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9月/1/どうしてこうなった

「優ー! 起きなよー! 私たち行った後じゃ誰も起こして……あ、お姉ちゃん。え、もう時間!? それじゃユウ!! 寝坊して高校遅刻するんじゃないよー! 行ってきまーっす!!」


 元気な声が家中に響き渡る。それはもう近所迷惑な程に。


 眠気に負けて寝具を被る行為はその近所迷惑な程の大声によって遮られた。


 寝具を跳ね飛ばし、眠気で持ち上がらない瞼をこすってから、時計を見ると、時間の余裕はかなりあった。



 起きて、用意されていた朝食を食べる。そして食べ終わると、義姉妹の分も片付け三人分の皿を洗い、それから着替える。


 ボクは自分の黒く長い髪を首の後ろ辺りで纏め、半袖の制服を着る。


 それから荷物を持って家から出て、バス停へと向かう。勿論鍵を閉めるのも忘れない。


 時は夏真っ盛りから段々と遠ざかって欲しい9月1日。


 夏は、夏休みは終わったじゃないか!! と、空を、太陽を睨むが、その猛烈な光を直視してしまい「目がぁぁ!!」となった。目を押さえ叫んだが、しかし一人で居るバス停でそんなことをしても虚しい気分になるだけだった。


 今の一連の動きに自分自身寒気を感じたが、今、季節は残暑所かまだ猛暑と呼べるような暑さの厳しい日が続いているような状態だ。


 暑さの証明に、自分の半袖を着ているために見える腕の肌色をみる。しっかりと焼けている。夏場はプールだ何だと色んな所で遊んだからだ。正直、振り回されていた感じが否定できないが。


 そんな事を考えている内にバスが来る。人のあまり居ない上に二番目に駅から遠いバス停である。しっかり座席に座れる。外の猛暑と違い、冷房による涼しさもあって快適だ。


 そこそこ長いバス移動を終えて、駅に着く。そこそこ大きな駅だが、そこは問題じゃない。


 大きいと言うことは人が多いと言うこと。通勤通学するための人でかなり暑苦しい駅。


 ボクは足早に人と人の間をぶつかることの無いように足早にすり抜けていく。


 そうして偶然人の少ない改札を発見するとその改札に定期をかざして足を止めることなく通過していく。


 階段を降りると、電車は既に来ていた。


 階段から近い、開いていた扉を通過して電車に乗る。しかしすでに座れるところはなかった。


 電車に揺られる事数分で目的の駅に着く。


 目的の駅とは、勿論高校の最寄り駅で、そして駅から少し歩いたところにその高校はある。


 電車から降りて小さな駅に降り立つとゆっくりとその高校へ向けて歩き出す。


 幾らか余裕のある時間の登校、幾らか余裕とは言っても、学校が開いてすぐに登校するほど、早い行動ではない。ボクはあの義姉妹とは違うのだ。


 まあ、そんな時間であり、同じような時間で登校してくる人は相当な数居る。その証拠に目の前に広がって歩く男子集団。その後ろに俯いて…後ろから見ているボクには分からなかったが何やら弄っているのか手元に集中している少女が歩いている。


 わいわいぎゃあぎゃあ騒ぎながら歩く男子集団にああいう風に登校したら迷惑だろとかああいう風に騒げるなんて良いなあという目で見ていたら


 突然男子の一人が立ち止まって、こっち側に、つまり駅の方に走っていこうとする。


 しかし、何かに集中している様子の少女は、間近で起きた行動に気づかず。男子も自分達が騒いでいるせいでか、背後にいた少女に気づかない。


 結果、「きゃっ」とか「わっ」とか言いながらぶつかり合い、少女の手から何かが飛んでいく。


 男子の方が「邪魔だ退け!」とさらに必要もなく押しのけて必死に走って行く。何か忘れたのか知らないが、女子にその発言は無いだろ……。


 ついキレそうになり、ボクの横を走り抜けていくその男子に足掛けしたり蹴飛ばしたりしたい衝動に駆られたがすんでのところで押さえることが出来た。


 ボクの足下に、押し退けられた少女の手から飛んでいった、本が落ちていたからだ。義姉が読んでるときによくみる紙のカバー (書店で本を買うときにもらえるものらしい)がされていた。


 その本を拾い上げて前を向くと、男子の集団は女子に全く気を向けず、「なあなあアイツ置いていこうぜ」とか言って走って高校へと向かってしまった。


「これ、き……先輩のですか?」


 さっき男子に押し退けられた、足元にしゃがみ込んで何かを探している女子生徒に向かってボクは言った。途中、君と言い掛けたが、胸元のリボンの色が二年生の赤を示していたので、先輩と言い直す。


 ちなみに我が校、学年毎に色が決まっています。今の一年が青、二年が赤、三年が緑、どれも暗めになっています。


 その先輩女子生徒はこちら細めた目で睨むように見て呟くような小さな声で言った。


「ありがとう。」


「どういたしまして。」


 言ったときは笑顔になっていたので、ボクは得意気になってそう返した。そしてボクの手から本を受け取る。それを先輩女子生徒は制服のポケットにしまい込む。……文庫本がギリギリ入るくらい、制服のポケットのサイズ、大きかったのかー…。


「……あの……すいません…眼鏡、どこかに落ちてませんでしたか…?」


 先輩女子生徒が目つき悪く………視力が弱かったのか。なら仕方ないか。


 一緒になって下を向いてしばらく探す。なかなか見つからない。


 熱心に下を探していると背中を叩かれる。よくわからないが背中を叩いてきた人物は同じように先輩女子生徒の背中をも叩いていた。


「おはよー、ユキ。って、眼鏡頭に引っ掛けて足元見るなんて何してんのさ。」


 突然来た──そもそも通学時間帯なのだから人通りはあったが皆この二人を避けて通っていた───赤髪の女子生徒がそう言う。確かによく見ると先輩女子生徒の頭の上の方に引っかかっていた。


 ………何故気づかなかった!?


 自分で気づかなかったことに驚き、恥ずかしくなって顔が熱くなり、そして真っ赤になる。


「………ああ、あった。」


 手を頭上に当て、眼鏡の有無を確かめると無感情にそう言う先輩女子生徒に迷惑を掛けたんじゃないかと不安になり、


「め、眼鏡見つかって良かったですね!? じゃ、ボクはこれで!!」


 走り去ることにした。


「あ……。」


「ぷくく……。」


 少しだけ騒ぎ声が後ろから聞こえて来たが、それがボクの恥ずかしさに拍車をかけた。











「ぜぇ………はぁ……!!」


 恥ずかしさのあまり、靴を脱ぎ下駄箱に走りながらぶち込んだ所で急停止するまで掛け値なしの全力疾走をしてしまった。だって、アレだよ、人様にボクが無自覚とはいえ「メガネメガネ…」を長時間やらせたんだよ!?恥ずかしい上に申し訳無い…。


「どうしたんだ、そんな息を切らして…。」


 教室に入るなり先にいた、半目でこちらを見てくる親友の多嶋(たじま)佳祐(けいすけ)。そいつは髪を固めたり色染めたりしていないくせに整った顔立ちからか、かなり美形でモテるイケメンです。


「……いやぁ? ……特に何もないよ? 佳祐の方こそ、ボクより先にいるとか珍しい。いつも遅刻ぎりぎりじゃないか。」


 入り口付近に居るのも邪魔なので、すぐ自分の席──佳祐の後ろの席に座る。


「珍しいなんて事はないだろ。」


「……遅刻癖有るくせに夏休みボケ有りそうな二学期初日をどうして遅刻しないのだろうなァ?」


 近付いて、そんなことを言う物凄い目つきの悪い友人。その目つきの悪さ、この世のすべてを恨んでいるかのようでしたが、本人は別にそういうわけではなく、特に何も考えてなくてもこの目つきの悪さなんだそうです。


 まあ、所謂関わっちゃいけなさそうな人感は出てるし、実際その通りだったのだけれど、色々あってよく話す仲になってます。


「何だよ、2人して…!!」


 本人からすれば理不尽な言いように佳祐はボクら、主に目つきの悪い友人を睨んでいた。




 始業式が終わり、諸々の用事が終わり、解散となる。昼時だが、二学期初日なので、当たり前か。




「終わったなぁ、んじゃ優、帰りどっか寄ってくか?」


 放課後に学校に居座る用事はない。部活はやってないし、別にわざわざここで勉強していく必要もないし (二学期のはじめの方にテストが有るらしいが、二学期初日に勉強したいという酔狂な奴は、そんなにいないだろう。)、それに誰かに呼び出されているわけでもない。


 だから、この、親友からの遊びの誘いを快く受けるつもりで、口を開こうとしたのだが。


「───たのもーーっ!!」


 ボクの言葉は教室に突如として現れた人のその大声によって、音にすらならなかった。


「うわ……うるさ…。」


 まだ生徒の殆どが教室から移動しておらず、みんなさっきの大声に大なり小なり反応していた。


 ボクだって、突然の大声に耳を塞いだほどだ。うう……耳がキーンってなってる……。


 キーンってなった耳を塞ぎ続けていると、目の前の佳祐の目の動きが段々とボクの方を向くように動いていた。ちなみに彼は最初、しっかり入り口を目で見ていた。


「───、──、───。」


 口の動きを見ると


 ういお、うう、ういお。


 と、なる。佳祐本人はそれに加えて俺を指さしている。うしろ? …まあ、なんとなくそう見えていただけで絶対違うと思うな。


 と、そこで肩を後ろから叩かれた。気がして振り向く。と同時に両手を耳塞ぎから強引に外される。外しに来た力は途轍もない強さで外しにかかってきた。


「──こんにちは?」


 こちらをのぞき込むようにそう言ってきたその人は朝の赤髪の女子生徒だった。


「こ、こんにちは」


 何でこの人が……? そもそも面識無いでしょうに。


「今日の朝、ユキ……ユキサキの本拾ってくれてたよね?」


「あのー…ユキサキって、朝の、あの眼鏡の人……ですか…?」


「そうに決まってるじゃん!」


 いや、決まってないですけど……と言うか、何で来たんですか早く帰りたい。


 何となくだが、たまにあるめんどくさい事になりそうな気配がプンプンするのをボクは感じた。ほら、あるでしょ、選択肢が「はい」と「イエス」しか無い状況。流されるしかない状況。それの一歩手前な気がする。


「よし、じゃ、行こっか?」


 それだけ言うと、ボクの両手をひっつかんだまま強引に移動を始める赤髪の人。


 と言うかボクは本についての返答をしていないんだけど!? 答えは「はい」だけどさ痛てててててててて!?


 強引に赤髪の人が腕を掴んで、運んで移動しているが、下手に抵抗しているからか、元々この赤髪の女子生徒の腕力が尋常じゃないのか、ボクの両腕が痛い。一瞬どころか、声の出ない悲鳴をあげてしまったほどだ。


「おっと、痛かった?」


 突然移動しながら、そのように声を掛けてくる赤髪の人。


 お、止まってくれるのかな…?


「でも我慢してね、男の子でしょー。」


「っ!?」


 そう言って、移動速度が上昇する。もはや抵抗して引きずられるよりもついて行った方が痛くないのは分かり切っているが


「ちょっ、止まって!! 下さい! うでもげちゃうぅっ!!」


 移動が全力疾走気味だったので立つことが出来なかった。


 階段のときすら引き摺られたよ……。






「はぁっ……はぁ………ふう。」


 階段移動した後、体力の限界だったのか、息を切らしてやっと停止する。


 さっきまで「痛っ!?」だの「ぎゃぁぁぁ!!」とか言いながら引き摺られていたが、本当に痛い。


 やっとこの赤髪の人の僕の腕を握りつぶさんばかりの握力で引っ張った両手の拘束は解かれている。


 正直、のたうち回りたいくらいには痛い……!!


 しかし、そうするよりも自分の安全確保のために、立ち上がり。


「ど、どうしてボクが男だと分かったんですか……?」


 さて部室まで歩いていけますよ、と言い………あれ!? なんか別のこと聞いてた!? しかも微妙に返しづらい質問を!?


 動揺しつつ赤髪の人から顔を逸らすように顔を外に向けると、まあ不思議。


 窓はボクを映し出している。


 そう。『まるで』美少女みたいな顔をした男子制服を着たボクを。


「まー、確かに。今までの描写じゃ微妙だね。君が男に見えないほど美人だって言うのに気付くのは。」


「何言ってるんですか先輩。」


 そんなこと言ったら先輩が二年である描写はしてませんよ? 二年生だけど。


「…とにかく!! 何で気付けたんですか!?」


 いつも、初めて会った人には女子に間違われる→男子だとボクが言う→弄られる→ (反射的に)殴るが常だった僕としてはかなり特殊だ。特にこっちまで来てからは誰も初見でボクを男だと見抜いた人は居なかった。


 常なら興奮して詰め寄っていただろうが、全身引き摺られて痛いのと、それから来る苦手意識で……。


「勘。……言われたって、何となくでしか知らないし。」


「勘て……前からボクのこと知ってたとかじゃないですよね?」


 一応もう一度言うが、今日は二学期初日である。いくらボクが一年とはいえ知られていない可能性もあるが知られている可能性がある。


「ん? 知らないよ? 大体君だって私のこと知らないじゃんし?」


「そうですか。………はぁ。」


 溢れ出るボクの男気が気付くきっかけとかじゃなかったのか…。


 しかしそれは第三者が聞けば、即座に否定しそうな考えだった。



 それからはボクは引き摺られる事無く、歩く事が出来た。


 歩きながら、他愛も無い会話をするだけだった。もはや取り留めないとかじゃない。


 先を道案内するように歩く赤髪先輩の一歩以上三歩未満後ろのあたりの位置を保ちつつ歩き、時折来る赤髪の人の質問を適当に返し、ぼんやり考えながら移動していた。



 この高校は、国内有名な進学校──と言うわけではなく、偏差値も中の中な、普通な進学校。特にこれと言って良いところがあるわけでもなく、悪いところがあるわけでもない。

 いや、地味に高校の敷地が広く、校舎も馬鹿みたいに大きくて、在校生の数も何だか多いような高校であることは良いことかもしれない。

 まあ、圭佑曰く「何でもある」高校らしい。多嶋圭佑、あいつは中学二年からの友人だ。ボクからは親友だと思っている。


 と言うか、広すぎて校内のどこに何があるか、把握してないんだよね…。多分この前を歩く赤髪の先輩に場所聞いても絶対どこ行くか分からないから聞いてないくらいだ。


「──んで、浅葱(あさぎ)(ゆう)君は、何でそんなに女子と間違われることが嫌なのに長い髪をしているのかね?」


 ぼんやりしていたボクに向かって、適当に応答出来ない質問が来る。


「それは…───。」

「あ、着いた。」


 もはやどう移動したかを覚えていないが。外に出た気もするし、校舎に入ったままの気もする。


 しかし、取り敢えず、目的地にたどり着けたようだ。


「んじゃ。入るよー。」


 赤髪の先輩がその部屋に入っていく。


その部屋の看板には

『文芸部』

と書かれていた。



「失礼します。」


 赤髪の人が、部室らしき部屋に入ってから一呼吸置いて、『文芸部』の部室らしき部屋の入り口を開く。


「「「ようこそ、文芸部へ」」」


 扉を開けて顔を覗かせた途端に、中にいた女性三名による歓迎の言葉を浴びる。


 赤髪を翻しながらこちらを指差して言う女子生徒。

 背筋を伸ばし座りながらこちらを見ながら手を振っている青みがかった黒髪が特徴的な女子生徒。

 本から目を離さず、口だけで言った眼鏡の女子生徒。


 その光景を見て、赤髪の人は何故そんなに素早くポージング出来たのかと蹴り飛ばしたい衝動に刈られたことはここにしか書くまい。


「どうもすいませんね、トモが。『ユキサキに拒絶反応を示されなかった人を連れてくるんだ』とか言って出て行くのを止めていれば、あなたがそんなに汚れることもなかったのに。」


 姿勢の良い女子生徒がそう言って頭を下げる。


「いやいやいや!! 頭下げるのはやめてください!! 悪いのはそこの赤髪の人じゃないですか!」


 というか、汚れているのは、指摘されてやっと気付いた。汚れはどんな服でも目立つものだが。


「そう…ですよね。───トモ?」


 そう言って赤髪の人を睨むと、赤髪の人は竦み上がり


「な、何だよアオイ…!? べ、べべ別にい良いじゃねえか、珍しいから知りたかったんだよ、ユキサキが誰かと一言でも話しただけの相手でもさ!?」


 アオイ、と呼ばれた姿勢の良い女子生徒は立ち上がり、トモと呼ばれた赤髪の人から視線を逸らさず、じりじり近づきながらその威圧感だけでトモと呼ばれた赤髪の人を壁際へと追い詰めていた。


 悲鳴とか聞こえるが、ボクが言えることは一つ。


 ざまあみろ。



「…私……そんなに恩知らずじゃないのに。」


 そんな中、本から目を逸らさずにいた女子生徒の呟きは誰にも聞かれることは無かった。






「えー、気を取り直して、どうも、部長の茜屋(あかねや)(とも)です。」


「副部長を務めています、垣原(かきはら)(あおい)です。」


「一応会計……らしい、鍋川(なべかわ)雪幸(ゆきさき)。」


 名前をどう書くのかも教えてもらったが。


「えー、この度いらっしゃった浅葱(あさぎ)(ゆう)君には入部の試験を受けてもらいます。」


「でもまぁ凄い美人なのに男の子って、世の中不思議ですよね。驚いちゃいます。」


「……………。」


 ぶっちゃけてしまうと『なんだこれ』。よくわからない状況だ。あと雪幸先輩はこちらには興味なさげに本読んでるし。


 しかもこれが一話とか怖いな……。急展開過ぎて。


 ボクがそんな現実のことを考えている中でも話は進んでいく。


「取り敢えず優君。座りなさい。」


 促されて座る。


 部室には長机が、長い辺をつけるように2つ置いてあり、3人ともが窓際にならんですわっているために、反対側に予め置いてあった椅子に座った。


 入部試験て、何するんだ?


「えー……雪幸に礼を言われたかい?」


 茜屋先輩は俺が座るのを確認してそう言った。


「…? まぁ、言われましたけど。と言うか本人に聞いて下さいよ何でわざわざボクをここに引きずってまで聞くことですか?」


 正直謎過ぎる。なんでそんな事聞くのだろうか。


「おおーっ!! やっぱそうなんだ葵! 千円寄越せ!」


「ボクの質問に答えてないしそもそも入部試験じゃなかったんですか!?」


 それから垣原先輩は悔しそうに「雪幸が礼を言うだなんて……。」と言いながら茜屋先輩に千円を渡していた。


「酷い。」


「ごめんね雪幸。ほら、葵『一週間以内に雪幸が誰かに礼を言う』というの、当たったじゃん!! あの占い当たるんだよ!」


 鍋川先輩に謝ってから、占い当たっただの賭けは私の勝ちだのと喚く。


「あー、うるさいうるさい。……あー、ごめんねこのバカが迷惑かけたでしょ? 本当ごめんなさいね?」


 垣原先輩が迷惑そうに茜屋先輩をあしらいつつ、こちらを見て申し訳無さそうにそう言った。


「いえいえ…本当に悪いのはそこの茜屋(ばかねや)先輩だって分かってますから。所で、もう帰って良いですか?」


「「ごめん (なさい)それとこれは別 (です)。」」


 (あかねやせんぱい)(かきはらせんぱい)声を揃えて断言する。


「珍しいだろ、雪幸が誰かと話すなんて。」


「部員も欲しかったのよ、雪幸と話す事が出来る人材が。」


 鍋川先輩、そんなで大丈夫なのか?


「…私だって本拾ってもらって礼を言わないほど、恩知らずじゃない……。」


 小さく呟くようにそう言う鍋川先輩は言ってから本で顔を隠すように読んでいた。


「「と言うわけで、ね?」」


 全く以て何が、と言うわけで、なのか分からないが、前のめりになる二名の女子に気圧されてしまった。











 文芸部室で随分と時間を食ってしまった。


 まだまだ明るいが、それでも昼御飯食べずにここまで高校に居るつもりでは無かった。


 結局教室に帰った後、教室はボクの荷物が残されるのみだった。


「…ただいまー……。」


 家の玄関を開けて、靴を脱ぐ。鍵は開いていた。


「お帰りー! って、何その紙切れ。」


 玄関にわざわざ顔を出した義妹が、ボクの手元を見てそう言う。


「………入部届けだよ…はぁ……。」


 そう言って自室に向かうボクを見て義妹の一言。


「何で楽しそうな顔して疲れてるんだろう……。お姉ちゃんに言っておこっと。」


まだまだお見苦しい話かも知れませんが、楽しんで貰えるように頑張ります!

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