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猫とカラスと雨の森  作者: 夏川サキ
episode 2 おれのご主人様
15/33

8

 エメラダとアンナはそろって頭を下げた。

「いろいろとお世話になりました」

 ふたりとも、その表情はここへ来た時よりも若干すっきりしている気がする。

「いーえ。また遊びにおいでよ」

 アルがそう言って微笑むと、「はい、ありがとうございます」と女の子たちも笑みを返した。

「じゃ、いってきまーす」

 本日何度目かのいってきますを、ホホは子どものように元気よく言う。

「はーい、いってらっしゃい」

 アルの隣で、おれも手を振った。「いってらっしゃい」

 するとユイがこちらに向き直って、「いってきます」とおれに手を振り返す。

 その姿はまるっきり男だった。

 理由は簡単。霧雨亭に戻ってきたおれたちは泥だらけの服を着替えたからだ。アンナはホホの服を、ユイとおれはアルの服を借りた。借り物の服は3人とも大きすぎてダボダボしている。

 ユイが男物を着ていることは滅多にないから、すごく新鮮だった。髪も無造作にひとつにくくっているだけだ。

 いつもあれだけ美少女なくせに、たったそれだけでちゃんと男に見えるし、似合っている。

 着替えたユイを見て、エメラダは不思議そうな顔をしていた。何も言わなかったけど。

 でもかわいい。ユイはどんな格好をしてもやっぱりかわいい。

 おれは再確認し、心の中でしきりに頷いたのだった。

 ユイはエメラダたちを連れて、知り合いの魔法医のところへ行こうとしている。

 祭を目の前にして、どうしても早急に脚を治したいというエメラダたっての希望で、ユイが腕のいい魔法医を紹介することになった。

 ホホがエメラダの乗ったリヤカーを引き、その隣をユイとアンナが歩いて行く。

 4人の背中を見送っていると、アルがこちらを見ることもなくボソっと呟いた。

「行かないの?」

「…うん」

 おれもボソっと答える。

「中、入るか」

「…うん」



 台所の椅子に座ったとたんに、どっと疲れが襲ってきた。

 だめだ。もう動けない。

 今日は本当に疲れ果てた。

「ビゼ、」アルの呼び掛けに、のろのろと視線を上げる。「これ、食べてみない?」

 アルの手にある赤いものを見て、おれは訊ねる。「…何それ?」

 お客さんからもらった外国の果物だそうだ。初めて見るそれはちょっと毒々しい色をしている。

 聞いたことのない名前に、おれは眉をひそめた。

 そしてアルも、おいしいという話しは聞いたことがあるけど、食べたことはないらしい。

「夕飯のデザートに切ろうかとも思ったんだけどさ、丸かじりの方がおいしそうだと思わない?」おれの表情を見ていないのか、見ても何も思わないのか、同意を求めてくる。「2個しかないから、ふたりで山分け」

 投げて寄越されたそれを、反射的におれはキャッチした。ちょうど両手の中に収まるサイズだった。

 近くで見るとますます…グロい。

「…毒見かよ」

 おれの言葉を笑い飛ばして、アルは何のためらいもなくかぶりついた。「うん、うまい!」

 おいしそうにシャリシャリいわせるので、おれはためらいつつも一口かぶりつく。

 …うん、意外においしい。甘さも酸っぱさも、丁度いい。

 すぐさま二口目にいったおれを、アルがどこかほっとしたような顔で見ていたことには気づいていなかった。



 角を曲がると、店の前でアルとエメラダが待っているのが見えた。

 そのエメラダの張り詰めた表情に、アンナのことをすごく心配していたことがすぐに見て取れた。

 そしておそらく、何かを知ってしまっていることも。

「アンナ…!」

 足を痛めているにもかかわらず、こちらへ駆け寄ろうとする。

「だめです!」アンナは鋭い声でそれを制止した。「私がそちらへまいります」

 迷いのないはっきりとした口調で告げる。

 そして深く息を吸い込み、まっすぐに前を見つめて歩き出した。

 エメラダは微動だにせず、アンナを見つめている。

 そしてエメラダの目の前まで辿り着いたアンナも、エメラダをしっかりと見つめ返した。

「お嬢様、申し訳ありません」

 謝罪の言葉とともに、深く頭を下げた。

「私、ずっといじけてました。学校に馴染めなくて、お嬢様が他の人に取られたみたいで淋しくて。プッチー人形に愚痴ってしまったんです。そしたら…私の強すぎる気持ちを糧にして、人形が動き出しちゃいました」

 おれとユイ、ホホは少し離れたところからふたりのやり取りを見ていた。顔は見えないけど、おどけたような言い方が却って痛々しい。

 ユイたちは何も状況がわかっていないはずだが、場の変な緊張を感じ取ってか、黙ったままだ。聞くに聞けないだけかもしれないけど。

 おれはアンナの背中から、目が離せなかった。

「そしてどうなったかは…ご存知の通りです。私の人形が…、いえ、私がすべてやったようなものです」

 エメラダの瞳が揺れていた。表情が少しずつ歪む。

「本当にごめんなさい。お慕いしているからって、みんなに迷惑をかけて、主人に怪我までさせるなんて。…私は使用人失格です」

「…アンナ?」

 エメラダの声が震えている。その後に続く言葉を思案して、不安を感じているかのようだった。

「私は使用人失格だけど…」

 アンナは言葉を途切れさせる。そしてごくりと息を呑み込むと、覚悟を決めたように、もう一度口を開いた。

「でも、私はエメラダが大好き。あなたと友達になりたい」

 はっとなったのは一瞬のことで、エメラダはみるみる涙をこぼす。

「ずっと、ずっと、そう思ってました」

 そう言ったアンナも、少し、鼻声だった。



「…ねえ」

「何さ?」

 アルは立ったまま、背を流し台にもたれさせて果物を食べていた。

「それ、…悪趣味」

 おれは目線だけをそれに向けた。

 台所の壁には腹を裂かれたプッチー人形が無残にもナイフで刺し留めてある。黒曜石はもう抜いてるから動かないはずなのに、そこまでするか。

「まだちゃんと処理したわけじゃないから。一応ってことで」

 魔法医のところに出かける前に、ユイとホホには事の全容をざっくりとかいつまんで、アルが伝えていた。ユイが戻ってきたら術を解いて、石も壊すことになっている。

 見張りのためか、メアリさんもリビングのソファで寝そべっていた。厳重警備だ。

 おれは壁の人形をじっと見つめた。

「なんか、」誰かに喋っているというつもりはなかった。だけどなんとなく声に出して言いたかった。「愛情が空回りしてるんだよな。こいつも、アンナも、…おれも」

 人形に感情はない。だから別に、悪さをしてやろうという気もない。ただ、持ち主の願いを叶えるべく動く。後先考えず、他のことなんか一切無視して、目的を果たすことのみを目指して。

 術をかけられて、そう動くように作られたのだ。

 持ち主に、つまりアンナに対する愛情なんて、人形は持っていない。

 仕組みは頭ではわかっていた。だけどおれにはどうしても人形とアンナが、いや自分が重なって見える。

 所詮道具であるという点では、偽物の命という点では、おれも人形も変わりない。

 そんなおれがこんなに感情に振り回されてしまっているんだから、人形が何も感じてないなんて、アンナを愛していないなんて、本当に言い切れるんだろうか。

 だってこいつは、アンナの本当の願いに気がついたんだから。

「空回りしてるくらいの方が安心できるよ」

 優しい声だった。

 おれはゆっくりと言葉の主に顔を向ける。

 アルと視線が絡む。「そのほうが人間くさいんじゃない?」

 おれは思わず笑ってしまった。「…おれもこいつも人間じゃないし」

 するとアルも「そうだった」と言って笑う。

「こいつもがんばったよな。夜な夜な学校中を徘徊して、物隠して」アルが苦笑交じりに言うもんだから、ちっちゃい体で廊下をちょこちょこ駆けていく姿が目に浮かんだ。「そりゃ小さいものしか無理だわ」

「確かに。手紙書くのも大変だっただろうな」

 あれだけ気色悪かったミミズ文字が、事情がわかった今ではかわいく思えてくるから不思議だった。

 おれはふとあることを思い出した。

「そういえば、別れ際にエメラダと何話してたんだ?」

 エメラダが鼻息荒く「がんばります!」と言っていたのが気になっていた。

「ああ、」アルは何でもないことのようにさらっと言う。「看板は戻ってくるかもしれないよ、って」

「そうなの?!」

「うん。あれはほんとにヤモリさんの仕業だと思うから」

 アルはエメラダにヤモリさんの潜んでいそうな場所を教えたのだそうだ。

「濡れ衣着せられてへそ曲げたんだろ」

「…結構ナイーブなんだ」

「そうだよ。だから手土産でも持って行って丁寧に謝って、後は交渉次第ってかんじかな」

 交渉と聞いてエメラダのやる気に火が付いたらしい。「あの子はやり手だよ」

 アルの話を聞いているうちに、思考はその内容よりも感心の方に向いていく。

「…すごいな」

 素直に感想が漏れる。

「何が?」

「アルが」

 改まって言ったので、アルは変なものでも見るような目をした。

「どした?急に」

「なんでもズバッとお見通しじゃん」

 アルが物知りで頭もいいことは知っている。でもこれじゃあ、まるで名探偵だ。

 それに比べておれは全然だめだった。一日中駆けずり回って、ほんとに疲れたけど、でも冷静に振り返ってみれば全然役に立っていない。

 細かいことはともかく、収まるところに収まったのは、ホホが体張って、アルが頭使って、メアリさんがきっちり捕獲したからだ。おれはその間でうろうろおろおろしていただけだった。むしろ足を引っ張っていたかんじさえある。

 するとアルは急に真面目くさった顔つきになった。

「お前もしかして、俺が全部自分で考えたとか思ってんの?」

 え?

「……違うの?」

「んなわけないじゃん」ばっさり、言い切った。「知ってたんだよ」

「は?」

「だから、聞いたことがあったんだって。おかしなプッチー人形の噂」

 アルは最近お客さんから、夜な夜な動き回るプッチー人形が、手段を選ばず本当に願いを叶えてしまうという話を聞いたそうだ。

 …それはもうホラーだな。

「こんな短時間で、ろくに調べもせずにわかるわけないだろ」

 さも当然という風に言われるが、そんなの知ったことではない。

「だったらなんでそう言わないんだよ?」

 裏切られたような気持ちが沸々と湧いてくる。

 おれの質問にアルは「言ったろ?プロの手腕だって」といけしゃあしゃあと言ってのけた。

「…あんたプロじゃないじゃん」

 何か…詐欺だ。返せ、おれの称賛。

 なぜだかこっちが落ち込んでしまっていると、「俺にしてみれば、お前の方がすごいけどね」という声が降ってきた。

 ちらりと目線だけ上げる。

「俺は舌先三寸で丸め込んで相手を納得させるのは得意だけど、お前みたいに体当たりで説得とか無理だから」

 おれは目を瞬いた。そして赤面する。

「な、なんだよ、体当たりで説得って…」

 アルはにっこり笑って「涙の跡って残るんだよ」と、教えてくれた。

「別に説得とかしてないし」

 そうは言っても恥ずかしさでそっぽを向くと、アルは遠慮なく笑った。

「でも、そんなビゼだからアンナもああ言ってくれたんじゃない?」



「ビゼさん!」

 ユイたちを見送った後、店に戻ろうとすると、アンナがひとり走って戻ってきた。

「忘れ物?」

 おれが訊くと、「いいえ…あ、そ、そうです」ともごもご返事をする。

 様子がおかしい。

「どうかした?」

 おれはアンナの顔を少し覗き込むようにする。するとアンナは少し顔を赤くして目を伏せがちにした。

 そしてポケットの中から何かを取り出した。「これ、もらってくれませんか?」

 何だろう?と思いながら、とりあえず受け取ってみる。

 それは小さな黄色い紙切れだった。「飲み物引き換え券(焼き菓子付き)」と書かれている。

「あの…、よかったらお祭に来ませんか?」

「え?」

 何の意味もない、返事的な「え?」だったんだが、アンナは突如として慌てだす。

「あっ、じ、実は私のクラスは喫茶室をするんです。で、わ、私は調理担当でお菓子とか焼くんですけど、今日はとてもお世話になったのでそのお礼にもしお時間があるようでしたら、ユイさんたちと来ていただきたいなーとか思うんです…」

 と、ものすごい早口で一気に、そして最後は尻すぼみに述べた。

 おれは勢いに若干圧倒される。

 どうやらこれは食券らしい。ちゃんと4枚、4人分ある。

「ありがとう。行くよ」

「…えっ?!」

 自分で誘っといて、受けたら驚くってどういうことだ。

「全員で行けるかはわかんないけど、おれは行く」

 学校の祭とか行ったことないので、純粋に興味があった。

「ありがとうございます…!」

 たったそれだけのことで、アンナはとても嬉しそうだった。

 先に行ってしまった3人のところへ走っていくアンナの後姿を見送る。すると、ふいに視線を感じた。

 振り返ると、すでに家の中に入っていたアルが店の窓からしっかりと見ていた。おれと目が合うと、ニヤリと口の端を上げて、奥へと消えて行ったのだった。



「さあ、あいつらもそろそろ帰って来るかなあ」

 アルは大きく伸びをする。その顔にはちょっと疲れが見えた。

 考えてみると、今日のアルはずっと誰かを待っている。きっと待ち疲れだな。

 晩ごはんの準備を始めるアルの隣におれは立った。「手伝う」

「ありがと」アルは微笑んだ。「でもビゼ…そろそろ本当にやばそうだ」

 ふたりで窓の外に目をやる。

 オレンジの光はだいぶ弱くなっていた。太陽はもうギリギリ、最後の踏ん張りだ。

 森の中はもうすでに暗いだろう。

「先に帰っとくか?ユイが戻ってきたらごはん持たせて帰らせるし」

 アルの言う通り、今なら何とかなるだろう。ランプでもあれば通り慣れた道を行くぐらいは出来る。

「うん…、でも、いいや」

 出た声が思ったよりも全然平気だったので、自分でも内心驚く。

 アルは首だけこちらに向けた。

「ユイがちゃんと連れて帰ってくれるだろうし。なんなら泊めてよ」

 おれはアルを見上げてニヤリとしてみせる。

 ユイは今日ここで晩ごはんを食べることをとても楽しみにしていた。

 だったら、そうさせてやりたい。

 メアリさんは相変わらず怖いし、アルは相変わらず飄々としているし、ホホはいつでも能天気に笑っている。

 霧雨亭は苦手だけど、でも嫌いじゃないってことに、実はおれはとっくに気がついている。認めたくはないが。

 アルも同じようにニヤリとした。

「それ、いいな」

 それから「にしても、ユイのミラクルさには脱帽だわ。普通、落ちる?落とし穴」と言いながらガシガシと芋を洗いだした。おれはその横で芋の皮をむき始める。

 そういえば4人で、いや、メアリさんも入れたら5人で食卓を囲むのは、初めてだ。

 想像するだけでにぎやかだな。

 でもまあ、たまにはこういうのも悪くないのかもしれない。



 結局、本当に泊まることになった。

 誰がどこに寝るかは揉めに揉めたが、ホホはいつも通り自分の部屋(元ユイの部屋)、ユイとおれがアルの部屋、アルはリビングのソファで寝ることになった。

 アルはでかいから、ベッドもでかい。おれたちふたりでも十分に寝られる。

 ユイが小さかった時は毎晩一緒に寝ていた。でもこの7年でユイはぐんぐん成長し、とっくにおれよりも大きくなってしまったから、一緒に寝るのはものすごく久しぶりだった。

 ユイ以外の人のベッドに寝るのは初めてで、少し落ち着かない。おれはベッドに腰かけたままそわそわしていた。

「はあー、疲れたー」ユイはすでにベッドの上でゴロゴロしている。大きく伸びをしながら「でもなんだかんだで楽しかった」と言った。

 おれ自身はどうだったんだろう?今日という日を楽しめたんだろうか?

 自分に問うてみたけれど、正直よくわからない。楽しかったところもあるけど、それだけじゃないのも確かだ。

 でもユイが楽しかったのなら、よかった。そう思って目を細めると、ユイは大きな目でじっとおれを見つめてくる。

「……何?」

 不穏な空気を感じ取り、思わず身構えた。

 ユイは突然がばっと体を起こした。そしておれの頬をむぎゅっと両手で挟み込む。

「なにしゅりゅんだひょ?」

 ほっぺたを押しつぶされてうまく喋られない。「何するんだよ?」と言いたいんだけど。

 ユイは真剣だった。というより、ちょっと怒ってる。

「作り笑いなんて、ビゼらしくない」

 急に言われて、何のことか一瞬わからなかった。

 でも真正面からまっすぐにユイの黒い瞳を見つめていると、河原で泣いてしまった時のことだと思い当たる。

 …あのことは早く忘れてもらいたいんだけど。

「ぶすっとしたり、毒吐いたり、睨んでる方が、ずっとらしいから」

 中々ひどい言われようだ。おれってそんなだっけ?

「わかった?」

 顔をさらに近づけて、瞳を覗き込むように問われる。

「…ふぁかった」

 わかった、と言った。するとユイは満足したように微笑んで両手を離してくれた。

 再びベッドにダイブするユイを見ながら、ちょっと違うんだけどな、と心の中だけで呟く。

 ユイの言ったことを了解したという意味の「わかった」ではない。

 ユイもおれと同じように思ったりすることが「わかった」という意味だった。

 変わってほしくないなんて、思ったりするんだ。

 思わずにんまりする。

 するとユイは「何笑ってるの?」と首を傾げた。

 おれは「何でもない」と言って、そのまま布団の中に潜った。

「ねえ、ユイ?」続けて布団に入ってきたユイにおれは話しかけた。「ジンカハニスの祭に行ってみない?」

「いいよ」

 あっさり承諾されて、びっくりしてユイを見る。

 あ、これってさっきのアンナと一緒だ。

 驚きが顔に出ていたらしく、ユイは首を傾げた。「行きたいんでしょ?」

「…うん」

 でもユイは人込みが苦手だ。

「じゃあ行ってみようよ」

 にっこり笑って、言ってくれた。

 それはおれの大好きな、ユイの笑顔だった。

「さ、明かり消すよ」

 真っ暗になった部屋の中で、おれはまだ目を瞑ることが出来ずにいた。

 ユイは3つ数える間に眠ることが出来るという特技を持っている。すぐに寝息が聞こえてきた。

 頭の中でさっきの会話を反芻する。

 ユイが変わっていくように、おれだって変わっていく。それはどうしようもないのかもしれない。

 だけどひとつだけはっきりと言えることがある。

 ユイがおれの愛しいご主人様であることは変わらない。

 もちろん、ユイとおれの使い魔の契約はどちらかが死ぬまで解消されないんだけど、そういう意味ではない。

 重要なのは「愛しい」の部分だ。

 それだけは絶対だと、妙な自信を持って言えた。

 寝返りを打ったユイが背中にぶつかってくる。こう見えてユイは寝相が悪い。久しぶりの衝撃は前よりもパワーアップしていた。

 思わず苦笑が漏れてしまう。痛いけど、あったかい。

 心地よい温もりを背に受けて、おれはようやく眠りにつこうとしていた。


ビゼ編はここまでになります。

読んでくださってありがとうございました。

次回からはアルのお話しです。

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