11月/そろそろ少し話そうか。少し前のことを
色んな事に挑戦するのは良いことですよね。気分が悪くなるかもしれなくてもやってみた方がいいですよね!! と言うことで今回もよろしくお願いします。
11月とタイトルにあがったが、あれは嘘だ。
そう。事件は10月分を早めに提出した後、十月月末に起こっていたのだ。
「日直の仕事やってたら遅れちゃったな……。」
部室の扉の前で呟く僕。そして扉を開ける。
「どーもー、本日は皆さんいらっしゃるよーでー。たくさんのお菓子をどーぞー。」
部室の扉を開けて真っ先に目に映った光景は机の上に立ちバケツを抱え、その中から何かをバラまく鍋川雪幸その人だった。その足下、地面に平伏す圭佑と垣原先輩と茜屋先輩。
ボクは扉を閉め、深呼吸をする。
再度扉を開けるとやはり、無表情でお菓子…飴玉のようなものを上へとばらまいている鍋川先輩がそこにいた。
「何がどうして………こんな事に?」
何が目の前で起きているのかが全く理解できなかった。しかしそれでも時間は進む。
「ぁ……。」
でも、鍋川先輩はボクを見ても飴の雨を降らせ続けている。一瞬手が止まったようにも見えたが、続けている。
「……浅葱君、とりっくおあ……とりーと。」
そう。今日は10月31日、ハロウィンである。……である、じゃない。それにトリックオアトリートってお菓子配る側が言う台詞じゃないですよね!?
「さあ浅葱優よ!! 君もこの恵みの飴を享受し、感謝の意を示すのだ!!」
「完っっ全に!! 意味不明ですよ!!?」
茜屋先輩がそう言った。本当に意味分からない。
その時、鍋川先輩は机からスカート押さえながら降りて、ボクへと近寄る。
「浅葱君、お菓子をくれなきゃ悪戯するよ?」
ボクが男子平均よりもだいぶ身長低いせいか、鍋川先輩と目の高さがほとんど同じ。目の前に先輩の顔がある。鍋川先輩の服装は黒い三角帽子に制服から着替えたのか全体的に黒い服装、フリルのたくさん付いた長袖ミニスカートという感じだった。勿論眼鏡はしている。つまり魔女みたいなコスプレだろうか。
「いやちょっと待ってくださいボクの知ってるハロウィンと全然違うんですがそれにお菓子は持ってないですしあと鍋川先輩のその服装誰の趣味だ出てこいちくしょう」
鍋川先輩に近寄られたからなのか、ただ単純に目の前の光景に頭の処理が追いつかなかったからなのか発言内容の処理もせずにただ喋る。
「雪の服は私の趣味です、良いでしょう?」
そう言ったのは垣原先輩だ。良いです最高です。
さすがに感想を口に出すことはなかった。そして鍋川先輩がずいと近付く。
「……悪戯…するよ?」
「はい雪そこまでだ、優君だって事情を飲み込めてないだろうし。」
茜屋先輩が強引にボクと鍋川先輩の間に体をねじ込んでくる。ボクと鍋川先輩の間に入り両手で外側へと押しのける感じで。
「事情……あったんですか?」
ボクがそう聞くと茜屋先輩はさも重要であることのように真面目な顔になり、言った。
「無いよ。」
「無いんですか!!」
「こう見えても雪ってば、お茶目さんなんよ。本読めばその本に影響受けるし、コスプレすれば服装に自分なりになりきったりするし。」
なりきり……? じゃあこれはそう言うことか?
「そう言うときは私達一丸となって雪に合わせるん。だってその方が楽しいからさ。」
「そうですか…で、それでどうして飴降らすことに……。」
「それはね───」
その瞬間ボクを突き飛ばす鍋川先輩。ボクは突然茜屋先輩の前に出て突き飛ばしてきた鍋川先輩の行動に抵抗できずに廊下まで転がり出る。そして扉が閉められる。
「………え、ええー。」
何がどうしてこうされたのか一切理解できなかったが、その直後のことで直ぐ理解した。
「どうして『ハロウィンは本に書かれていることとは違う。本当はこうさ』とかどや顔で嘘教えるのさーーー!!!」
鍋川先輩と思しき大きな叫び声を聞いて。あー。そうか茜屋先輩、だから常に吹き出しそうな顔してたのか…。
翌日にはいつも通りの無口無表情の鍋川先輩が部室にいた。
鍋川先輩しかいない部室でボクは聞いてみた。
「そういえば、昨日ボクにトリックオアトリートって詰め寄ってきましたけど、あれ、結局何するつもりだったんですか?」
「…………!!」
それを聞いた途端に鍋川先輩は顔を真っ赤にして持っていた本──この時何故か広辞苑を読んでいた──をボクの顔面めがけて投げてきた。
避けられずにクリーンヒット。怪我はしなかったけれど物凄く痛かった。
ついでに結局何するつもりだったのかも謎のまま、聞くことはできなかったのだった。
──☆──
11月。肌寒さが増してくる頃合い。
教室で周りを見ると制服の下にセーターを着るなど、寒さ対策をしている人は多い。
そんな中、目の前のご友人はボクに向かって言うべきでないことを言う。
「良いよなお前は。自前のマフラーが有って。」
言われても直ぐには何のことか分からなかった。
「それだよ、その校則無視な長い髪だよ。」
校則無視加減で言えば茜屋先輩の赤い髪もすごいと思うし、ボクの髪の長さについて生徒指導の先生になんやかんや言われたことない。
それよりも、長い髪を防寒具呼ばわりか。
「圭佑。何のつもりかな?」
「!?」
あれ? 何をそんなに怯えた目でこっち見てるのかな? まあボクにはボクの主張が在るんだから取り敢えず聞いてくれるならいいや。
僕は首の後ろで括られた髪を一房、首の前に手で掴んでもっていく。
「圭佑。この長い髪、別にしたくてしてるんじゃないんだ。そりゃあ今の季節、暖かいかもしれないけど運動すれば汗が蒸れるし、何より長くてうざったい。取り外し不可の呪いの装備品なんだよ。地毛だけどさ。」
「切れば─」「ああ、ボクだって出来ればそうしているよ。でも切らせてくれないからさ。この点だけに関わらず全く以てどうかしてる人だよ。あの人は。」
とと、そういうことが言いたいんじゃない。
改めて親友の目を見て話を続ける。
「とにかく、この髪をバカにすると、ボクとしても気分が良いもんじゃないし、ボクとしてもこの髪の長さは嫌なんだ。話題として触れないでくれるかな?」
「……あ、あぁ。わかったよ。………所でさ、これでこの話題やめるから一つ聞いて良いか?」
話題は終わったかと思い鞄に入れていた本を取り出そうとしたところでそう切り出される。
気を抜いていて反応が遅れてしまい、結果返事がないことを可と受け取ったか、圭佑は聞いてきた。
「あの人……って誰だ?」
…なんだ、そんな事か。
「義姉さん。」
「へー。優、姉がいたのかー…。」
本当にそれだけだったようだ。そこで話は途切れてしまった。
これから部活なう。呟きたい年頃な浅葱優です。
授業終わってから文芸部室に向かうボクの一連の動作を無意識にしてから気付く。随分馴染んだと。
思えばふた月、既に部活をしている。義妹からは「最近帰り遅いけど、なんかしてるのー?」と聞かれ、部活だよと答え。義姉からは「文芸部は楽しいの?」と聞かれ。
「あれ、おかしいな。何部入ったとか言ってないぞ?」
冷え込んだ廊下で1人呟いた。
部室に辿り着くと、いつも通り鍋川先輩が先に来ていた。
圭佑? 彼はバイトとかやってるようでそれ優先……というかアレは部員じゃない。
「……浅葱君。こんにちは。」
鍋川先輩が挨拶をしてきた。
「こんにちは、鍋川先輩。」
勿論、素早く返した。
「…今日は、寒いよね。いつもより。」
「そうですね…急に気温下がりましたよね。」
「……ちょっと寒いけど、浅葱君みたいに髪伸ばせば少しは暖かいかな?」
………先輩と会話が続いている…っ!?
「……、…あ……えっと、まあ確かにこの髪冬場はそこそこ暖かいです、それこそ坊主頭の人が『頭大丈夫かな』と二重の意味で思うくらいには暖かいです。でも、それはそれとして夏場がとても大変でして…。」
その説明を小さく頷きながら聞いていた鍋川先輩は決して大きくはない声だったが力強い声で
「──夏場、切れば問題ないとおもうよ?」
───皆そう言うんです。
今朝方の圭佑に向けた意識よりも数段も劣る無意識的な意識を向けてしまい、鍋川先輩の肩がビクリと跳ねる。
ボクって髪の話しようとすると、どうやら無意識に睨む習性みたいなのがあるようだ。圭佑のときは抑えなかったけど。
「切れないんです。」
「……え…? ハサミの刃よりも、固かったりするの?」
ユーモア溢れる反応だ。鍋川先輩がそんな反応するとは意外だ。
そしてもちろんボクの髪は特別固いとか無い。とても柔らかい髪質だ。嬉しくとも何ともないが。
「違います。切れない理由はちゃんと存在します。ちゃんと今から話します。」
「…………髪、鉄より固いとかじゃなかったんだ……。」
鍋川先輩、何故そこでショックを受けたかのような表情になっているんですか。
「当たり前じゃないですか! 実際この暑苦しい髪をいつも一定に保たれているのは義姉のせいなんですよ、いつも伸びすぎたらある一定まで切ってくれるんですよ。義姉曰く『可愛い顔しているんだから髪とかできるだけかわいくしなきゃあ』と。…本当はこの髪の長さ、嫌なんですよ?」
それだから、適当にゴムで髪を一つに纏めているだけなのだ。
「髪を始めて長くしたのは父が今の母と結婚して、ここに来たときなので中学二年の時…。」
すらすらと言ってしまってから、何でこんなことまで言ってしまっているのかと思い至る。
しかし鍋川先輩は開けたまま考え込み止まったボクに向かって
「………時?」
そう聞いてくるので、続けて話すことにした。そんなに重い話でもないしね。
「くる前は関東居たんだけど、こっち来たときはまだ髪短かったんだよ。それでも女子と見間違われることはしばしばあったけれどさ。それで今の母さんは連れ子が二人いて両方とも結構な美少女でさ……ああイヤそこは重要じゃなかった。その姉の方がボクの髪を伸ばせばもっとかわいいとか言ってさ…………。」
「初めて会ったときに父さんが気を利かせて『子ども達だけで話してきなさい。』って親達から隔離されてその後、姉妹の姉から出されて飲んだ紅茶? それが不味かったのは覚えてるんだけど、それだけしか覚えてないんだよね。」
「……… (ごくり)。」
鍋川先輩は本を閉じて食い入るようにボクの話を聞いていた。……これ、そんな面白い話ではないんだけど…。
「気が付いたら、姉妹の妹に向かって『起きた、大丈夫だったよ!』と言う姉と姉に向かって怒る妹の姿があったんだよ。つまり、寝てたんですよね。初対面の、それもこれから暮らすかもしれない人たちの前で居眠りをしてたみたいなんですよね。」
鍋川先輩が『それ本当に眠ってただけなの?』みたいなこと言いそうな目で見てる。言わないだろうけど。
「で、そのとき頭というか首あたりに違和感あるなー、って思ってたら。」
「………思ってたら…?」
「髪型背中の半ばまで伸びてました。」
「!?」
「いやー、あれは驚きましたよー? だってあの後驚きのあまり親の方まで走っていったら、親はそれがふつうみたいな目でこっち見てくるんですよ? …不思議ですよね。」
そこでやっとほかの部員も来た。
「いやぁお待たせお待たせ! 二人で何の話してるのかな?」
茜屋先輩だった。柿原先輩だったら迷わず続けていたかもしれないが、この茜屋先輩じゃあ話の続行は不可能になるんじゃないかと
「じゃあ鍋川先輩。茜屋先輩も来たことですし、部活に戻りましょうか。」
そう言ったのだが、鍋川先輩は強情にも
「……続き。中途半端は気になる。…浅葱君だってそうでしょ?」
続きを強請ってきた。
「ねぇねぇ何の話? ねえねえ、ねえねえねえ?」
「耳元で五月蠅いですね!!」
耳元に近づいてわざわざそう言う茜屋先輩の顔面をノールックで掴み、締め付けた。言わばアイアンクローだ。
そしてある程度の時間締め付けてからその手を外側に払いのけ、茜屋先輩を解放する。
「痛た…優君ってば、女子にも容赦ないね…。」
「……部活に連れてくるとき市中引き回しの刑みたいなことやった張本人がよく言うよ。」
それから茜屋先輩が静かになったのを確認してから話を再開させる。
「本題の、何で髪切れないのかって言うのは、別にさっき言った事が原因では無いんですよ。」
「……切っても無限に伸びる体質になったとかじゃ…ないって事?」
「雪……ふくくっ…それはないって…ぶふー…。」
茜屋先輩に笑われた鍋川先輩がボクを睨んで、って何でボクを睨んでくるんですか。
仕方ない、さっさと話をしてしまおう。
「床屋、美容院に行けないんですよ。」
「「?」」
「家から床屋とかの髪を切る店が遠いというか知らないのもあるんですけど、決まって今日こそ行ってやろうというときに限って、店が臨時休業とか、道中人垣が出来てたり、事故で通行止めになってたり…酷いのだと義姉が直接止めに来たのがあったな……。」
「えー、と、雪、これって、優の髪が何で長いのかの話で桶?」
「……うん……。」
酷く戸惑っている茜屋先輩。
「で、いっそ自分でやろうかと自宅のハサミを持ってバッサリ肩の高さまで切ろうとハサミを開いた途端に背後から手を伸ばされてハサミ持ってる手の関節をキメられていたんですよね、義姉に。」
「「………。」」
「そのときの義姉の目つきの怖さが、髪を切ろうとすると義姉の気配がチラついて…………。」
利き手の右手が震え出す。ヤバい恐怖を思い出した。
洗面台の鏡に映る影がボクの手を掴み、不気味な笑いを浮かべているのを……!!
「大丈夫か? …あ、そうだ、なら今切っちゃうか?」
「…!?」
え!? どうしてそう言う発想が!?
驚きの発言をして、しかし至ってまじめな顔で茜屋先輩は言う。
「震えるくらいのトラウマでもショック療法なら効くんじゃないか?」
その言葉になるほど、やってみようとなる程ボクは軽くない。
だから今茜屋先輩がボクの言葉を待たず「すべすべー……何でこんなのが男なんだ…?」と髪を持ちながらハサミを入れようとした事にも……!?
「……ちょっとまって茜屋先輩ボクにも心の準備という奴が」
「ほんじゃ切るよー、えい………え?」
パキン、と音を立てて落ちたネジとはらりと数本落ちていくボクの髪。
茜屋先輩はボクの髪と、駆動部分の無くなって2つに別れたハサミを持ったまま
「う……うわー、どうしてこうなったか見当も付かないなー。あははー。」
乾いた笑いを浮かべていた。
そしてこの日トラウマの信憑性が増えた。
──☆──
「はい、じゃあ次の時間やりたいこと在りますか?」
11月のとある授業でその話が上がる。次の時間は最早自由時間みたいなロングホームルームだ。しかしやることが決まってない自由時間だ。
「はい。」
目つきが凄まじく悪い男子生徒が気怠げに挙手する。度々出て来たボクが友人だと思ってる人だね。
「…はい、塚見くん。」
仕切り役を買って出た生徒が指名する。あまり表面に出されていないが、怯えている気がする。
「何もしたくありません。休みませんか?」
立ち上がりもせず──立てと言われていないからだろうけど──机に突っ伏した状態で顔だけ上げてそう言いきった彼はまた机に突っ伏した。
「休むわけにゃいかんでしょ全く、生徒の息抜きが目的なんだからねー。」
教室の隅でいすに座りながら読書している担任はこの時本から顔を上げることもなく、しかしどことなく面倒に思っているのが丸分かりな口調だった。
何か、誰か言ってたな。自由にさせるのは、誰が誰とどういう感じなのか、虐められていないか見定めるためとか。……誰から聞いたかも思い出せないし、きっと妄想とかと変わらないだろう。信じるに値しない。
「他ー。いないー?」
そう言えばもう、7ヶ月も同じクラスなのだから誰しもクラスの立ち位置が固定される頃合いを大きく過ぎて、誰がこういうときどう動くかがクラス全員に認識されてるんだよね。
例えばほら。
「はーい。いるいるー。」
目の前の軽薄…もとい圭佑が手を挙げるかどうかをクラスで賭けたりなんかすれば、九割が正解するだろう。
「はい、圭佑。」
すくっと立ち上がり、ニコニコしながら提案した。
「バスケ。」
………あれ、意外と普通?
「でも、今からじゃ体育館のスペース取れないよー?」
またも担任から否定的な発言。
「あー、そっすかー。じゃあ」
圭佑はポケットからカードを取り出した。
「U○Oとかどうですか?」
事情により一部伏せ字にしておきます。
「まー、それなら……おい圭佑、何セットあるんだそれ。」
担任が、本から目を離さずに聞く。
「ふふふ……10セットありますぜ!」
顔を見ることはできないがその顔はきっとどや顔だっただろう。
そして担任は読んでいた本を栞も挟まずにパタリと閉じて
「よしじゃあ今日は○NOやれ。分かったかー?」
間に入り込めなかった仕切り役が「えー、あのー、まだ案とかあるでしょ。」とか小さな声で口ごもりながら言うが。
担任、それと一部の相談する騒音が嫌いな生徒に睨まれて仕切り役は「はぃ…わかりました」と渋々口を出すのをやめた。
次の時間にやることは決まったらしい。
と言うわけでこのクラス四十人いるので四人グループを10作れば問題ない。
ついでにずっと同じじゃ詰まんねーだろと担任が仰るので、ペケが班移動するルールになった。
最初の班だが、さっきも出た塚見と言う男子生徒、それと塚見とよくつるんでいる保子河 濁斗と言う男子生徒。あと長谷 灯と言う女子生徒と一緒になった。
因みにこの長谷 灯、前バレー部手伝いに行ったとき話しかけてきた生徒だ。気付いたのは翌日だが、実際バレー部で話すまでは話したことすらなかったし、それ以来も一切話していないのだが一応明記しておく。
「んじゃ、始めんぞ。」
そう言って何気にカードを配ってくれたのは塚見だった。
「あ、配ってくれるの。ありがとう。」
一応礼を述べるボク。
「………。」
無言とカードを返された。七枚。
……んー、怪しい。怪しいぞ。
受け取った七枚のカードを見るまでもなく、怪しい事に気付く。何だろう、塚見はこういうとき、面倒くさがってやらないのに、見てみろ、奴の目を。何か燃えてるぞ……!!?
「あー。カイ、これは仕組んだでしょ!?」
保子河がそう叫ぶ。因みに塚見には下の名前からカイと言うあだ名が付いている。読んでいるのはボクと保子河位だ。勿論地の文にも呼ばせない。今回はクラスメイト圭佑以外苗字統一で行かせてもらいます。
「さぁて、何のことか。さっぱりだ。」
塚見の手札がちらっと見えたが、あの黒い背景に四枚のカード………まさか!!?
しかし冷酷にもこんなルールがある。長谷は呟くように言った。
「記号上がり禁止なんやけどね。」
「あ…やべ。」
塚見はその言葉に大いに動揺を示した。おいこいつまさか泥カードで手札染めするように仕組んだって言うのか!!?
「そういや、時間で仕切られてるんでしょ、早く始まんないのか?」
保子河が言う。合図は担任が出すはずなんだが………。
教卓を見ると、本を盾にして眠りこくる担任がいた。
「どこの小学生だよ……。」
保子河のツッコミが入るが……ボク初めて見たよああやって眠る人。
「……始めるか。」
この瞬間、ペケが移動のルールが消えた。
「おいおい、どんだけ粘るんだよ……。」
塚見は呟いた。どれだけカードを引かせてもどれだけスキップを使ってもボクも、塚見も上がれなかったからだ。
「ねぇ、保子河君?」
「何で? 長谷さん。」
既に余裕で勝ち上がった2人が気怠げに話している。
やった泥2だ。
「何でこんなに長引くの?」
早々に2人上がったので山札がたっぷりだったにもかかわらず、山札が復活するまでやり合っていた事を指すのだろう。
長い。
「そりゃ、天才的にカイのカード運用センスが賭けてるからでしょうよ、長谷さん。」
また泥4とか……えー、赤あんまり持ってないんだけど………っておまえも持ってないんかい!!
「にしたって、もう移動ルールないんだし、勝負にこだわる理由がないんじゃ……。」
「んにゃ? 少なくともカイにはあるよー?」
「ちょっと濁斗黙れ、今良いところだから邪魔すんな。」
引いたカードが赤だった。よし、置ける。
「まー、長谷さん。覚えてるか? 夏休みの直前くらいにカイがアサギの事馬鹿にしてたのは。」
「いんや? 覚えとらんよ? なーんか空気が悪かったことくらいしか。」
だから何でここで記号カードなんだよ!!?
「へー……覚えてない人が居るとは珍しい。そん感じだとアサギん事も知らなかったか。」
「まー、せやね。」
あ、向こうも記号残ったな。余裕無さそう。
「1から簡単に説明すると、アサギの容姿馬鹿にしたカイが得意な種類の勝負で負けた。それだけなんだ。本人は実際得意だけど好きな種類じゃないとか言ってたけど、そん時自信を無くしたみたいだったんだよな。もう戻ったけど。」
あ、パスしてから焦ってる。何をしくじったのやら。
「得意な種類の勝負?」
「お、聞いてくれるんか長谷さん。それはな……。」
瞬間、塚見は素早く手札を裏返して机に起き、思い切り隣に座っていた保子河の口をふさぐように手を保子河の口あたりに叩きつけた。顎を思い切り掴みながら。
「黙れ。だ・ま・れ?」
一瞬意識が飛んだように見えた保子河だったが、塚見の鬼のような形相に睨まれてしまえば幾ら慣れていようが体がすくむだろう。こくこくと首を縦に振る。
「あー、そゆこと。」
それでもしかし、長谷さんはしっかりと『得意な種類の勝負』が何なのか分かったようだ。
「はいボクの勝ち。」
「クソっ……。」
でも長谷さんはその意味を理解してはいなかった。理解できていなかったようだ。
「はい、んじゃ、もう一戦やろか?」
まあ、掴みに怯えない地点でその推察は外れていて、分かってた可能性も捨てきれなかったが。
「あれ、赤髪の先輩来てるよ浅葱君。」
放課後、結局カードゲームは一切塚見がボクに勝つことはなかった。四戦とも。
長谷さんがそう言う。まあ、茜屋先輩なんて初日以来来たことないし、気のせいだろ。
「……居るじゃん。」
しかしその考えはまあ外れていて、茜屋先輩はずかずかと教室に入り、ボクの手を掴んで来ようとした。
その手を払いのけてから。
「やめてくださいよ、それめちゃくちゃ痛っ!?」
言ってる途中にも、手が掴まれそうになって抵抗していたのだが、抵抗むなしく手を掴まれて背負い投げの要領で背負われる。しかし抵抗すれば抜けられるだろうかとも思えたのだが。
「痛い!? 腕がもげるもげちゃいます部室まで保ちませんて!!」
思い切り腕単体を引っ張られ、まともな抵抗ができない。痛くて。
そんな中、一言。
「これって、塚見君が弱いのか、あの先輩が強いのか分からんね…。」
長谷さんが言ったのだろう発言が聞き取れた。
「今回、雪幸が『評価を下すなんて重い』と逃げてしまったので、私達の暇な時間で適当なことを書いていきたいと思いまーす」
「文芸部部長副部長でお送りします。今月のゲストはこちら。」
「どうもー清水(姉)だよ?」「清水(妹)だよ?」
「はいどうもありがとうございますってはい。誰?」
「智っ! 先月圭佑君が勉強を教えてくれって言った時、優君に勉強を教えてもらおうとしていた双子よ!」
「いえーい。」「もち私達も先輩方のことあんまり知らなーい。」
「そりゃそうでしょうに。」
「ま…まぁ。確かに面識はありませんでしたね。」
「まず私達が知ってることはー?」「赤い髪の方の先輩が様々な部活の助っ人をしているすごい人って事とー?」
「あー…そうか少し照れるな。」
「他にはー?」「そっちの青っぽい黒髪の先輩がー?」
「何でしょうか?」
「「常に学年2位という屈辱的立ち位置にいると言うことくらいでーす!」」
「………そうそう、智。」
「何でし…ひっ!?」
「ちょっとこの二人のお姉さんに言って来ますね、『虐められましたー!』って。私の言うことなら…信じてくれますでしょうし?」
「な、何で私達のさらに上に一人姉がいることを」「知っているんですか!」
「ちょっとした知り合いでな……。取り敢えず今回はこの所で。次回のゲストはあの人です!!」
「まだ決まってないでしょうに……さて、お二人さん…懺悔の時間ですよ…!!」
「「ひいぃーっ!!」」