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4月/後編/散る桜に、映える笑顔

「どうしたものかな……。」


 ボクは自室で呻くように呟く。


 結局あれから何日も経過したけれど結局、部活にも出ずにこうして早く帰りながらも一切行動を起こせなかった。


 理由は簡単。何も思いつかなかったからだ。


 一応、話す場を。と言うことで、手紙をどっかしらに入れて呼び出そう。なんて考えていたけれど。


「文がおもいつかなぁ…い。」


 ご覧の通り(見てない)頭を抱えて机に突っ伏すボクからそれ以外全く何も思いついてないことは分かるだろう。


「っても、もう手伝って貰うのは気が引けるし。」


 わざわざ協力を断っているのだから当たり前の感情だ。


「どうしたの、優。唸りながら白紙なんか眺めて。」


「どわぁっ!? 何で!?」


 後ろから話しかけてきたのは義妹だった。


「こうも連日部活行ってないような時間に帰ってくるんだもん。気にもなるよ。」


 後方で壁にもたれかかるように床に座り込む義妹。彼女の発言に違和感はない。無いけれど。


 無いけど、何でそんなめちゃくちゃ良い笑顔なのだろうか?


 義妹はスマホを弄りながら話を続ける。


「あの人とはいい感じなの?」


「あの人?」


「あの花見の時に来てた眼鏡のちっこい子だよ。」


 …………雪幸先輩か。


「どうしたの突然机に頭突きして!?」


「ど、どうもしないよ…。」


 全く、こっちはその事で悩んでるって言うのに全く。


「どうもしないの?」


「うん、特に何も。」


 花見翌日からは会ってすらいないから何かある訳がない。


「本当に?」


「なんでそんなに執拗に…。」


「心配だからね~、お姉ちゃんは協力的じゃないけど私は応援してるんだよ?」


 ボクは一度、ペンを置いて振り返る。しかし、義妹は笑顔のまま、スマートフォンの画面を眺めていた。


 義妹の笑顔は、とても自然だった。


「………応援だって? 何を。」


「またまたぁ~、分かってるくせにぃ~。」


 義妹は、表情視線手元一切動かさずに話す。


 続きを離される前に話を切る。


「………まぁそれは良いとして早く出てってよ。」


 義妹はパッパッと服を埃を手で払うような動作をする。


 正確にはシワをのばして無くすような動作だけれど。


 それからスマホをいじるのを止めて


「そそ、早くしないと、取り返しがつかなくなるよ? 内容なんて良いからさっさと伝えなきゃね。」


 義妹は部屋を出ていった。











「これでよし……っと。」


 些か古風ではあるが、朝早く、それこそ運動部の人達が来るかどうかといった時間帯に登校したボクは鍋川雪幸先輩の下駄箱かどうかを何度も確認し、そこに手紙を置いた。


 悩んでいた内容だけれど、恐ろしいほどシンプルだ。


『話があります 放課後に屋上で待ってます

                浅葱 優』



 言いたい事なんて、書かないで直接言えばいい。


 ボクは他の生徒が登校してくる前に、その場をあとにした。






 今日はやけに騒がしい。


 時はすでに一時間目が終わり、休み時間となっている。放課後の事を考えるとそれはそれは、憂鬱で。周りのこと何てある程度分からない筈だろうに、はっきりと分かってしまえるくらいだった。


「おい、おいおい。お前ついにやる気なのか!?」


 圭佑がボクに向けてそんなことを言う。


「………うるさい。」


「学校中で噂だぞ!? どこの馬の骨かも知れない奴が、姫に手を出したって!」


「………つか圭佑、雪幸先輩がなんか変な異名をつけられてることとか、知ってたろう?」


「当たり前だろ?」


 そう笑顔で断言されてしまうとどうしようもない。なにもする気はないけども。


「おい、馬の骨。」


「………だいたい何ですぐにそう言う噂は広がるのかなぁ…。」


 やけに騒がしい理由。それは結局のところ、ボクの出した手紙というわけだ。


 雪幸先輩に関係するワードをどうしても拾ってしまうから、簡単に気付けたのだろう。


「親衛隊が動いてるからだろ。かく言う俺も親衛隊!」


「………親衛隊? なんだよそれ。」


 ボクの発言に圭佑は知らないのかよと肩をすくめる。


「まぁ、所謂、雪幸先輩を見守りながら雪幸先輩に取り付く害虫駆除を専門とする集まりだな……って何でじりじり近づいてくるの…? 俺はそう言うことするつもりはいだだだ!!?」


 害虫駆除って………。


 ボクは圭佑の右腕を捻り上げながら忍び寄ってくる面倒事の足音が聞こえた気がして、心の中で溜め息をついた。


「ちょっギブギブギブギブぅぅぅぅ!!!」


 つい、やりすぎてしまったようではあるが、ボクは手を離す。


 圭佑はぶつぶつ文句を言いながらも、話を再開する。


「まぁ害虫駆除とか俺がお前の命を狙っているって疑われること言ったのは悪いと思っているけど、それは別にして。親衛隊を通じていろんなところに噂が出てるんだよ、それがそこら辺で話されてるやつ。」


 噂か……巡り早いと思ったら裏に何か居たのか。


「今のところは、お前は取るに足らない馬の骨だから問題ない。……何のつながりもないしな。文芸部を知らなければ。」


「というか、何で文芸部に所属していることの知名度が異常に低いんだろう。」


 親衛隊(自称)がいるなら尚更。


 この疑問は圭佑も思っていたようで


「さあな。案外、情報操作とかヤバい力とか働いているんじゃないか? 何にせよ、俺は文芸部の事は言う気がないけどな。」


「そうか。」


 この時、チャイムが鳴る。


 ボクらはちゃっちゃと席について、授業を受けた。






 ボクが周囲の空気に違和感を覚えたのは丁度、昼休みのことだ。


 昼飯を食べようとして弁当を広げた時に、周りを見ると誰もがボクの遠くにいる。


 まあ、気にする必要はないだろう。


 で、弁当を何事もなく、食べ終える。


 弁当をしまい、さあてどうするかと考えた瞬間。


「────今だ!! かかれ!!」


 突然遠巻きに居た人の一人が大声を上げる。


 突然だったので、驚いて立ち上がってしまったけれど、むしろそれで良かった。


 一つの大声に合わせて多くの人が教室に雪崩れ込んでくる。


 出入り口が進入して来る生徒で封鎖される。というか滅茶苦茶ぶつかりあってない!? 身動き取れて無いよね!?


 そして動き出したのは外にいた人だけではない。教室内に居た生徒もまた動き出していた。外から入ってくる生徒よりもこちらの方が動きは早い。


 当たり前だけどね!?


 人の波が起こり、ボクは動揺した。けれど、もうボクが狙われているのは何となく分かっていた。


 だって圭佑の話もあるし。


「うわぁぁぁぁあああ!!」


 だから一も二もなく、偶然開いていた窓から飛び出した。


 因みにここは、二階である。






「────はっ!」


 二階から飛び降りるというのも、随分な恐怖に襲われる。


 上手く着地の衝撃を殺し、ちらと先ほど出てきた窓を見ると


「おい何してんだ!行けよ!!」

「お、おう。」


 一度尻込みしてしまったようだが、直ぐに降りてきそうだと思い、さっさと駆け出した。


「待ちやがれええ!!」

「姫に手を出そうとしたこと後悔させてやる!!」

「外見が女だからって容赦しねえぞ!!」

「百合………素敵………!!!」

「マジ何なんだよ! 俺っち、浅葱さんの事好きだったのに!!」


 ちょっと待って一部変な発言あったぞ出てこいよ!!


 ───じゃなかった、取り敢えず逃げなきゃ!


 幸い、この高校は広い。隠れる場所や逃げ場はいくらでもあるだろう。


 問題は、この高校が非常に多い生徒数を誇る事だけど、そんな事考えても意味はない。


 捕まったら大変なことになりそうだからね!?




 追いかけてきている人は異常に多い。ボクが親衛隊を知らなかったけど、知らないから規模は予想するしか無かったけれど。


 いくら何でも多すぎた。


「はあっ……はぁっ……。」


 荒れた息を整えようとしても、走りながらそんなことは出来ない。


 後方には人の壁。……正直言ってもう少し分散しても良いんじゃないってボクでもって思うくらいに高密度である。


 外から校内に駆け込み、一回も挟み撃ちの類を受けなかったとは言え、20分ほど駆け回っているので、限界も近い。


 そして今いる場所は、四階。それ以外はもうわかんない。兎に角右も左も確認せずに逃げているのだから、仕方がない。


「待ちなさーい!!」


 がっしゃーんっ、と窓ガラスが割れる。ってここ四階だよね!?


 突入してきたせいでボクに降り注ぐ窓ガラスの破片。


 降り注ぐガラス片を浴びる前に今まで以上の全力で駆け抜ける。


 降り注ぐガラス片に当たらない訳には行かなかった。幸い、当たっただけで肌が切れる事も無く潜り抜けられたが。


 四階の窓ガラスに外からどうやって進入してきたか分からないけれど進入者は背後に降り立ち、更に後方にあった人の波に飲まれた。


 ついでに宙に舞うガラス片も後続の集団に当たり、寧ろ足止めという手助けになっていたのを、言っておこう。




「やっと………いなくなった……!!」


 逃げ回り続けるうちに、追っ手は減り、ついに独りになる。


 膝に手を着き、荒い息を整えていると、丁度五時間目の開始を知らせるチャイムが鳴り響く。


 結局の所、逃げ切れたという事でいいのだろうか。


 思い返しても、危ないところはなかったけれど。


 そして人が散ったのも授業に遅れるのを避ける為なのだろう。


 ボクは、始まってしまった授業に参加するべく、出来るだけ足音を殺して移動した。






「しつれいしまー……す。」


 ゆっくり教室に戻ると静かに授業が行われていた。


 それもそうだ、が、圭佑。お前何で腹を抱えて笑っている?


「早く席に着け。」


 その様子から圭佑を蹴りたくなる衝動に刈られるも、授業を妨害しているような立場故に、大人しく自分の席に着いた。


 何だか、周りの視線がよく刺さった。……ような気がした。




 五時間目はすぐに終わり、その直後の休み時間


「大変だったみたいだな!!」


 に入るなり満面の笑みでこちらに来る圭佑。勿論大変だったのは昼休みのことだ。


「大変だったってものじゃないよ、あれは下手すれば死人が出てたよ………。だいたい、突然親衛隊とか何で出てきたの……親衛隊の し の字も無かったのに……。」


「それはお前が知らなかっただけだ。」


 ボクの文句は圭佑に冷たくあしらわれる。


「それに、放課後の方がヤバいだろうよ。あくまでこれは前哨戦だって親衛隊No.002が通達してたぞ。」


「なにさNo.002って、ファンクラブですか…。」


「まぁ、元はファンクラブのようなものだったんだろうけどよ。今じゃ親衛隊とか自称しちゃう痛い組織だよ。自称する名前通りに行動してるから、それこそ危険は滅ぼしてしまえって発想が出てくるんだよね。」


 滅ぼしてしまえの辺りで拳を水平に突き出す圭佑。


 ボクの眼前に迫る拳をしっかりとボクは掴んだ。


「まあつまり、放課後の方が危険だから気をつけてなって事だけ言いたかった………んだけど、ちょっと、手、離してくれない…? 何で手を放さない上にじわじわと力を込めてく痛い痛い痛い痛い痛い拳砕けちゃうッ!!?」


「忠告ありがとうね。」


「おうよってそれは良いから放して!! さもなくば敵に回痛い痛い強い強い強いぃッ!!? 本当にイカレちゃうう!!」


 何だか、大変な事になりそうだな………。


「ねえちょっと聞いてる!? マジ痛」











 放課後を知らせるチャイムが鳴る。


 今日の終わりであり、大半の生徒は伸びをしたり、放課後の用事を済ませに行ったりするのだろう。


 そう、放課後の用事を。


「「「「「覚悟ォ!!」」」」」


 解放感溢れる緩んだ空気には似つかわしくない、気合いの大声が響き渡る。


 飛んできたのは、幾つもの棒状の物だ。


 シャーペン、ボールペン、箸、カッター、ごぼう、棒だけの箒etc……


 もう飛んで来るものが訳分からない。何で野菜を投げるんだ、食べ物は大事にしなさいって!!


 華麗に避ける、なんて事は出来ない。ごぼうをキャッチしてから椅子机蹴ること厭わずに走った。


 ごぼうは、取り敢えず(かじ)っておいた。……不味かった。



 兎に角、ボクの目的地は屋上だ。このだだっ広い校舎でも屋上なんて一つしかない。何カ所も出入り口はある広い屋上だ。


 五階ある校舎のその上に辿り着くための(ルート)はたくさんある。


 もう一度ごぼうを齧る。そして通りかかった水道に投げ捨てた。


 そして角を曲がり、階段をその目におさめる。


「撃て!」


 ……へ!?


 上へ昇るための階段には綺麗に弓を構えた (着替える必要性がわからない)和装の少年少女がこちらを見て


 矢 を 放 っ た。


「ちょっ!?」


 何してるの!? 当たったら痛いんだよ!?


 本当に当たったら痛いでは済まないはずなのでこの時割と楽観的な思考だったのかもしれない。


 実際は当たることはなかった。


 飛び出して、完全に止まる前だったのが幸いした。


 元々走っていた方向に走り去ったのだ。


「あっ、待ちなさい!!」


「「「作戦通りです!」」」 


 追っ手が声をそろえてそう言った。


 ちょっと待て作戦通りなの!? そもそも作戦あったんだ!?


 しかし、どの道ボクには逃げることしかできない。


 ──…次の曲がり角が渡り廊下だったはず、そこを曲がり、別の階段を利用して上の階へ行く!


 そして、その曲がり角から見えた光景は


「撃つべし撃つべし!」


 またもや射撃部隊。というか持っている装備はエアガンな上にさっきの弓の人達よりも数が多いぃ!!?


 パン…パンと乾いた音が耳にとらえられる。


 ───当たったら絶対痛い!!


 また、曲がることを断念して走り抜けた。




「嘘でしょ!?」


 曲がることを全て諦めて道なりに進み、外に出てしまう。追っ手は道をふさぐように三階にもあった出入り口からぞろぞろと出てきてしまう。


 これで一階まで人で封鎖されていたら詰んでいたのだけれども、そう言うこともなかったらしい。


「ちっくしょう!!」


 取り敢えず距離を稼ぐために二階相当の出入り口から助走つけて地面まで飛び降りる。


「撃て!」「撃つべし!」


 きゃっ、ちょっ!?


 彼ら追っ手は、飛び降りる事はせず、射的をするときのように前のめりにエアガンを撃ってきた。


 弓は意味もなく上に向けて放った………ちょっと待ってそれってまさか


「ッ!!」


 着地の威力緩衝のために、低い姿勢だったけれど、もはや立ち上がる余裕はない。


 コロコロと横に跳ぶように転がる。


 すると先程居た場所に何本も矢がトストスと突き立った。


「……………!!」


 驚いたけど、そんな余裕はない。


 見せたら死んでしまう!!


 そんな恐怖に襲われ、後ろも見ずに駆け出した。






 逃げるにしても校舎からあまり離れてしまえば、それはそれで良くない。


 ついでに部活動をしている横を通るのも忍びない。


「だから、校舎内に突入っと。」


 偶然 窓の開いていた教室に飛び込むつもりで窓枠に手を掛けて、中を覗くと


「………やぁ。」


 外から死角になっている外側の壁際に寝転ぶ、ハンドガン (偽物)を持った青年


「ごぶっ!?」


 を、当然のように窓から進入するとき踏みつけておく。


 無防備に仰向きな青年の腹を。


「ごめんねっ!!」


 まあ、一応謝ったし。


 そう思って振り向くと大量の人。ってああ!


「がぁっ!?」「ごめん!」「ぐぅ!?」「ごめんなさい!」「ぼはぁっ!」「すまん!!」「げぶらっ!?」「ごぼう!!」「ふっぐ─────


 後続はぞろぞろと寝転ぶ青年を踏みつけてこちらに近付いてくる。というかごぼうってなんでしょうか!? ちゃんと謝れ!!


 大丈夫なのかと青年を見れば、笑顔でサムズアップ。もはやキラリと歯が光ったような気すらしていた。それほど爽やかな笑顔だった。


 なんで!?


 そんな幸せそうな青年に後続集団よりも恐怖を覚えながらも走り出した。




 先程のように階段を張られていることはなかった。


 さっきのは明らかに作戦有りの行動に見えたので、もしかすると今の僕の行動は予測から逸脱しているのかもしれない。


「みぃつけた……っ!!」「逃がさないよ……っ!!」


 階段を上り三階、そこで待ちかまえていた女子二人組に先を阻まれた。


 二人で左右対称なサイドテール、清水姉妹だ。


「捕まえたらあの怖い先輩が!!」「デザートバイキングに連れてってくれるんだから!!」


 怖い先輩? というかそれよりも。


 今の位置関係は、清水姉妹が階段の上側にいて、ボクは駆け上がっている途中。後方……というか下からぞろぞろと人が追いかけてきている中、足止めなんてされたらたまったものじゃないし、何よりここで捕まったらそれはもう詰みである。


 と言うわけで、少し卑怯ではあるけれども


「おい塚見ちょっと聞いてくれよ!!」


 ボクは階段の向こう側の廊下を覗き込もうとする動きと共にそう叫んだ。


 そして、思惑通り反応する目の前の女子二人。


「ごめんね!!」


 その、まるでいるかのようにボクが呼びかけた事によって後ろを確認するように振り向いた隙を突き、右サイドテールの横を通り過ぎる。


 謝りながら。



 四階、誰もいない。


 五階、誰もいない。


 屋上前、二人居た。


「来ると思ってたよ! 浅葱優!!」


「偶には本気で人を嵌めるのも楽しいですね…。」


 我が部の部長と副部長だった。


「何でいるんですか!!?」


 いや、ボクにとってそんな疑問はなかった。とてもわかりやすい。


 そんなどうでも良いこと聞く前に逃げるべきだった。二人の相手をするのは多分無理だ。


「私が親衛隊No.001なんだよ!! つまりリーダー!!」


「No.002です。どうですおどろきましたか?」


「いえ全く。」


 言うと同時に茜屋先輩は素早く踏み込み、ボクの胸をねらい、手のひらをつきだしてくる。


 全く容赦のない掌底だった。


 とっさの反応で後ろに足を出してしまうが、後方は階段。


 掌底を回避したと気付いたときには、階段を転げ落ちていた。


「えっ、ちょ」


 転げ落ちるのは予想外だったのか。そうだよ、ボクだって痛いし、出来ればこんな事したくないよ。


 なのに何なのさ矢とか弾とかビュンビュン飛んできて!! 人死に出るよ本当に!!


「まさかっ!? 優君はそこの窓から外に出るつもりかもしれません!」


 そんなこと全く考えてなかったけれど、それは良いと思い即行動。


 階段は五階と屋上の中間で段のない折り返し地帯がある。そこに明かりを取り入れるため、換気のための窓がある。


 すぐさま立ち上がってそこの鍵を開ける。


「させるか!!」


 こんな高いところで……とか考えている余裕も、後ろを振り返る余裕もない。


 茜屋先輩は階段を一足で飛び降りた。小さな音のみが発生したけれど、きっとそうだ。


 こんな所から外に出るのは危険すぎるけど、そんなのは、追い詰めたそっちが──────


 ─────悪い!!


 ボクは開けた窓枠に手を掛けて身を乗り出し同じところに足を乗せ、くるりと身を反転。


 既に体が窓の外。中にいる茜屋先輩はこちらに確実に近付いている。


 その茜屋先輩に笑いかけて、ボクは窓を足で蹴り閉める。この時の笑いはきっと邪笑とかに分類されると思う。


 そして次の足場を見つけて飛び乗った。


 きっとこの軽い体重なら何とかなると信じて。







───────────────────






 彼は、どの出入り口から入ってくることもなく、まさかの策の外からよじ登ってきた。


「ふぅ…………。」


 何だか酷く下が騒がしかったのに関係はあるのだろうか。


 でも、よく分かってない私に分かることなんて、彼が非常に疲れている事くらい……。もっと近くで観察すれば色々わかる、彼を近くで見てみたい。


「先輩、手紙の通り、話があります。」


 その言葉にドキリとした。心臓が痛いくらいに不安になる。


 前、意を決して告白した日から一度も会ってなかったのだ。そのこと自体、避けられているのではと、負の思考に入っていたのだから不安になるのは、気まずくなるのは当然だ。


 彼は柵を掴み、立ち上がると真っ直ぐ。真面目な顔をしてこちらを見てくる。


 きっとそう、私程度の人の告白なんて受けてくれるはずがないんだから。


「前置きはいい。いらない。」


 じわりと、これから言われるだろう事を予想して瞳が潤む。それが見えないほどに遠くても、私は涙に潤む目を見せたくないがために顔を逸らしていた。


「そ……そうですか。じゃあ、端的に。」


 そして彼は短く、運命を告げたのだ。


「ボクは…いえ、僕は雪幸先輩の事が異性として、好きです。」


 え…………。


 あれ……? 嘘………。断るために呼び出したんじゃ………?


 ─────このときの私は下で起きていることを知らなかった。知っていればそんな事を考えることはなかったけれど、それで良かったとも考えている。


 ─────だって。


「えぇ!? ちょっと雪幸先輩!? 何で泣いてる………んで…。」


 視界が潤んで見えないほどに、涙が零れる。


 彼は疑問を口にしようとして、止めていた。気付くだろう、それは私にもいや、私には止められなかったんだから。


 私は泣きながら、笑っていた。


 嬉し涙が、床に落ちた。


───────────────────


 ボクの告白を受けて、先輩が泣き出した。


 何でと口に出したが、自分は告白に応えた方だ。そんなこと口にするのは可笑しいってものだろうし、何よりも先輩が


 ───笑っていたのだから。


「え、ええっと。その、すいませんでした。春休みの時は、その、覚悟が出来てなかったんです。」


 取り敢えずどうしていいのかオロオロしながらも、先輩に近付く。


「覚……悟…?」


 先輩は泣くことでやや赤くなった目をこちらに向けて、きっと無自覚にだろう、可愛らしく首を傾げた。


 好き同士と言ったって、好きという感情を認めているからといって動揺しないわけがない。いや寧ろだからこそ、だろう。


 つまるところ、酷く動揺して上擦った声を上げてしまいました。はい。

 

「あっ、えっと! 覚悟って言うのは、えっと、その………この髪というか、なにかを好きになる事というか……。」


 言った言葉は自分にも理解できない。……一応これでもある程度何話すかは決めていたのだけれど、告白するために柵を越えた地点で、頭は真っ白だった。空白だった。スッカラカンだった。


 そうしてどうにかこうにか言葉にした事は、相手に伝わっているのだろうか。


「………優の外見なら。私は気にしないよ? 私は優のこと、全部ひっくるめて…その………好……き……だから………。」


 好き、と言うときに顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているのも可愛らしい。


 恥ずかしいからそんな事は言わないけれど。


「そ……そっか。でもさ、今度髪切ろうかと思うんだよね。」


 そう言うと、先輩は非常に驚いた顔になる。


「何だか言いづらいけど、僕にとってこの髪は必要ないんだよね。夏は蒸れるし、邪魔だし。冬はマフラー呼ばわりされるしで。」


「そう……。でも」


「何だか、義姉さんに言えば何とかしてくれそうな気がするんだよね。きっと。何となく。」


 何となくだけど、そんな気がしていたのだ。


「私は……別に切らなくても良いと思うよ?」


「そうかもしれません。」


 そこで僕は言葉を区切った。


「え、えと、改めて。」


 区切ってそう言った僕。突然なんだと先輩は疑問符を浮かべる。


 僕はそんな鍋川雪幸先輩の様子に微笑ましいものを感じ、自然と。


「僕と付き合ってください。」



「喜んでっ。」


 雪幸先輩は満面の笑みで、嬉しさに弾む声音で。


 ────告白を受け入れた。


「はいきました何ヶ月ぶりかのこのコーナー。」


「今回はしっかりしっかりと送らせていただき、ます。」


「何で屋上前の階段なんだよ、それに優の部の部長さんは何でそんな手が真っ赤なんだ? 冬でもないのに。」


「そこの窓に挟んだんだい!!」


「へえ、そうか。」


「………今回のゲストは塚見……名前これどうします? 結局次回作に」

「まどろっこしいから言ってしまえ!」


「にしても恥ずかしい名前だろ? まだ呼び名の中じゃ辛うじてカイとかは気に入ってるんだけど、某スタンド名のごとく呼ばれたりな。」


「えーっと、じゃあこれ、きらきらネームとか言う奴ですか?」


「一般的な読み方だよ。まあ、人につける名前じゃあねえわ。」


「そう言えば君は私達より年下だよね。敬え私を。」


「何でだよ、俺は知らない奴は敬う価値はないと思っているからな。」


「さいで。そう言えばさっき下で足止め頼んだ清水ちゃん達はどうなったの?」


「妹の方が完全に落ち込んじゃってます。何ででしょうね?」


「こっちみないでくれ、全く関係ない……筈だろ。」


「おおっと言葉に詰まった思い当たることがあるのか痛い痛いさっき挟んだんだからそこは握り潰さないで!!?」


「そう言えば、最初の命令違反をした隊員No.234のコメント:そうかここが天国k:ってどういうことかなぁ……。」


「知らんけどどうせドMに相応しい末路を辿ったんじゃないか?」


 知ってるんじゃないか。


「にしても、そこの集団は何なんだ? すごい威圧感だが。」


「そいつに怯えないなんて凄いな。……今回の一件に納得していない親衛隊員……もとい独占欲の塊たるストーカーだよ。信仰対象が自分以外とくっつくのが許せないんだ。……説明したから離してくれない? さっきからその手の締め付けでもの凄い痛いんだけど。」


「女性と手をつなげる機会は少ないから逃すなって恩師が。」


「まぁ、私達はそこにいる、納得できない隊員を除隊するつもりなんで、離してやってくださいよ。」


「はいはい。」


「いてて。」


「さて、今月はこんな所です! 次回は案外すぐかも? ありがとうございました!!」


 因みにこの日、騒動に関わった浅葱優以外の人間に停学処分がくだったという。


 そんな月末だった。

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