9月/2/どうしてこうなった
翌日。どうやら部活動は放課後のみと言うことで、朝はいつも通りに支度する。
この暑さだと長い髪を恨めしく思う人は多いと思うが、ボクもその一人だ。一応こっち来るまではこんな長くしてなかったんだけどね…。
相変わらず、バスも電車も冷房完備。快適だ。快適過ぎて、物凄く眠いけども。
そして昨日と殆どおなじような時間に電車を降り、歩いていく。
「……あれ? …浅葱…君?」
歩いているところを声掛けられ、振り返るとそこには
「おはよう……。いつも…この時間なの?」
鍋川雪幸先輩がいた。
「…まぁ、そうですね。……そう言う先輩はどうなんですか?」
「……。」
鍋川先輩は無言で首肯。
どう対応したら良いか分からない。迷っている内に鍋川先輩はボクの先まで歩いていく。
ボクはその後ろ姿を慌てて追いかけることもせず、元のペースで歩き始めた。
教室に着くと既に多嶋圭佑が既に居た。二日連続でボクより早いなんて珍しい。
そんな想いで教室入りしたのがバレたのか。
「お前、俺をバカにしてるのか?」
と、開口一番にそんな事言われた。
「酷いな、ボクが君のことそんな事バカにしているように見える?」
「…はぁ。」
溜め息を吐かれた。何だよ溜め息って!
「それよりも! お前、昨日あの赤髪の先輩、茜屋智先輩に引きずられていったあと、どうなったんだ?」
んぅ? 圭佑はあの人知ってたのか?
「……おいおい、我が校では有名人だろ? まさか名前知らなかったなんて事は。」
思考読むなよ、エスパーかな?
「昨日知らなかったよ? と言うかアレが有名人?」
まぁ、有名になりそうな素質はあった気がするが。
「あぁ、本当に知らなかったんだな。」
ここで自分が立ったままだということに気付いて、自分の席に座る。
「まあ、お前周りの女子に興味なさそうだもんな。」
「無くはないんだけど。」
半目で反論してみたものの全く取り合う様子はない。
「話ズレたな。要するに昨日あれから何があったのか? と言うのを聞きたいだけだ。」
「誘拐された後ね? 文芸部室に連れ込まれて、謎の勧誘。『入部する』と言うまで帰してくれなかった。それだけ。」
「文芸部? そんなのあったのか? 聞いたこと無い。」
「ボクも知らなかったよ?」
二人の意見は一致。やっぱ知らなかったか。
「にしても、何故勧誘された。お前、本読まないだろ? 小説マンガ問わず。」
「まぁ、そうだね。」
そう。ボク自身全く本は読まない。読みたいと思えないだけで、多分読めないわけじゃなくて読みたい本が目の前に無いだけだと思うが。
「何でだろうね…………。」
ボクのその発言を親友は何故勧誘されたのか。という風に捉えていた。
「なぁ、優?」
「………。」
うわ、名前で呼んできたよ…。そういうときって碌な事がないんだよね…。
「部活、ついてっても良いか?」
………どうなんだろう? どうなんだろう。良くない気がするが。
「……ボクが決める事じゃないと思うんだよね…。」
答えに迷ったボクの発言はこんな所だった。だが、否定的な部分を無視して圭佑は
「よっしゃ、じゃ、よろしくな!」
明るい、世の女性なら一瞬で魅了してしまうような笑顔でそう言った。
そんな笑顔で言われてもボクからは呆れからの溜め息しか出ないが。
なんか、後ろの方の女子の集団がキャーキャー騒いでいた。何でだ。
ボクは歩きながらこめかみの辺りを押さえていた。
後ろからついてくる圭佑だが、その顔は実に楽しそうである。
文芸部のどこに楽しい要素があっただろうか。
それに出来れば逃げたかったのだが、放課後になるとともに圭佑が
「部室どこ? 案内してよ?」
と、言うもんだから逃げることも叶わず。仕方無いからわざわざ出向いているわけで。
ボクの表情は物凄く曇っていたようで、放課後すぐの廊下では、ボクたちを見て何やらひそひそと会話しているのも聞こえた。
そもそも今圭佑と一緒に歩いているものの圭佑とボクとじゃ身長が頭一つ分位違う。そのせいで低身長が目立つ。それと低身長には正直あんまり良い思いはない。
しかもここは一年生が多数居るところでもなく、大方ボクのことを見慣れない人達が「何であの娘男子制服着てるのかな」とか考えているに決まって………。
「お、ここじゃないのか?」
と、考えている内にいつの間にやら人通り少ない文芸部室前まで来ていたようだ。圭佑の言葉で我に返る。
「よくもまぁ、ちゃんと来れたもんだな……うろ覚えなのに。」
ちゃんと文芸部と書いてある。間違い無くここだ。
「うろ覚えだったのかよ!? お前…よくそれで俺を連れていく気になったな?」
「連れてくも何もボクはついてこいとも言ってないよ? 勝手に釣り餌を幻視して勝手に陸に揚がってきた魚のくせに。」
「何だと?」
突如圭佑が腕まくりして、こちらを睨みつける。言葉に悪意込めすぎたかも知れないと内心反省しつつも、笑顔を作ってから睨み返し。
「…やるなら相手になるよ?」
「ごめんなさいそこまでの覚悟はありません!」
それだけで圭佑は土下座、平伏する。
何でだ。
気を取り直して、部室のドアをノックする。
「はーい。」
返事の後、扉を開けたのは垣原先輩だった。
「浅葱君、どうぞ。…おや、あなたは?」
そして垣原先輩は当然のごとく居た圭佑を一目見て、そう言った。
「どうも、浅葱優の友人の多嶋圭佑です。」
圭佑は恭しく一礼。垣原先輩はそのイケメン的動作を見て
「あらあら…どうして来たのか、言ってくれます?」
それだけ言う。その目に警戒の色が見えたのは気のせいだろうか。
「…友人が突然部活と言うのに驚いて、見ておきたかったのです。」
いや、茜屋先輩目当てだって言ってただろ……。
垣原先輩は真剣な眼差しで圭佑をみつめて、それから。
「全く。今智居ないのだけれど。部長不在で良いのなら、見てってくださいね?」
そう言うと部室の扉を開けて中に招く垣原先輩だが、横目で圭佑を見ると、僅かに落胆の色が見て取れた。
一般的な文芸部の部活動はよくわからない。が、調べたら文芸的な事と場合によっては芸術的なのも活動内容に含まれるそうだ。
部屋の中に入ると、例のごとく窓際で窓に背を向けて本を真剣に読む鍋川先輩……あ、今一瞬こっち見た。
垣原先輩は勉強道具が机に広がっている所に座る。恐らく勉強していたのだろう。
「いつもは智が…部長居るけど、居ないと静かなのは良いけど、いつもだと騒がしいのよ? 智。」
どうしてか気になるのだろう、圭佑が聞く。
「何で…部長さんは居ないんですか?」
「バイト。不定期なんだけど、忙しいときは忙しいらしいわよ?」
垣原先輩は即答だった。
「そっ…すか。」
それから圭佑は黙り込む。しかし垣原先輩、何かを思い出したようで、はっと顔を上げて、
「そうそう、優君? 入部届け持ってきたかな?」
一応…持ってきてはいたりする。ボクは紙を一枚取りだし垣原先輩に渡す。
「うん、ありがとう。これで優君、君も私達文芸部の一員だね。」
垣原先輩は邪気のない笑顔でそう言った。
……垣原先輩が可愛らしく言うものだから一瞬ぽけーっとしてしまった。
危ない危ない……。……何がだ。
「それで、活動だけど。それについては活動した内容を記録してくれるかな?」
「どう言うことですか?」
「んっとね? 毎年文化祭に文集みたいなのを出しているんだけれど、内容があまり定まらなくて。で、智と相談してみたんだけど、智が『じゃ、部活動でやったこと書けばいいじゃんよ。』とか無責任に言っちゃって。それに私が乗っちゃったんだけれども……気付いたの。」
垣原先輩は如何にも深刻なことのように語り出す。
一区切り、こちらに目配せしてきたので聞く。
「「何に…ですか?」」
「私も智も、作文苦手だっ………て事に。」
……………。
「じゃあ何で文芸部にいるんじゃぁぁあぁあああ!!!」
つい、大声で、しかも机を思い切り叩きつつ叫んでしまった!!
しかし垣原先輩は頬を掻きつつ、ばつが悪そうに返す。
「えへへ……ごもっともです…。でもそんな所に降って沸いたあなたの存在…!」
期待された目でこちらを見られても…。
「ボクなんか本すら読まないんだけど?」
真実を告げるが、まだまだ垣原先輩は食い下がり、頭を下げ手を合わせて言う。
「そこを何とか!! 最悪部活の格が落ちるだけだから気を軽く持って!」
「いや部活背負ってますよね軽くないですよね!?」
「……わ、分かってますけど…あ、そうです。副部長権限で命令です。これでどうですか?」
「思い出したように権限を使ってきた……!!」
戦慄を抑えられない。そしてここで空気になってた圭佑がその重い口を開けた!! お、援護射撃か!?
「優、やったれ。」
そっちのかよ!?
「………はぁ、仕方無いです。やりますよー。」
「本当!? ありがとう優君!」
垣原先輩はそう言って、ボクの手を両手で握ってブンブン上下に振る。
「それじゃ早速、入部のくだり、書いてね、そこのパソコン使えば何とかなるでしょう?」
垣原先輩が顔を向けた先には綺麗なノートパソコンが置いてあった。
「まぁ、終わったら、雪幸に見せて直ししてもらうようにね? 彼女、ああで、結構文章書くの上手いのよ?」
じゃあ何で書かせないんだと言いたくなったが、あまり多くは喋らない性格の鍋川先輩だ。書かせて何か変なものが出てきたら大変だろう。
「そうですね、そのときは。」
ボクがそう言うと、垣原先輩は笑顔を作る。
「ありがとうね? 一応、これから優君は名目上書記ですよ。」
「書記ですか。…あー、一応記録については変な訂正入ってたら直しの直ししますけど良いですよね?」
さっきのところとか。
無事部活が終わる。タイピング遅過ぎて圭佑をもやもやさせたことは申し訳ないとも思うし、今日の終わりの方では何だかんだで圭佑が認められている空気があった。なんか、来月辺り平然と文芸部に居座っているイメージがすぐ沸いてくる。
そしてボクは歩いて駅に向かうところだった。
「浅葱君…今日もありがとうね?」
隣と言うには離れた位置で歩いている鍋川先輩はそう言った。ボクには感謝されるようなことは全くした覚えがない。
その事に疑問符を浮かべていると、鍋川先輩はあまり大きくはない声でその真意を短く語る。
「…わざわざ活動内容を記録するなんて事引き受けてくれて。」
それだけ言うと、鍋川先輩は短い髪を梳き、それから足早に立ち去ってしまった。
その顔は眼鏡があるせいで見えづらかったが、微笑んでいるように見えたのはきっと見間違いじゃないと思う。
……………………
さて、まあ一人寂しく電車に乗ってボク自身帰っていったわけだが、前回最後に書かれた義妹とか、書かなくても良かったんじゃないか、とも考えるが、ごめんなさい。締めに利用しました。上手く言ってるかはともかくとして。
まぁ、正直予想だにしなかった。彼女たちがこれから関わってくることは。
だって、別の高校だし。
……………………
「ただいま。」
家に帰ると、顔だけひょっこり出してこちらをみる義妹。
「お帰りー。お姉ちゃんはなんか、調べものだって言ってたからまだ帰ってきていないよ?」
「そうかー。」
調べもの。他の人がしていてもあまり怖くないが、義姉ならば話が違う。滅茶苦茶怖い。
しかしそんな心情はこの義妹に察することは出来ないだろう。
「お義兄ちゃん? お風呂暖かい内に早く入っちゃってねー。ご飯できてるからー。」
そう言えばと時計を見たら、六時だった。結構な時間、活動してたようだった。
「はぅ……。」
正直これからが不安だがどうしようもないだろう。
どこどこが面白い、どこどこがつまらない、どこどこに誤字が有りますなど何でも良いので感想を下さい。
これからも宜しくお願いします




