12月/1/クリスマスパーティーだよ!だいたい皆集合!
12月。あっと言う間だ。もう二学期が終わる。
いや、実際はまだ期末テストに連なるイベントがたくさんあるわけなのです。
「今回は負けない……。」
目の前でボクの机の大部分を占領するように突っ伏している圭佑が中間テストに関してまだ引きずっているのか、そんなことを言う。
そう言えば、この間、清水さん2人が垣原先輩に引き摺られていったけどあれはなんだったんでしょうか。
「だいたいなんなんだお前は…。前回当てつけみたいに高得点乱発してよ……おまけに何だよ学年一位って……ふざけんなよ…。」
「あはは………あの時はテスト返ってきてからテストが満点ばっかで驚いたよ………。」
「………? 何でおまえそんなまるで地獄を味わった後みたいな目をしてるんだ?」
地獄を味わったからだよ。
義姉さん、なんか最近苛ついているのかも知れない。いつも以上に酷かったからなぁ……。
あ、テスト勉強の時だよ?
「よっす。」
「あ、長谷さんか。こんにちは。なあどう思うよ、こいつの成績ー、前のテスト学年トップだったんだぜ?」
横から長谷さんが現れて、こちらに挨拶をしてきた。その返事とついでに圭佑はボクの成績をどう思うか聞いた。
因みにボクの成績がどうこうはここの担任がいつも緩いくせにテスト成績クラス上位者3人の名前と順位、さらに合計点数まで張り出しているのだ。こういうところは毎回しっかりやると言うのだから、よくわからないが、ボクの成績が高いことはクラス全員が知れる。
圭佑が大声で叫びやがったから今回は皆知ってると言う訳なのだが。
「勿論知っとるよ? それを今更……あー、そういや、もうすぐでテストやったね。それで多嶋君がそうな感じなんか。」
「何故憐れんだような目でこっちを……まぁいいや。長谷ぇ……テストどうよ?」
「どうもこうも……部活が忙しゅうて、何も出来とらんのよ? そんな状況で良い成績なんて取れやしないやろ。」
「そうか……そうだよな!!」
圭佑はガタッと立ち上がり、どう思ったのか長谷さんの両肩を掴む。肩を掴まれた長谷さんは顔を赤らめる。
「圭佑………。やめなよ…。」
ボクは半眼で言った。
「………。」
長谷さんは圭佑の手をゆっくりとした動作で払いのけた。それから一言。
「や め て よ 圭 佑 君。 い や だ な ぁ? 君 よ り も 2 0 は 上 だ よ ? 順 位 は。」
「何……だと…!?」
まるで裏切られたかのような表情になる圭佑。因みにボクの順位を言いふらすときに自分のも言っていた圭佑。だからまあ、覚えているかはともかく知られている訳だ。
「……はぁ。」
溜め息を吐くと、ちょうど授業が始まるチャイムが鳴り響いた。
「────と言うわけでお願いします! あの憎きクラスメイト共を見返すにはトップ3入りしかないんです!!」
土下座する圭佑。文芸部の先輩方は笑いながらその姿を見ている。笑いと言っても明らかに呆れが含まれているようなそんなものだ。
……デジャヴかなぁ…?
「取り敢えず面を上げよ、圭佑よ。」
一度表情を引き締めてからどや顔で茜屋先輩が言う。腕組みまでして、何か作ってる感が出ているが、何故わざわざどや顔を……?
「え……教えてくれるんですか!?」
「あぁ、勿論だよ。───雪、頼んだ。今日は葵も呼ばれてるから連れてくね。」
「………ん。」
鍋川先輩は茜屋先輩の言動に顔をしかめつつも、了承の意を示した。
それから圭佑がガバッと顔を上げボクに向かって言い放つ。
「優、おまえどっか行ってろ、絶対気が散る。」
「ボクとしては、君の集中が保つか心配なんだけど。」
「その心配な集中がお前のせいで無くなるって言っとるんじゃ。はよ、はよ。」
すると茜屋先輩は部室から出る途中でボクの手を掴み、引きながら出て行く。
「好都合だ、連れて行くぞー。」
だ、そうだ。何が好都合なんだろうか。
すぐに分かった。
「よし、まず、今回の話し合い。何が重要だか分かるな?」
三年生の無人の教室に入り、ボクと垣原先輩を適当な席に座らせた茜屋先輩は黒板に大きく文字を書き、指差した。
そして茜屋先輩の問いには垣原先輩が答えた。
「対雪幸サプライズクリスマスパーティー。……へぇー。智、面白いこと考えるじゃない。」
「それほどでもあるかな。」
褒められて自慢げな表情をした茜屋先輩はそのまま説明し出す。
「今回は雪にバレないように、部室でサプライズクリスマスパーティーをしようと思います。期日は12月24日、終業式の日だ。」
「……鍋川先輩、先輩方よりいつも早く来てますよね? 先輩方の方が早く来たのを見たのは一回しかありませんよ?」
茜屋先輩はその問いに渋面を作り。
「いや、その一回は実は先に来てた………いや、何とかする。授業サボったりとかな?」
「いいんですか…それ?」
「良くは無いけれど、雪よりも早く部室に行くのは距離的にも無理があるのよ…。」
「まあ、その話は置いといて、飾りと食料! これを買い揃えるんだ!」
「……先来れないのに飾り付け出来るとでも思ってるのですか?」
また、その問いには垣原先輩が
「奥の手を使うわ。ちょっと使いたくないけど、仕方ないわよね? 智?」
「そうだな。しゃーないな。」
何のことか分からないが、出来るなら良いのだろう、多分。
「で、食料。クリスマスっぽいのをたくさん買うんだ。部費で。」
………部費でいいのだろうか?
と、思って垣原先輩を見るも、特に言う事もないのか、うんうんとゆっくりと頷いている。
「と言うわけで後日買い出しに行くぞ? 分かったか?」
「分かった?」
2人揃ってボクに言う。
「分かり…ました。」
ボクは頷いた。二人の表情にほんの少し明るさが増す。
「飾りは友人に頼んだから問題ないけど、紙の飾り……あの輪っかみたいな奴? は、私達でやるぞ?」
茜屋先輩がそう言いきると、垣原先輩がどこからともなく折り紙を沢山手元に出した。
先輩方と短冊状に切った紙を輪の形にしてその輪を延々と繋げていく作業に一段落つけて、部室に戻る。
因みに飾りの保管は、どうやら鍋川先輩とは部長副部長ともにクラスが違うらしく、しかし茜屋先輩のロッカーなどは汚く、仕方なくというか順当というか、垣原先輩が保管という形になった。
部室に入ると、ちょうど圭佑の勉強に一区切り付いたようで、圭佑は伸びをしてからこちらを首だけの動きで見た。
鍋川先輩は片手で本を持ち、圭佑が広げた勉強道具をチラチラと見れるような姿勢であった。勿論基本は本に視線が注がれていたが。
「あー、優。用事終わったなら一緒に帰ろうぜ。……雪幸先輩、今日はありがとうございました。」
圭佑は立ち上がり、鍋川先輩に礼を言うと、すぐ行ってしまう。
「あっ、ちょっと待ってよ…先輩方、今日は失礼します。」
さっさと行ってしまった圭佑を追うべくボクは荷物を持って、走った。
「ちょっと待って……!」
そう言う事で圭佑が立ち止まる。追い付くのを待ってくれているようだ。
ボクは圭佑の横まで駆け寄り、ゆっくり歩く。
「一緒に帰ろうって言って、先に何で行っちゃうのさ……それに一緒に帰るったって、圭佑の家すぐそこじゃないか。」
「優、考えがある。聞いてくれ。」
「………何の話何の考え何を言うつもりだ突拍子もなく前置きもなく始めるなよ圭佑。何の話?」
「あー、聞いてくれるのか。……なら好都合だ。」
「だから、何の話さ?」
圭佑はさもそれがとても欠かせない重要なことであるかのように一拍置いてから神妙な面持ちで言うのだ。
「クリスマスパーティー、ウチでやらね?」
「………ちょっと待て。それって……。」
それが何日───クリスマスイブかクリスマスかと聞こうとした。対鍋川先輩サプライズクリスマスパーティーの日程、24なら完全にダブりと言うことになる
「ん? 日付なら25だぞ? 大半の知り合いに声掛けたし。」
「なら大丈夫だけど………大半とか、行って知らない人ばっかだとどうするの?」
「それはへーき。誘ったのクラスの連中だけだから。でも先輩方誘うかどうするかはちょっとまだ決めてないけどよ。」
「ふーん。」
「何か食べ物持ってくるのも、クラッカー持ってくるのも良いけど、誘った人皆に言ってるんだけどな。プレゼント交換。あれをやるから、交換用の物を持ってくることが参加条件な?」
「うへぇ……誘っといて用意しろとか何を言っているんでしょうかね。」
「ならばよろしい、飯出さないからな?」
「是非持って行きます! ……はっ!?」
参加することを反射で伝えてしまった。
「……ふっ…。了解。じゃあな。」
圭佑はさっさと行ってしまった。
というか圭佑。勉強そっちのけでこのこと考えていたんじゃないよな……?
それから家に帰るとやはり、義姉にテスト勉強を叩き込まれた。
「義姉さん、なんか最近苛ついてない?」
ボクは勉強を四時間ほどした後、伸びをして体を解しながら聞いた。すると義姉はボクのことを睨み
「勉強中。誰が集中を解いて良いと言いましたか?」
「うぐ………。」
しかし義姉は一度瞬きをすると目つきを柔らかい物に変えて、明るめの声音で続けていった。
「……でもまあ、かなりやったから仕方ないわね……。優、あなたは最近私が苛ついてると言ったわね?」
ボクは頷いた。いつもと対して違うように見えなくとも何となく分かった。義妹も分かっているんじゃないだろうか。
「まぁ、その通りと言えばその通りなのだけれど。最近 調 べ 物 をしていてね。」
「………?」
気のせいか、調べ物と言った瞬間、謎の寒気が……冬場だろうか。しかしボクが謎の感覚に襲われたことに気付くこともなく義姉は続ける。
「その事でとてーもいやなことがあって、それのせいかしら。」
ごめん、気のせいじゃない、寒気が止まらない……!
部屋の暖房を入れてあるか見ると、切れてた。なんだ、これか。
「そっか……ええと暖房つけるよ?」
「なんか寒いと思ったら、消えてたのね。」
義姉の言動にどこか白々しさを感じたが、特に引っかかることも無かった。
「そう言えば優? 最近は高校楽しい?」
突然の話題。最近と言うがこの前入学したばっか………ああもう12月だったか。
「楽しいよ。………でもどうしたの義姉さん。突然そんなこと聞いて。」
ボクは質問に対して、嘘偽りなくはっきりと答えた後に質問を返す。
「そ…それはまあ心配だったのよ、これでも優の『姉』ですから? 同じ高校に姉妹はいないから虐められてないか心配で……。」
珍しく義姉が口ごもる。が、その後はすらすらと言う。
「『姉』だから、か……。」
「そうそう『姉』だから優が何やってるか興味あるのよ。優に部活が悪影響与えていないかとか、友人が悪影響与えていないかとかね?」
「…!? どう反応したらいいかこまるんだけどっ。」
義姉は何を言っているんだろうか。
「え、えええと、一旦この話は止め! 別の話にしましょ!?」
慌てて仕切り直そうとしていても、言ってしまってからでは遅い。その失言を元にボクの中で話が繋がっていたから誤魔化すも何も出来ない。
「調べ物……そう言うことか……。と言うことは嫌なことってつまり………そう言うこと。」
義姉さんは、ああしまったというような顔で一歩二歩と下がり、そして走って部屋から出ていった。
……………。
「別に、少しは気にするけど。心配から調べたならそれは別にいいんだけどなぁ………。」
義姉の出て行った扉をしばらく眺めていたが、そうしていても特に何もない。ボクはやることもないのですぐに寝ることにした。
圭佑がまた教えを請いに来たため、ボクの方もまた部長副部長に引き摺られて、誰もいない教室に入る。今回は二年生の教室だった。
「終業式の日だぞ? 覚えているよな?」
「分かってますよ。」
ボクは延々と垣原先輩が折り紙を短冊状に切るので、それを輪っかにして、輪っかにして、輪っかにして、輪っかにして、輪っかにして……と延々と輪飾りを作っていた。
「これはまぁ前々から思っていて優君に言いたかったことなんですけれど……。」
垣原先輩は目線を折り紙を切っている手元に向けたままそう言った。
「良いなぁ……その身長……私と代わって欲しいな。」
「!?」
垣原先輩は特に普段と変わらぬ様子で続けようとする。
ボクは改めて垣原先輩を見る。身長は女子の内では高めであるが、それを言うと茜屋先輩とも大して身長に差はないように見える。重要なのは他人と違う違わないでは無いことはわかるが。
対してボクは男子の中でも、最早女子と比べてさえ低身長であると言える。小柄な体格が女子に見えやすい要因を一役買ってるなら、代わって欲しいくらいだが。
「憧れてたのよね……まあ私が着れない服がたくさんとかじゃなくて、何なのかなぁ…欲しいのに限って似合いそうにない服なのよね……。」
「そう……ですか。」
「それに葵、背が大きくなるのが早かったせいでちょいと、あってな。」
茜屋先輩が続けざまにそう言う。あー、何かあったのか。
それから、二人とも黙り込んでしまったが、取り敢えず一つ。言うべきことかは分からないが、ボクの中には言いたいことが在った。
「義姉さんが、ちょっと調べてたみたいなんです。ボクの身の回りを。」
二人とも、ボクがまるで重要なことを言うような重々しい声音で言ったから何だと思ったら軽いことだった、と言わんばかりにきょとんと作業の手を止めて僕を見る。……声変わってないんじゃないかってくらい高めだから、重々しいかどうかは保証しかねるけれど。
「それがどうした?」「それがどうしたの?」
それから茜屋先輩が続ける。
「優の姉と言うと、あの……。」
「前話しましたよね。」
ボクは己の長い髪を左手で梳き、二人に見えるように前に出す。茜屋先輩はうんうんと頷くが、垣原先輩は何の話? と言わんばかりに首を傾げる。
「しょーじき、関わり合いたくは無いんだけどなぁ……。」
茜屋先輩はそうぼやいた。
「あの……あのエピソードにそんな嫌悪感を抱くような事なんかありましたか……?」
ボクが半眼で茜屋先輩に言う。一方垣原先輩に茜屋先輩は説明している。
「優の髪が長い理由。切るタイミングがないから姉が切ってくれてるらしいんだけど、この間ズバッとやっちゃおうとしたらハサミぶっ壊れた。」
「要約しすぎて言いたいことが伝わってないけれど? あとそれだとただ恐ろしく優君の髪が固いと言うところで落ち着いてしまいかねないのだけれど?」
「……まぁ良いです。義姉さんの情報収集力にはちょっと伝説がありまして……あ、これ義妹の情報でして。」
「手短に話してくれ。」
茜屋先輩がそう言うので仕方なく短めに行こう。
「義姉は中学の時、生徒会選挙に出馬する話になったらしいんですよ。曰く内申のためだそうで。そのときライバルみたいのがいたらしく。そいつを情報操作で罠に嵌め、その生徒は退学するか遠くに転校しなくてはならないほどに追い詰めたそうです。……義妹が言うには『一番怪しい位置にいるはずの姉はいっさい疑われずに会長になったよー?』だそうです。」
「「何があったライバル!?」」
出来るだけ短く説明したら驚きに溢れる返答をした。要望通りにしたのに。
と言っても、ボクだってよくは知らない。義妹が言ったのは確か───
「確か、生徒会選挙のライバルが自宅で練乳を美味しく食べてた写真だよー? とか言ってたな。何のことだろう。」
「「…………どういう絵面だったの……?」」
二人の疑問はともかく。
「知りませんよ、あと知ってることは誰にも言わず自宅で一人でやったのに……とライバルが言ってた位で……。つまりはボクが言いたいことは義姉の情報収集力の高さですよっと。敵意あれば怖いですからね、情報握られているのは。」
二人とも結局ボクが何を言いたかったかを理解していない。そんな気がするが、ただ、二人の間に。
「ねえ、智。ちょっと優君の姉というのに心当たりがあるんだけれど、まさか?」
「安心しろ葵。多分私も噂だけなら聞いたことがあるくらいだから心当たりがあってもおかしくない。」
「「私達、とんでもないのに調べられていたのでは?」」
不思議な一体感が。と言うか伝わったように思えるし、それにまさか義姉は有名なのか?
「分かってくれればいいんですよ。」
…………………。
「今ので終わり!?」
茜屋先輩が叫ぶ。なんです? 悪いか。