っているんだよ!!」
「見ろよ、他の奴ら皆苦笑してるじゃねえか。」
圭佑がこちらに振り向く。
「見たけど苦笑してんの優だけで他こっちを見てすらいなかったぞっていない!!」
圭佑が振り向いている間に塚見は移動、キッチンの方で冷蔵庫を開けていた。おもむろに未開封らしきペットボトルを取り出した彼はボクらを見て言う。
「なー、コーラ飲む奴いるかー?」
「あ、お願いできる?」
「だぁもう!!」
「圭佑落ち着け。これでも食ってな。」
塚見は右手にペットボトル、左手にちくわみたいな形状の十円のスナック菓子を持ち、左手の菓子を圭佑の口にぶち込んだ。
「ふざけ───ぶふっ!」
喋ってる途中だったのでスナックの破片が空中を舞う。
「ぎゃぁあああ!!」
「「「「汚っ!」」」」
吹き出されたカスの大部分がボクに命中しボクは悲鳴を上げた。
舞ったカスを掃除した頃には圭佑は落ち着きを取り戻したようで、時間通りに来た人たちには謝っていた。
「ほんじゃ、乾杯ー!」
「「「「「乾杯ー!」」」」」
でもさ、カス程度、払えば良いのに………!
「何で! ボクはサンタ服に着替えさせられているのかなぁ!? しかもこれスカートって!!」
着させられたサンタ服のスカートは膝より少し上程度だった。
「嫌なら着なくて良いんだけど。」
「うるさい! 着ないと下着でここにいる羽目になるでしょ!! ボクが着ていた服を速攻で洗濯機ぶち込んだ上に洗濯機回しやがってぇ!」
「いや、洗濯機に関しては………いや、何でもないぞ?」
事の顛末はこうだ
汚れた、着替えろ。
↓
脱いで洗濯機に入れて、スイッチ入れてから『着替え』を着ろ
↓
手遅れ。
騙された方が悪いのかなぁ………。
ボクはこの騒動に加担した人達───ここにいる全員を睨みながら席に着く。
「にしても……」「ねぇ。」
「どうしたの清水姉妹言いたいことがあるなら……やっぱ言わないで下さい頼みます。」
「何でサンタ服何て持ってきたのかな?」「何でそんなに似合っているのかな……。」
妹の方は予想通りの事を言ったが姉の方がボクも確かに思っていた疑問を口に出した。
確かにそうだと口に出そうとして発言する。
「姉妹全く違う事を言うなんて珍しいね。」
しかしボクは全く関係ないことを言っていた。
「珍しくもないよー。あ、塚見くん、そこのコーラ取ってー。」「そこのオレンジジュースとってー。」
塚見はやれやれと呟きながらも、2人に二本のペットボトルを渡していた。
「それとこれを持ってきたのは誰!」
ボクは自らが着ている服をひっぱりながら言う。
「あー、それ俺。女性陣に着てもらおうかと思って。」
「濁斗がか!!」
申し出た。犯人は保子河だった。
「えー、悪くないと思うんだけどなぁ……。」
そして保子河の肩を軽く叩く圭佑。そして爽やかにサムズアップ!
「何がgoodやボケェ!!」
「あ、優が完全にキレた……。ちょっと俺に攻撃するのは待ってくれないか寿司落とすのは不味いからマジ止めて!!!」
ボクは立ち上がり、すぐに圭佑に殴りかからんと近付くが、圭佑の片手に持つ寿司の置いてある大皿が目に入り、行動を止める。
「どうでもいいから早く飯食おうぜー。」
塚見はつまらなさそうな目をしながら言う。
ボクは正気に戻る。確かに、今騒いでいてもさっきの圭佑みたいにパーティーに遅れが出るだけだ。
良くない、それは良くない。
「分かったよ………。圭佑、手伝うよ。」
「何が分かったかがわからないけど手伝ってくれるならありがたい。そうだな、じゃピザがレンジに入ってるから取り出して持ってきてくれ。」
「オーケー。」
ボクは、台所に向かった。
衣服については、諦めることにした。
「さー…って、お待ちかねのプレゼント交換だぞーっと。」
「ちょっと待ってこれ食べたら………よし、もう良いぞ。」
テーブルに置いてある食べ物が粗方片付いた頃合いになって、圭佑はみんなに向かって言う。
「ほんとよく」「食べるねー。」
「出された物は余さず食べる。をモットーにしているからな。」
そう答えたのは塚見だった。
「それで、プレゼント持ってきたんやけど、これを交換って言うと、どーやるんや?」
「くじ引きだっ!! 曲流して止まったところでというとある程度操作性ができてしまうからな!!」
圭佑は自信満々に言う。くじ引きかー。
「ちょっと待ってろよー!」
そう言い残して何処かへと行ってしまった圭佑。しかし直ぐに紙の立方体抱えて戻ってきた。一つの面だけ、穴が開いていた。
「よし、順番をくじ引きするぞ!」
「何でもくじ引きかよ。」
「なんだよ文句あるならやんなくても良いんだぞ?」
「………チッ…。」
「はいそこ険悪な空気を流さんといてなー。」
「はあ。…………よしじゃあ引いていけー。」
「はぁ………。」
引いた結果、一番目に清水姉、次に長谷さん、その次が塚見、保子河と続いて、圭佑、清水妹、最後にボクとなってるわけである。
「じゃあやるよー…。えい!」
清水姉は箱から紙を取りだした。紙には塚見と書いてある。
「これだよ。」
塚見は清水姉にきちんと包装された物を渡す。
「………これは……何?」
清水の姉の方が恐る恐ると言った様子で質問する。
「開けりゃ分かると思うが、ストラップだ、あのちょっと前に爆発的人気を誇った非公式の梨。のクリスマス仕様。」
「へぇ……。」
清水姉は感心したような声を漏らした。
次は長谷さんの番である。
「……これやな。…清水姉って……本名で書いてやりなって…。」
「まぁ、いいの。灯ちゃん、これな。」
リボンが端に縫われている毛糸のマフラーだった。所々歪みが有るようにも見えた。
「清水ちゃん、これまさか…。」
「せっかくだし手作りしてみましたってね。」
「そか。ありがとう。」
長谷さんは大事そうにピンク色のマフラーを抱え込んだ。
次は……塚見か。
「はいよ…………清水妹だ。」
取り出した紙には確かにそう書いてある。
清水妹は若干戸惑いながらこれまた姉同様手作りらしき毛糸の手袋を塚見に渡す。色もピンク色である。
「ありがとな。」
若干顔に日常的には使えないなという感情が浮かんでいるように見えたが、しっかりと礼は言った。
しかし清水妹は塚見の表情を見てほんの少し、表情を曇らせたような、気がした。
「よーっし………。きたっ、長谷さんのだ!」
なんかあからさまに当たり引いたみたいな反応されると、むかっとする。
保子河が引き当てたのは長谷さんの名前が入った紙。
それで、長谷さんは包装された箱を保子河に渡す。
「これは行きつけの店で買ったチョコの詰め合わせ……なんやけど、皆食べ物じゃなかったし、物の方が良かったんやろか。」
「いや、大事に食べます。」
いや、その返答の意味が分からん。
「それですごくおいしいと思ってくれたなら……その店紹介するよ。」
「今の時期ネットあるし調べるの困らなく痛っ! 何するんカイ!」
保子河の後頭部を遠慮なくぶっ叩いた塚見。
「大人しく聞いてろバカがっ!!」
「あはは、確かにそやね。箱にも書いてあったやろうし。」
さて、次。
「なんだ、保子河のかよ。」
「何だとは何だ。見てから言え!」
「…………これは……!!!」
ただのクリアファイルだった。なんかのアニメの。
圭佑と濁斗がニヤリと笑う。
そして握手をする。
「これどこで手に入れたんだ?」
「何軒もコンビニを回って、偶々在庫がある店があってだな。」
「よくやった濁斗! いやありがとうございます濁斗様!」
何が起きたか分からないけど次だ。
「えー、あと多嶋君のと浅葱さんのしかないんだよね、なら浅葱さんの、くれる?」
「あー、いいよ。そうしないとボクのが人に渡らなくなっちゃうからね。」
そういって手渡す。
「これは?」
「カイのと微妙にかぶってるかもしれないけど、クリスマスってことでクリスマスツリー風ストラップ。」
包装されたそれの中身は、金属のクリスマスツリーのストラップ。
「ありがとう。」
さて、最後だ。
「圭佑。」
「ありがとうございます濁斗様」
まだ土下座している圭佑の頭を一度踏みつけて、蹴り飛ばす。
「さて早くしろ。」
「……痛ぇな、おい。何しやがる。」
「服の仕返しもついでにやらせていただきました。早くしろ。」
蹴られた圭佑はしかし嫌そうな顔を浮かべつつも何処かへと行ってまた戻ってきた。
「ほらよ。」
放り投げられたそれを掴む。ネックレス。しかし紐がただのチェーンなのに対し飾りが天使のような翼の生えた十字架だった。
「兄貴がいらねえと融通してきたモンなんだけどたくさんもらった。優以外に欲しい人がいるなら上げる。」
ボクはそれを荷物に仕舞い込む。
「圭佑だけ雑じゃない?」
「文句言うなよ、俺探してもなんかピンと来るものなかったんだから。痛たた……。」
そう言われ、皆は仕方無いと同情? の表情を浮かべるが、何故か保子河だけ、違う表情を浮かべていた。
「どうしたの、濁斗。」
「いや……それ……。何でもない、圭佑それ一つ俺にもくれないか!」
保子河はそのネックレスを一つ受け取る。
「あー、じゃあ俺も貰っておくか。」
塚見にもネックレスが渡された。
その後、ワイワイとUNOをやってから解散となった。
…泣いて良いですか………。
「ねー…きれいだよね。」
しみじみと声を抑えめで、感動した物言いをする義妹。
「そうね。本当に綺麗よね。」
妹の感動している様と同じ様に感動している義姉。
彼女らの視線の先には近くの河の先から登る太陽の神秘的な様があった。
まぁ、日の出なら何時でもみれるがボクが泣きたいのは別に光景が胸に響いたからではなかった。
「初日の出は綺麗だよ。でもさ、でもさ…………!!!」
近隣の住居は軒並み静かで静寂が日の出の神秘性をよく見せる助けとなっているのは分かるが、ボクはどうしても叫びたかった。どうしても、言いたかった。
「何でボクを女装させてさらに女子校に不法侵入して初日の出見てるのさ!!」
そう、今ボクは女子校の屋上にいます。
「優、叫んだら近所の方々に見つかってしまいますよ。」
「全く、クリスマスを私達と過ごさなかったんだから年末年始は一緒に過ごしたって良いでしょ…お兄ちゃん?」
わざわざ義妹は呼び方変えて文句を言ってくる。
「良くないよ………全く。早く帰ろうよ、明るくなる前に。」
見つかったらほら、地元新聞の見出しくらいにはされるよ? 『女子校に不法侵入した女装男』とかそう言うので。
すると車のエンジン音が段々と近付いてくる。
「だーめ……って言いたいところだけど。」
「……何?」
「そうね。早く帰らないと。………まさか年始もこんな早くから高校に来るとは思わなかったわ……。」
呟きながら移動を始めた2人を追いかけてボクも帰る。
どうやって侵入して脱出までしたかはちょっと言えないが、無事誰にも見つからずに帰れた。
後に義姉もそう言っていたので、間違いないだろう。
初日の出を見たらすぐに家に帰る。
我が家の正月は忙しい。今日中は母方の親戚が集まるので、そちらへと。
明日明後日は父さんの親に会いに行くために大移動となるので2日間、泊まりがけの予定だ。
「全く。見つかるかとも思って冷や冷やしたよ……。」
「優は。ちゃんと見つからないように道を考えているのに、何で心配になるの。」
家に帰るとすでに、母親も父親も起床済み。どこ行っていたのかと言う質問をされたが、義姉は正直に初日の出を見に行ったと答えていた。
すぐに身支度を整えて (ボクはちゃんと着替えた) 移動。母親の実家だ。
母親の実家はそう離れた所にあるわけでもない。実際すぐにいけるような距離である。
父親の実家はそうはいかないけれど。
「お、きたきた! いらっしゃい!」
まず、到着して真っ先に迎えてくれたのは、安川と言うおじさんだった。本人曰く警察だと言っていた。
「安川さん、明けましておめでとうございます。」
義姉に続いてボクらも挨拶をする。
「あぁ、そうだった。その挨拶を忘れていた。……と言うわけで、お年玉だ。はい。」
そう言い安川さんは小さい封筒手渡してきた。
それに対し、ありがとうとお礼を言うと、安川さんは早くなかに入るようにと皆に促した。
「ねえ、その女の子は何? まさか安川君を気に入ってくれるような奇特な女性がいないからって誘拐して手懐けたとかじゃ………。」
父さんが安川さんに言う。確かに安川さんの背後には隠れるように女子がいた。見覚えなど殆ど無い。
ふと、家族の顔を見ると我が家の女性陣は何故か呆れたような顔をしていた。
「えっと……だな。」
安川さんはそう考えるように呟くと目の動きだけで、母を見、姉を見、妹を見た。
見られた三者は小さく、見ていても気付けないくらいの小ささで横に首を振る。恐らくボクはよぉく見ていたので気付けたが、父さんは気付いてない
「知り合いの娘を旅行の間預かった。そうだろう、柚。」
背後に隠れていた女子はその言葉を聞いて、首を傾げたように見えたが。
そう見えたのは一瞬ですぐかくかくと首を縦に振った。
「一応、紹介しておく。こいつは菊川だ。菊川柚里。今は中学三年だ。」
「どうも、菊川柚里です。」
安川さんの前に出てきた女子───菊川さんはしっかりとお辞儀をした。
その後ボクらも名乗る。
「あの……気になったんですが…いやちょっと待って。」
そう言って突然菊川さんはボクの荷物をひったくる。大した物は入れてきていないが金とかは入っている。
菊川さんはすぐさま中身を探り、遅れて、慌てて取り返そうとすると、菊川さんは中から一つの物を取り出した。
「これ、何?」
………何って、なによ?
「あー。うん。分かった。分かったわ。」
「勝手に納得するな優にそれを返せ。」
安川さんは菊川さんにそう言った後菊川さんはそれと一緒に荷物も返した。
「全く人の物を奪って……何をしているんだよ。」
安川さんはやれやれと、それから説教を始めたのでボク達はその横を通り過ぎて行った。
にしても、十字架に翼が生えてるこのネックレスがどうしたと言うんだろうか。後で圭佑にも聞かないといけないかもしれない。
「冬休みで起きたことはこれ位ですけど、良いんですか? これ殆ど個人的じゃないですか。しかも親戚の安川さんと知り合いの子の菊川さんなんて書く意味あったのか本当に疑問なんですけど。」
何故か冬休み終日。文芸部は部室に集まっていた。
「じゃあ何で書いたのさ。」
「違います書こうと思ったけれどこれ以上は書きたくな」
「書きなさい。」
「いや、こっから先、親戚のおじさん達がボクに好きな人ができたのかと騒いでるのしか憶えてないんですよね、あまりにも騒がしかったから…。」
茜屋先輩はそれを聞いて、ふむ。と何やら考え込むような仕草をする。
「で、好きな子いるの?」
「何で言ったそばから聞いてくるんですか。そう言うのはどうだって良いじゃないですか。」
「居ない、とは言わないんですね?」
「垣原先輩何ですか怖いですよ……?」
ここで場を仕切り直すように茜屋先輩は大きく咳払いをしたことではっとしたように垣原先輩は茜屋先輩の方を向いた。
「じゃあ良いや、そのさっき書いたところまでで。よろしく纏めといてね。」
茜屋先輩はそう言い、ボクはパソコンに文字を打ち込み始めた。
気になったのは、何故かこの日、鍋川先輩は一言も発することは無かった事くらいだ。
「コーナー復活!」
「それ程待ち遠しい企画でしたかこれは。」
「良いじゃん葵。ここは現実に縛られない話にすら縛られない、パラレルと言うかイレギュラーなコーナーだし、ここならいくらメタい事言ってもキャラ崩壊で済ませられるんだぞ!?」
「崩壊されるようなキャラもアイデンティティも無いわよね私達には!?」
────私の実力不足でして……すいません。
「なんか天の声が来た!?」
「まぁ取り敢えず今回の冬休み特別編ゲストはこの人。」
「どうも、菊川柚里です。」
「ちょっっと特殊な伝手で呼びました。」
「まぁ、活動記録内に私達がそうだという記録も残らないですし、さっき予防線張りましたし。」
「何が良いのか分からないわ。」
「まぁ、時系列的には………ってそう言うことは言わない方がいいわね。」
「とにかく進めようか。」
「それにしても、噂通り赤いですよね、髪が。それは嘘だと思ってました。」
「そうか。まぁたしかに赤い髪って普通じゃないもんな。そう思うのも仕方ないか。」
「そう言えば、菊川さんは知り合いに占いが大好きな女子がいるんでしたか?」
「あぁー、まぁ。確かに占いをするのが大好きな奴はいますね。黒……えっと名前出すのは止めておきます。」
「そう言えば、私達九月の頭に占い見たよな。ネット占い。」
「あー、あのやけに詳しく占いの結果が出るサイト…確か『友人のいない無口な親友が初対面の人によくされて礼を言う』って結果が出たアレですか。眉唾だと思ってましたけど本当に当たった時は驚きましたよ。」
「…………。」
「どうしたのゆずりん。冷や汗かいて。……たしかサイト名は………。」
「「ブラック・リバース」」
「すいませんそれ私の友人のサイトですそしてさっき言った占い大好きな人がやってるサイトです。」
「うっそマジで!?」
「はい、マジです。しかも彼女、その手の天才的な能力持ちです。」
「ほんと………また占ってもらいましょうか……?」
「彼女自身好きでやってるから良いですけど面倒事になりそうな占いは止めて下さいよ?」
「あー。まぁ、分かったわ。」
「それと、あの…前にいろいろあって、変なもの見ちゃったんですよね…。」
「何を見た?」
「それ単体は普通の物なのにおかしなほどの威圧感を放つ十字架のネックレスです。周りに人がたくさんいたのに気付いたのは結局私だけだったんですよね……。」
「……へぇ……。」
「今回はこの辺りでお開きのようです。所属違うのに菊川さん。ありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ。」
「「では来月のこのコーナーで会いましょう。」」
「っていうと一月分私達出ない流れになりそうだよな。」
「智っ! せっかく綺麗に纏めたのに!」
「あはははは………。」