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10月/文芸部員浅葱優の日常

   ──☆──


 茜屋先輩曰く、どうやら記録はひと月1つのペースで良いらしい。良いこと聞いた。






 ボクは流石にこの部活に慣れた。文芸部は基本毎日部室に集まる。


 集まった後、高頻度で居ない茜屋先輩は部活にいるときは垣原先輩を弄くり通し、鍋川先輩は本から目を離さない。

 ボクは垣原先輩の身代わりにされたり、圭佑は未だに部員じゃない上に何故か部室に堂々居座り、茜屋先輩に便乗して、ボクらを弄ってくる。


 そんないつも同じ様に見えて全く違う日々を過ごし、気付けば10月。特筆すべき出来事こそ無かったが、どれを書いても良かったんじゃないかとボクは思っています。


 活動記録にしては、私情が入りすぎている気がしてるけど、大丈夫らしい。鍋川先輩は直さなかったしね。


 そして高頻度で文芸部に来ていないくせに部長な茜屋先輩に関して、居ない場合は2つのパターンがある。


 1つはバイト、もう一つは………。


「そこっ!! もっと腰落として、姿勢低くっ!!」


「「はい!」」


 部活の助っ人…。どう見てもやってることが監督のやるべき領域に入っているが。


 因みに、女子バレー部の助っ人を茜屋先輩と垣原先輩は今現在やっている。


 この二人の先輩、見た目に違わず運動神経が良すぎるというか運動能力が凄いというか。その能力はこのバカみたいに大きい高校内でも屈指らしい。何でそんな人達が文芸部なんかに……。


 色々な声が響く体育館に、助っ人頼まれた二人がボクを引きずってここまで来た上、「それじゃサポート宜しく」と、ボクを帰れない状況にした。


 そうされてしまい、なかなか帰ることができないボクは邪魔にならぬよう体育館の片隅で縮こまって溜め息を吐いていた。


 と言うか、女子の運動部を指導するのに何でボクを連れてきた!? 御両名がやる気があるのは既に体育着 (白地の半袖のシャツに下は膝辺りまであるジャージみたいな材質のズボン) に着替えて居るのを見て分かる。


 ただ、体育館というのは涼しくなってきた今でも半袖な様に、それなりに暑く、それこそ運動している人はかなりに多くの汗をかくわけで。


(うわあ!!? やっぱ目の毒だ!)


 汗で透けることは無いと思うけど、でも薄着の女子とか微妙にアレじゃない? うん、アレ。


 明言しないが、やっぱエロいと思います。特に助っ人二人、どことは言わないが大きいからねぇ……背もボクより大きいし。


 と言うか10月なのにあの汗のかきよう! 助っ人二人のスパルタな事スパルタな事! 


 どうしようもないので、顔を背けてぼけーっとしているしかなかった。






「全く、何でつれてこられたんだろうかなぁ……。」


 練習が一区切り付いた頃、ボクは何でかタオルとか水分補給などを促した。と言うかやってることがマネージャーぽいな。


 取り敢えずなんか色々している内にバレー部員の人に話し掛けられる。


「ありがとう。…君は?」


 話し掛けられるというか、礼を言うのがメインだったのだろう。


「…ぇー……あの二人に巻き込まれまして…。」


 そう言うとその部員さんは気の毒そうな目を向けてくる。それに気付いたボクは慌てて


「あーでも、これが初めてって訳じゃないですから、問題ないですよ?」


 訂正を……訂正出来てなかった。しかしその部員さんはくすりと笑い


「あはは…大問題じゃない。大丈夫なのー?」


「まぁ、平気かな…。」


「そなの? ならええんかな…。……?」


 部員さんが疑問符を頭の上に浮かべている間に別の人のところに向かうようにした。今の人、よく見たら同じ学年だった。


「にしても。」


 放課後の練習とはいえなんとまあ、タオルとか飲み物とか配るほどあるのはどうしてだろう……。


 分からないまま、女子バレー部の活動に付き合わされた。






「じゃあこの辺で────」


 どうやら助っ人の活動は無事終わりを迎えたらしく、そそくさと体育館の外に出て行く二人を追い掛けて外に出る。一応出る前に一礼。



 外は既に暗くなっている。少し先を歩いている制服にいつの間にやら着替えていた二人に小走りで近寄りつつボクは聞いた。


「……何でボク連れてきたんですか?」


 すると垣原先輩が薄く笑いを浮かべながら振り返ってくる。


「それはね、智がいつもいないのを、文芸部を(ないがし)ろにしてまでやってるわけだけど、決してサボってるわけじゃないというのを見せたかったからだよ? ほら、頼まれると断れない子だし、それに──」


 言葉を遮るように茜屋先輩が。


「まあ、部長を、部員になめられるようじゃ、やってられないからな!」


 一段階位歩きが早くなった茜屋先輩。


「あぁちょっと待ってよ智~。」


 それに気付いて後ろ向きに歩いていた垣原先輩は、前を向き直して駆け足で追っていく。


「……まぁ、部活来ないで遊んでいるわけじゃない事を見せたかったって言うけど…。」


 実際、そんな事は微塵も思っていなかったんだけど。


「…あっ……行っちゃった。」


 少しぼけーっとしている内に先輩方二人は視界から消えていた。


   ──☆──


 鍋川先輩曰く『部活の助っ人話だけじゃ足りない。もう少し話長くした方がいい。もう下らない煩悩まみれでも良いから』だそうで。


 1つで良かったんじゃないんですか!?






 正直に言おう。


 ボクは文芸部に入るまで本を読むことは無かった。父親に勧められるままに何冊か読んだことはあるが、面白いと思うことはあれど、積極的に、そう何冊も読む事はなかった。漫画だってそうだった。


 だから、入部してひと月位経った今。


「浅葱君も……読む?」


 鍋川先輩が突然たった今まで読んでいた本をボクに勧めてきた時、父親に勧められたときと同じように軽く答えていた。


「あ、はい。」


「……面白いと思ってくれればいいな?」


 そう言って、本を手渡してくる。


「鍋川先輩。この本どういう話ですか?」


「…読めばわかる。…いや……。」


 鍋川先輩は一度そこで言葉を切る。


 そこでタイミング良く部室の扉が大きな音を立てて開かれ、ついそちらを向く。部長副部長が来たのだ。


「読んでからのお楽しみ…かな。」


 ──そのせいで、鍋川先輩が何言ったか、訂正されるまで聞けなかったが、大した伏線でなくてホッとしていた。











 家に帰ってから直ぐに自室でその本を読んだ。


 読んだ。読んで読んで読んで読み続けた。


 一息で読んでしまったため、長時間自室から出ず、家族皆に心配されてしまった。曰く「読んでも来なかった」「返事してるのに部屋から微塵も音がしない」とか。


 自分としてはそんな長い時間読んだ記憶はないし、何より呼ばれた記憶も、ない。



 家で読み切ったにも関わらず、つい休み時間に読み返してしまった。どこが面白いとか具体的に言えないが、つい読み返してしまった。



「おいー、珍しく優何読んでるんだー?」


 部活の時すら読んでいたボク。すぐ返そうとしたんだけれど、珍しい事に例外なくいつも一番始めに来ている鍋川先輩が居らず、暇だからと本に手を伸ばしていた。所を後ろから、椅子に座るボクに肩を組むように茜屋先輩が聞いてくる。そして肩を組んできた方の腕とは違う方の手で本を強奪しようとしてきた。


「ちょっ!? やめてくださいこれ借り物ですから!!」


 ボクがそう言うと、肩を組む程度に置かれていた腕が首を絞めてくる。


「ぐぇ」


 一瞬落ち掛けて、本を持つ力が弱まり、その隙に本をかっさらう茜屋先輩。


「えーと…。」


 そのとき部室の扉が開く。


「智、返して。」


「え、あー…雪のだったのかー。仕方ない、返すよ。」


 部室に入ってきた鍋川先輩は微妙に険のある表情をしているように見えた。


 しかし茜屋先輩が素直に本を渡したのは意外だった。そしてすぐ受け取る鍋川先輩。


「……本、大事に扱って。文芸部でしょ…?」


「う……、はぁい…。」


「……浅葱君、もう読み切った?」


「……え。」


 突然こちらに目を向けて、鍋川先輩はそう言う。先程茜屋先輩と話しているときとは違い、優しい目つきだった。


 ……まぁ茜屋先輩が本を強奪したからだろうけど。


「まぁ、読み切り、ました。」


「………そ。…どうする? まだ借りてたい?」


「!?」


 茜屋先輩が驚いた表情を浮かべる。


「いえ、もう大丈夫です。返します。」


「………そ。面白かった?」


 鍋川先輩は無表情なままに質問してくる。ずっと無表情だったことをここに明言しておく。


「はい…! それはもう!!」


「そう…それは良かった。」


 そう言いながらいつも鍋川先輩が読書している椅子まで移動。


「雪が……微笑(わら)ってる……!?」


 茜屋先輩が、鍋川先輩を見てまるで信じられないことのように……実際ボクは見てなかったが、本当に表情が変わってたなら、ボクだって目を疑う。このひと月で殆どと言っていいほど表情が揺らぐ事がなかったんだからな、鍋川先輩って。



 それからしばらくの間無音だった部室。珍しく茜屋先輩が静かだと思ったら寝ていた。机に突っ伏して幸せそうな笑顔浮かべて。


「ねぇ……浅葱君。」


 そしてその静寂を破ったのは鍋川先輩だった。


「…何ですか?」


「貸した本、実は続編があって。……今、持ってるんだけど。」


「読みます。貸してください。お願いします。」


 声を抑えて、しかし真剣に頼む。その様を見た鍋川先輩はすぐに


「分かった。」


 ブックカバー付きの本を四冊、長机の上を滑らせるようにボクの目の前まで送る。


「良かった…。気に入ってもらえて。」


 受け取って抑え目な声で礼を言いすぐさま読み始めるボクを見て、鍋川先輩は小さく呟いた。


「失礼しまーす! …あれ? 葵先輩居ないの?」


 その直後陽気に突入してきた圭佑は、静かだった茜屋先輩を起こし、いつも通りうるさい部活になっていった。



 その日からボクは本を自ら進んで読むようになったり、小説を色々と買ったり、鍋川先輩に勧められるようになりました。

 


   ──☆──


 10月分がまだ足りないとは鍋川先輩も無茶苦茶を言いますね。確かに先月分かなり書いたとは言え、もうネタ切れですよ。

 ………どうやら、部活外のネタでも絞り出してでも書いて、か。











 平日、とある金曜日の昼休みのことだ。


「やほー?」「やっほ?」


 休み時間になるなり、クラスの清水という双子の女子が二人そろって話しかけてきた。


 因みに外見が瓜二つである彼女達は髪型で見分けられる。両者ともに高めの位置で括られたサイドテールが特徴的であるが、左サイドテールが姉、右サイドテールが妹という事で見分けられる。


 昼休みの始まりで近寄ってきた二人の思惑はよくわからなかった。どうせ、目の前の席の圭佑に近寄ったのだろうと下向いて、持参した弁当を取り出した。


「清水さん、何の用かな?」


 圭佑が双子に話し掛ける。ボクは静かに弁当を食べ始めた。


 一応他にボクたちに話しかけてくるような男二人がいるが…一応言うと片方は前に書いた目つきの悪い友人、もう一人はその友人とよく一緒に居る奴だが、その二人は学食で食べる習慣があった。だから食堂へと全力走っていった今彼等みたいなボクへと話しかけてくる人なんていない。


「いやぁ多嶋君だけじゃなくてさ~。」「浅葱君にも用があるんだよね~。」


 その言葉が予想外だったため、ボクは口に色々詰め込みながら顔を上げる。


 多分汚い。


「「勉強教えて?」」






「───と言うわけで勉強を教えて頂けないでしょうか!!」


 圭佑が文芸部にて、先輩方が座る方へと土下座をしていた。……ボクからはやれやれと溜め息を吐くだけだった。


「つまりは、圭佑が勉強教えたかったけど、優君にその株を奪われた。期末テスト辺りまでの成績が目立つほどでも無かったからだと思って思い切って私たちを頼ろうと言うわけだね?」


 茜屋先輩がそう言う。ええ、全く以てその通りでございますと圭佑。


「で、圭佑君、優君、一学期期末の成績どのくらいでした?」


 垣原先輩が聞いてくる。


「ボクは学年32位でした。」


「俺は………453位」


 因みに一学年1300人位います。


 今更だがどんだけな大きさだ、普通の高校の四倍位在るぞ。ふつうがよくわからないけど。


「あー…圭佑も、悪くはないみたいだけど…何? 優君はどうしたらそんな成績が出せるんで」

「智、自分の成績を」

「5位。」


「「!?」」


 茜屋先輩の発言に割り込む垣原先輩の発言に、即答する茜屋先輩の発言に驚く。


「つか、チミ達には勝てた記憶が無いんだけど? 万年1位と2位さん?」 


「ぅ…。」


 続けざまに放たれた茜屋先輩の発言の返答に困る垣原先輩。


「(べ、別に私自身は2位とか4位とかをうろついてるだけですから?)」


 小声。しかしボクには聞こえた。


「………てことは…。」


 ボクは鍋川先輩を見る。


「…………。」


 鍋川先輩は本を顔まで上げ、自らの顔を隠した。






 と、言うわけで、清水さんに勉強教わる前に、ボクらが先輩方に勉強を教わることになった。


「すいません垣原先輩、ここ、どうすればいいんですか?」


 よくよく考えたら圭佑は別に文芸部員ではないんだよね。入部届け出してないから。


「あぁ……ここはですね……。」


 圭佑は時に質問し、また、時に質問して、下校時刻まで勉強した。






 学校で勉強した。うん、勉強した。まあそりゃあそうとして。


「ただいまー。」


「おかえり優。…そう言えばもうすぐテストだよね。お姉ちゃんがそわそわしてたよ?」


「……うぐ…。」


 ボクはその発言を聞いて嫌な予感が走る。


「まー。お姉ちゃんの教え方、きっついからねー。私は遠慮しておくよ? そもそも進度違うからねー。」


 目の前にいる義妹は無責任にそう言いながらどっか行った。ちなみに義妹は高一、義姉は高二。通っている高校は別でボクの通う高校なんかよりもずっと頭のいい私立女子校だったりする。


 っと、早く荷物置いてこなくては。


「ゆうー?」


 そう思い自室に向かおうとしたところで声かけられて、ボクの全身が硬直した。


 義姉だ。そして後ろから近づいて


「夜、テスト勉強しようね?」


 とだけ言うとそのままUターンして去った。



 夕食風呂と終わらしてテスト勉強をせねばならない。


「優。そこ違う。」


「優。そうじゃない。」


「何故わからないの?」


「そこはこうして、ここは…違うそうじゃない。」


 厳しい指導、テスト前はたまに義姉が勉強を教えてくれるのだが、解放してくれるまでが長く、義姉がボクの学習段階に満足するまで解放してくれないのです。


 これで徹夜を何回したことか。



 それと圭佑にちょいと前にどうしてそんなに成績がいいのか聞かれたことがある。そのときは答えをはぐらかした。だってそうだろう? 完全におかしいだろう、徹夜勉強拘束する義姉のおかげで成績上位ですとか。






「───という訳なんだよ。」


 そうして月曜の放課後、圭佑がカッコ良く勉強を清水(双子)に教えていた。


 どうやら文芸部で教わった事が効いているようだ。というかきっと勉強したのではないか? 自分が頼られなかったのがそんなにショックだったのかなぁ。


「………。」


 そしてその様を見て、欠伸が漏れそうになるのを堪える。


 結局のところ、かなり基礎の部分をやっていて、かなりつまらな……──



「ありがとーね」「ありがとねー」


 結果圭佑は双子に勉強を教えるという任務を完遂した。圭佑はきっと勉強したんだろうナー。


 一時間くらい勉強して帰って行く清水双子。その姿を見届けてから


「優、俺だってやれば出来るんだよ。」


 そう言った。






 余談だが、圭佑の中間テストの成績は殆ど変動無かったようだ。そのときの圭佑の嘆く様を見て、ボクはただ(ああやっぱりな)と心中で呟いた。


 鍋川雪幸による講評。


「私、こういうの、よくわからない。どういうこと言えばいいのだろうね? 悪くないとは思うけど。」

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