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春休み/桜舞い散る──



「まったくもう、なにしてんだか。」


 土手の下で正座させられて説教されているように見えるこの光景を道行く人は見て、しかし気にした様子もなく通り過ぎていく。


「気になってきてみれば変な状態だし。」


 道行く人に紛れて、立ち止まらずにその説教風景を見た誰かの呟き。


「それじゃああの子が優に思いを告げられるのはいつになるんだろうねぇ…。」


 その静かな呟きは、賑やかな雑踏に紛れ、消えていった。



「急に暖かくなったよね……。」


 桜舞い散る土手でボクは呟いた。


「毎年こんなものじゃない?」


「んー……? 確かにそんな感じだと思うけど。」


 視線の先にはレジャーシートを敷いている義姉が居る。


「ちょっとー! 早く来なさーい!」


「分かってるー!」


 隣を歩いていた義妹は手を振りながら義姉の言うとおりに走って向かおうとする。


「……ほら行くよ、優!」


 しかし、いったん立ち止まって振り返り手をさしのべてくる。


「手はいいよ。」


 ボクは手をつなぐ必要も無いと思ったので否定の言葉を述べる。


 すると義妹は


「むー……。」


 膨れっ面して、さっさと走っていってしまった。


「……まったく。」


 ボクはその後を歩いて追いかけた。




 現在、来ている土手では花見を目的とした客を狙った出店などがたくさんあり、本来花見をしに来た人も混ざって、大変大いに賑わっていた。


 ボクらもその花見をしに来た人である。


 父さん母さんは2人で桜を見に行ってしまったので、現在3人のみで行動している。


「まぁ、偶には親だけの時間をね?」


 とは義妹の言葉である。



「義姉さん、ちょっと出店で色々買ってくるね。」


「分かったわ。」


「じゃ、焼きそば二つよろしくー!」


「はいはい、分かりました。」


 と言うことで、そこらへんを彷徨(うろつ)く事にした。






 桜は満開、よい花見日和。


 出店はそれぞれが活気よく、わいわいと賑やかだ。


「んー、っと焼きそばね。……二つだと」


「はい、960円ですよね?」


 ボクは早速見つけた焼きそば店で焼きそばを買っていた。店員は気のよさそうなお婆ちゃんだったのだが、計算が遅かったというよりも先に用意していたので、言うより早くお金を出していた。


「……あいよ、確かに。」


 焼きそば買ったし、さっさと戻るかと考えたボク。既にその辺を彷徨くという目的は消えていた。


 ………にしても


「綺麗だな………桜。」


「……そうだね。桜は日本の春と言えば真っ先に出てくるような植物だから。」


「やっぱり、良いですよね。」


「そうか? 私には分からないんだけどな…。」


 ………………?


「……うわ!? 先輩方何でここに!?」


 背後の聞き覚えのある声がしたように思えて、振り返ったら茜屋先輩に葵先輩、雪幸先輩がそこに居た。


 やはり他の人に比べて特段の美少女である3人は桜吹雪の中でも一切霞まない。


 今も、道行く人の目を惹いているように見えた。


「優君はご家族と来ているんですか?」


「いえ、一緒に来てるのは義姉(あね)義妹(いもうと)だけです。というよりも、先輩方が居ることの方が意外ですよ。今日、祭りでも何でもないんですよ?」


 この土手は花見の客をターゲットにして出店が出ているが、実際は祭りと銘打たれたものではない。自然に人が集まっているだけだ。


 そこにボクが来たのと同日に地元民でもない(かは知らないけれど)先輩方と偶然遭遇なんて、おかしいとしか思えない。


 そんな考えがあり、先輩方を怪しく思っていると、案外あっさりと答えが帰ってきた。


「いやぁ、部活動のメンバーで花見しようと考えたあと、優の家に電話かけたんだよね。」


「そうなんですか?」


 そのことをボクは知らなかった。


「そそ。で、電話に出たのは優の妹さん? で、今日ここで花見する事を教えてくれたの。……まぁ遭遇出来るかは運次第だったんだけど、割と簡単に見つかったし。」


「そうですか。じゃあ折角ですので、義妹(いもうと)にあっていきます?」


「……どうする、雪?」


 何故か茜屋先輩は雪幸先輩に判断を委ねた。


「別に。行けばいいんじゃないかな。」


 そして雪幸先輩はついてくるつもりのようだった。






 戻る少し前に先輩方と別れた。というより先に行っててと言われたのだ。


「お帰りー…? あ、ああー、電話してきた人ね?」


 義妹は怪訝そうな顔を浮かべた後、勝手に納得していた。遠くにいた先輩方が見えたのだろうか。


「誰よ…って。」


 義姉は軽く受け流していた。


「それより焼きそば。」


「はい。ちゃんと買ってきたよ。」


 食欲が勝っていただけなのかもしれないが。ボクは言われたとおりに焼きそばを義姉に渡す。


「…………はぁ。優、あの人達と一緒にそこらへん見てきたら? ついでに色々勝ってきてくれると嬉しいわ。」


「…? 分かった、行ってくるね。」


 何かを察したような義姉の様子に疑問を抱きながら、先輩方の元へと向かった。



 少し来た道を戻るとそこには雪幸先輩しか見当たらなかった。


 そこそこ混んでいるから人影に隠れてしまっているのだろうか?


「で、どうだったの?」


「みんなと色々見てこいって言われました。……茜屋先輩と葵先輩はどこに行ったんですか?」


 雪幸先輩はボクから視線を僅かに外して言った。


「何か見たいところあるって。」


「そうですか。じゃあ、待つのもあれなので探しに行きましょうか。」


「……待って、少し………少し一緒に見て回らない?」


「…? まあ、2人を探しながらですよね?」


「そう。…きっとすぐには見つからない。」


「そう言うものですかねぇ、案外すぐ見つかるかもしれませんよ?」


 ……とか言ってる間に雪幸先輩は先を歩き始めた。


「ちょっと待って下さいよ…はぐれたらどうするんですかー? ……って聞いてないや。」


 しかし雪幸先輩は歩き始めてからすぐ近くのとある出店の前で立ち止まった。


 立ち止まった雪幸先輩に追いつき後ろから話しかける。


「どうしたんですか?」


 雪幸先輩はボクをちらと見て、それから出店に視線を戻した。


 その出店は射的の店のようだ。沢山の商品が置かれていて、それなりに賑わっている。


「やりたいんですか?」


 雪幸先輩は小さく頷き


「一緒に。」


 そう言って、ボクの手を優しく取り引っ張っていく。


 引きずられるようにではなく自発的にボクはついていく。


 ………と言うか先輩の手───


「さ。やろうか。」


「……え。あ、はい…。」


「おっとぉ、どこかで見たことがあると思ったらぁ!?」


 店に居たのは、正月の時に安川さんと一緒に居た、菊川さんが居た。


「お久しぶりですね、菊川さん。……と言うかキャラが全く違うように思えるけれど……。」


「あー、覚えていてくれてたんですね。……キャラは、師しょ…おじさんにこうした方が売れるって…。」


 弱々しく返答する菊川さんは気持ちを切り替えるように肩まで着ていたハッピを捲り上げて抑え目の大声で


「とりあえずいらっしゃい! 五発三百円だよ! おやぁ? 何か不満そ…う……ですね…。」


 雪幸先輩はボクが菊川さんと親しげに話している間、微妙にボクを睨んでいた、ように見えた。


 ボクには何でか全く分からなかったけれど。


「それにしても2人並んでると絵になりますよねぇ。美少女2人というのって。」


 菊川さんはキャラがブレてる気がした。と言うか美少女言わないでよ。


 まあ、次の菊川さんの発言によってその文句は言えなくなったんだけれど。


「んで、付き合ってるんですかお二人さん?」


 ………へ?


「!? いや違うよ優君とはそんなのじゃないよ!?」


 常の雪幸先輩からは想像できないくらいの早口で慌てて返答した。


「………。」


 ボクは雪幸先輩とは違い全く反応できなかった。頭の中が混乱からか、真っ白になる。


 ボクが…雪幸先輩と?


 ────有り得ない。


「…そうですか。じゃあ後もつっかえてるのでさっさと撃ち込んで下さい。」


「……ぁ。うん、わかっ…た。」


 突っかかりながらも意味のある発言が出来たことに安堵。


「じゃあ五発どうぞ!」


「……わくわく。」


「じゃあ…撃ちますよ。」


 ボクは寸分狂わず同じ点に撃ち込んで縫いぐるみを一つだけ、叩き落とした。


 他にも色々あったが、何となく。


 絶対撃ち落とせる物を撃ちたかった。






「射的ってやっぱり威力弱いよね……。」


 店から少し離れた辺りでそう呟いた。


 実際、連続で同じ所を五度当ててやっと落ちた位だし。


「そう……?」


 ボクの呟きに疑問の声を上げる雪幸先輩。先輩は先程ボクが取った縫いぐるみ (どことなくカモノハシっぽい外見だった)を胸元に抱き寄せていた。


 そういえば雪幸先輩結局射的やらなかったけれど、良かったのだろうか。先輩からやりたいと言ったのに。


 …それにしても、いつ見ても雪幸先輩って……。


「……何。」


「い、いや、何でもないですよ?」


 つい、声が上擦る。


「さて、どこ行こうか。」


 雪幸先輩は背伸びして周りを見渡す。しかし雪幸先輩は周りよりも身長が低く、背伸びしても見えないだろう事はよく分かる。……ボクも似たようなものだけれど、雪幸先輩は女の子だから低めではあるけれど、低すぎるわけじゃない。


 まあそれが丁度い「どこ行く? 初めて来たからよく分からなくて。」


 下からのぞき込まれるように言われて、ボクは我に返った。


「……ええとですね…。ここ、毎年配置変わっちゃうんで、目に付いたところから行くと良いと…思います。」


「ん……。そっか。」


 そう言った後、しかし歩き出すこともせずに雪幸先輩ボクをじっと見つめてきた。


「な、何ですか?」


「………行かないの?」


 とても何か言いたそうな雪幸先輩はしかしそれだけを言っただけだった。


「…行きますよ。」



 ─────と、言っても。


「あれ、どうです?」


「………。」


「じゃああれはどうですか?」


「…………。」


「じゃあ」


「…………。」


 それ以降一切口を開かないんですけれどコレはどう言うことでしょうか。


 しばらく歩いて、遂に疑問を覚えた頃に遠くの方から聞き覚えのある声を聞き取った。


「いまだ!そこ!抱きつけ!」


「智! 静かにしなさい! 周りの目もありますし何より見つかってしまいます!」


 あぁ、そうか。そう言うことだったのか。


 しっかりと聞き取れたその言葉で納得した。と言うか往々にして静かにするように呼びかける方が声が大きいのはどう言うことだろうか、そう言うことだろうか。しかも全く抱きつくタイミングとか無かったですよね!?


 聞き取ってすぐにボクは振り返り走り出す。


「何コソコソ隠れてやってるんですかぁぁぁあ!!」


「あっ、やべ。」

「ほら見なさい!」


 桜の陰に隠れていた茜屋先輩と葵先輩目掛けて思い切り助走し、


「おりゃぁぁぁ!!」


 ドロップキックをぶちかました。


「ちょっ、葵邪魔──」

「私は止めたんで──」


「うるさいです! 一緒にいるなら同罪だぁぁあ!!」


 発言の途中とか関係ない。邪魔をしたから蹴り飛ばす。


 我ながら物騒な思考に突き動かされ、ドロップキックして。


 しかし、助走の威力が有りすぎた。


「──っておわぁぁあ!!」


 誰の叫びか。先輩2人はともかく、ボクまでも土手から浮くように転がり。


「…………あ。落ちた。」


 そして、土手の下には川があり、ボクらはそのまま水中に落ちた。






「「「────どうもすいませんでした。」」」


「なら………良し。」


 じゃぶりじゃぶりと水から這い出た後待っていたのは、仄かに怒りを滲ませた雪幸先輩だった。しかも無言。


 その威圧感から、何かとても悪いことをした気がして土下座していた。ボクまでも。


「いやぁ、ごめんごめん、ばれないようにやるつもりだったんだよ?」


 怒られ慣れているのか、真っ先に口を開いたのは茜屋先輩だった。


 川に飛び込んだと言うが、塗れた意外に大した被害はない。有りがちな下着が透けるとかも、服装がやや厚着だった先輩方には起きていない。濡れているから少し寒くはなったけれど。


「…えっと………?」


 しかし茜屋先輩の言動のどこかに嫌な部分があったのか雪幸先輩は思い切り睨み付けた。睨む、と言っても少し目つきが悪くなっただけだが、雪幸先輩の表情をよく分かっているボクらには分かる、本当に怒っていると。


 その様子から茜屋先輩は頬をひきつらせて、やや後退り気味になる。正座したままだが。


「まず…。優君。」


「はい! 何でしょうか!」


 それまで土下座姿勢だったボクはピンと背筋を伸ばして、雪幸先輩の言葉を待つ。


「危ないことはしないで。…怖いから。」


 危ないこと…危ないこと? 何かしただろうか。


「…川に飛び込んだことですよ。」


 葵先輩がボクをつつき、小声で教えてくれた。


「確かに飛び込みはしましたけれどあれは意図した事じゃなく──」


「──分かった?」


「はい分かりました!!」


 ………。


「後、二人共。嬉しかったけど、そう言うのは良くないと思うんだよね。」


 嬉しい? 尾行されるのが?


 何となくボクは違和感を覚えたけれど、他は感じなかったようだ。


「えー、私達は何もしてないよ?」


 何故茜屋先輩はこちらを見ながら弁明をしているんだ。


「まぁ、ちょっと心配でしたけれど特に何も無くて良かっ」

「三人仲良く川に飛び込んで何もなかったと言うのはおかしいよ? 笑えちゃう。」


 雪幸先輩の葵先輩を見る目つきが冷たい物へと変わる。


「あっ、あの、雪? 笑えちゃうと言ってる割に一切の温かみのない目を向けないで下さい……。」


 葵先輩はその反応に声所か体すら震わせていた。


 と言うかさすがに寒くなってきた………。


「………もういい。」


 雪幸先輩は一旦葵先輩から目線を外し、それからぼそりと呟いた。


 その一言で先輩二人の顔に明るさが戻ったので、恐らくこの話はここでおしまいと言うことなのだろうか。


「あー、えっと。お詫びと言ったらなんだけど、ちょっと良さげな所あったから…食べよーか?」


 茜屋先輩が提案する。


 ボクらは一も二もなく頷いた。






 茜屋先輩の提案で来た店には。


「いらっしゃいませ。………ってまた会いましたね。」


 また、菊川さんがいた。


「なんでまたここに居るのかな、菊川さん。」


「えと、アレですよ。的がなくなってしまいまして、それでまたおじさんに相談したら『こっちの店番よろしくー』と頼まれまして……。というより皆さんなんか濡れてません? ……まさか川に落ちたんですか?」


「ええと、そうです。」


 ボクがそう言うと、菊川さんが身を乗り出すようにして、食い気味に


「そうですか! じゃあちょっと乾かせるところ……そうですねぇ、そこの集会所を安川さんにあけて貰うんでそこで乾かして下さい。…代わりの服? 多分途中に何かしら、服売ってるところとかあるんでそれで!」


「……わ、分かった。」


「じゃ、じゃあ、唯一濡れてないあなたにちょっと店番頼みたいんですけど良いですか!?」


 雪幸先輩の両肩に手を置いて菊川さん。


「………良いよ。」


 ややハイっぽい菊川さんのテンションに押されたか、顔を背けつつも了承する雪幸先輩。


「良かったー。じゃあよろしくっ!」


 そして菊川さんは何の説明もせずにボクらを引きずっていく。






 ────………‥‥・暇だ。


 私はそう思ったから、メモしていこうと紙を出した。


 きっとあの二人は今日の出来事を優君に書かせるのだろう。


 きっと彼のことだ。私が彼をどう思っているかなんて、一切気付いてない。…のかもしれない。


 店番なんて何すればいいのか分からないけれど、人は一切来ていないので、結果的に問題はない。


 だからと言って、来ないとは限らない。私、人見知りだし…人が来たとしても何かできるとは限らないけれど。


「───饅頭下さい。」


 そうそう。この店では何種類かの和菓子を売っ………て…?


 思考を遮ってきた来訪者は可愛らしい女の子。……私なんかよりも。


「………ぁ……ぇっ……。」


「おやおやぁ、私は饅頭下さいと言った……待ってそれだけで涙目にならないで!?」


 あれ、目が……。


 お客さんは凄まじく動揺し、からかうような動きを止めてあわあわしだしていた。


 その動きすら様になってるのだから。


「何か更に泣き出した!?」


「だ、大丈夫…、ちょっと悲しくなっただけ。」


 あれ、おかしいな。どうして泣いているんだろう。


「………ねぇ、ちょっと悩みでもあるの?」


 ……どうしてそういう事を言うに至ったのかが謎だけど。本当に唐突だったけれど。何の脈絡もなく言われていたけれど。


「悩…み?」


「そうそう、というよりなんで泣いたのか原因知りたいなぁ、と?」


 首を傾げながら問いかけてきた。その上店番している私の隣に、勝手に椅子を出して座り込んだ。


 何で泣いていたのか……。


「分からない……。」


「ええー、分からないという事はない筈だよ、ただ目を逸らしているだけ。」


 彼女は自信満々で何故か確信を持っているように見える。


「逸らしてる……?」


「そそ。」


 そうと言われても、心当たりがない。


 ……それにしても、隣に座る女の子はどんな姿勢でも様になっているけれど、私はどうだろうか…。きっとこういう感じの子の方が男の人に人気になれるんだろうなぁ…。


「それですよ。」


「…!?」


 え……今口に出してた…?


「それって……何?」


 動揺したまま口に出した言葉、けれど女の子は狙いを外した、みたいな顔になっていた。


「………何でもないです気にしないで下さい。あと饅頭頂きますね? これ、お代です。」


 女の子からお金、ちょうど頂く。それにしても突然何か言うから驚いちゃった…。


 彼女は大きくため息をついてから饅頭にかぶりつく。


「はむっ…大体男なんて顔しか見てないんですよもぐもぐ」


 ついでによく分からない小言を漏らしつつ。


 しかし、それが私の心の中で考えていたことを見透かすような発言であり、聞いて、少しだけしょんぼりした。


「っても顔しか見てない男っつーのは本当どうしよーも無い酷いのばっかでさ、あむっ。」


「食べながら喋んないの。」


 つい口を挟んでしまったのは食べ方が汚いからというより、口が悪かったからと言うのが大きい。そもそも食べ方自体はすごくきれいであり、言葉だけ汚かった。


「あ、すいませんなんか変なスイッチ入っちゃったみたいで……はむあむごくりっ……。」


「突然言い出すから何かと思ったよ……。」


「それで、原因、思い当たりました?」


「…………。何となく。」


「おおっ!?」


 女の子は心底うれしそうな表情を作った。


「それと、あなたが誰かも分かったよ。浅葱君の妹さんだよね?」


「………え? 違いますよ? ………ってええ!? 泣かないで下さい冗談ですよ!!」


「………?」


「涙目で見つめられるとちょっと弱いです。……どうせ兄だってすぐ戻ってくるのでしょ? そのときに分かりますよ。」


 女の子───浅葱君の義妹は爽やかなまでの笑顔でそう言った。


「にしても、何で分かったんです?」


「勘、かな。でも理由はあるよ。電話。」


「えぇ…アレだけでバレたか…。」


 春休みの初めに浅葱家に電話を一度かけた。優君の行動を、予定を知るために。かけたのは智だけれどそのときに出た人が優君の義妹だったというのは覚えている。


 予定はすんなり聞けたらしい。しかも相手はすごくノリノリで答えてくれたらしい。


「まぁ、嬉しかったから色々言っちゃいましたからね。バレるのも仕方ないか。あー、つけてきたの気付きました? ちょっと兄の知り合い…見ておきたかったのもありますけど、予想してたよりいい感じで驚きましたよ?」


「……そう。」


 はわわわわ……いい感じって! いい感じって!!


 (外見上)素っ気なく返した反応に、優君の義妹は寧ろ目を輝かせて


「か、可愛……。」


「可愛いって、私なんかよりもあなたの方が」


 抱きっ!


 思い切り抱きついてくる優君の義妹に動揺して言葉が止まる。


「可愛いいいいいいいい!!!」


「わぷっ」


 かなり強い力でわしゃわしゃされていた私自身はわしゃわしゃされるがままでいるしかなかった。



「それでまぁ私が電話の人だとしましょう、それで悩み、なんだか分かりました?」


 一通り私をわしゃわしゃしたあと、気を取り直して彼女は問う。


 私は頷く。


「あなたが可愛かったから。」


「んなっ!?」


 ………? なにを驚いているんだろう。


 首を傾げていると、ひきつらせた表情が一瞬ゆるんだ気もするが、跡形もなく表情をととのえられたので幻覚かと疑ってしまうほどだった。……幻覚じゃないよね?


「って、違うでしょ…?」


「何故意見されなきゃいけない?」


 それを言うなら最初に言えよ、と思わなくもない今更発言。


「……それもそうなんだけど!! そうじゃないよね!?」


 一瞬納得しそうになっていたけれど、言わなくて済む訳じゃなさそうです。


「………それだけ可愛ければ男の人に人気なんだろうなって。」


 それだけ言うと、女の子は不満気に呆れたような目つきになる。


「それだけ?」


「それ以上、説明が必要? あなた、きっと私が考えていること、分かっているでしょう?」


「お、おう。それ絶対恥ずかしいだけ……何でもない、私だって言いづらいし。」


 ………どうやら本当に分かっているようです。


「でも、そう卑屈になることはないと思いますよ? あなたは可愛いですし、それに、兄は顔で付き合う相手とか決める人じゃ無いと……って大丈夫? おーい? って、固まってるよ……。」


 ………本当に分かっていたんだ…、私がもっと可愛ければ彼に好いてもらえるのではないかと考えていたことが。


 











「固まってるよ………。」


 着替えて戻ってきてみれば、いつ現れたか分からないけれど義妹が雪幸先輩の目の前で手を振ったり、雪幸先輩の体を揺すったり、終いには体をぺたぺた触りだしていた。


 流石にぺたぺた触るのはアレだったのか、変なところでも触ったのだろうか、か細い悲鳴を上げて義妹を引きはがしていた。


「………何してるの?」


 引きはがされた勢いで地面に仰向けに転がる義妹を見下ろすように問いかける。


「おお、優が蔑むような目で──」

「見てないよ。」


 背中の汚れを払いながら立ち上がる義妹。


「…まぁ、見たいものは見れたので退散します。では!」


 そのまま勢い良く走り去っていった。


「えっ、ちょっと………結局何しに来たのかなぁ……。雪幸先輩、知ってます?」


 呼び止める行動をしようというときにはもう既に人混みに紛れて見えない所まで移動してしまっていて、雪幸先輩に聞いてみた。


「……………………さあ。」


 長い沈黙の後に、そう答えたけれど何となく目的を知っているような気がした。


 知ってどうするのか考えていなかったし、特に意味がないような気がして、問いただしはしなかった。


「あれが妹さん? 美少女だねぇ?」


「美人姉妹って……凄いですね。」


 先輩方はそう言うけれど、先輩方だって負けず劣らず美人ですよ?


 思えども口に出せるはずも口に出すつもりもないけれど。


「あぁ……えっとユキサキ……さん? 店番ありがとうございます、もう大丈夫でしょうし、みてまわってきたらどうでしょう?」


 ゆっくりと雪幸先輩は頷いた。


「…………。頑張ってね?」


 少しだけ菊川さんに戸惑いが見えたが


「そうですね……頑張ります!」


 笑顔でそうやって切り返していた。

 

「………あの姉妹は、私に何させたいのかな。」


「どうしたんですか雪幸先輩?」


 人が少しずつ少なくなってきているのにも関わらず、また先輩方とはぐれてしまった。しかも菊川さんと別れてからわりと直ぐに。今もまだ大して時間は経っていない。


 まぁ、大方隠れてコソコソとついてきているか (どうしてそうしているのかは謎だけれど。)、本当にただどこかに目移りしただけか。


 だから今、数歩分先を歩く雪幸先輩と二人きりと言えば、二人きりである。


「それにあの二人は………まぁ、私からお願いしたようなものだし……。」


「だから何の話ですか…?」


 雪幸先輩が何かよく分からないことを言っている。今まで独り言なんて殆ど言うことは無かったのだけれど、様子が少し変だ。


「……あぁ。もう。」


「だからどうしたんですかってうわぁ!?」


 突然雪幸先輩が振り返り、ボクの右手を取って走り出した。


 ………何がしたいのかは分からなかったけれどついて行こう。






 土手の人混みから少し離れ、人通りは少ない。


 そんな所まで走ってきて、雪幸先輩はやっと振り返る。右手を離す。


 どこか決心したような面持ちで雪幸先輩はこちらを見た。


「……優君。好きです、付き合って下さい。」

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