疑惑
毛布を取って帰ってくると、アリアが風呂場から出てきていた
「とりあえず、息はしているから大丈夫だと思うわ」
今は首だけ出して入浴させてるから、というアリアの声に店内には安堵の声が広がる
「よかったあ、大丈夫みたいだね」
ハーブティを淹れながら嬉しそうなタイニーにアリアは首を横にふる
「油断は禁物よ」
アリアの諭しに対し、タイニーは落ち込む
「でもまあ、とりあえず息をしているんなら問題ないだろう」
リドの言葉にタイニーが顔を上げた
「そうだな~、風呂から上がったら酒を飲ませればいいじゃないか」
体があったまるぞ~と言っているデニーさんが椅子にもたれかかりながら言ってきた
片手にお酒持っているデニーさんにアリアは鋭い視線を送る
デニーさん、女の子はきっとお酒飲まないと思うし、その前にアリアがそのお酒を取り上げると思うよ
冷めた視線を僕がデニーさんに送っていると、アリアが僕に話しかけてきた
「ハジメ、溺れているといけないから、お風呂の女の子を私が来るまで看ててくれない?」
その間に私はあの子に合いそうな服を見繕ってくるからと言っているアリアを僕は全力でとめる
「ちょっ、待ってよアリア!女の子の身体は見れないっていうか、その」
僕が口を濁しているとアリアがポンと手を叩いた
「ああ、そういうことね!それなら大丈夫よ。服着せたままお風呂に入れてるから」
問題ないわ!とウインクしてきたアリアが、倉庫へと走り去っていくのを見送った
へえ、そうなんだ
じゃあ大丈夫かな・・・
って大丈夫なわけないだろう!?
僕が心の中で盛大にツッコんでいると、後ろから誰かの手が置かれた
その手の主を見るために僕は振り返った
リドだった
リドは風呂場の方を見ながら、僕に言う
「行っといた方が身のためだぞ」
アリアが何するか分からんぞというような感じで僕を見てきたので、僕は風呂場へと向かうことにした
風呂場のドアを開け、僕は目に手をあてながら風呂場を覗いた
そこには湯船につかった女の子がいた
アリアが言っていた服だけではなく、バスタオルにもくるまれている状態で風呂に浸かっていたので、手で目を覆わなくても大丈夫だった
アリア、もう少し詳しい説明がほしかったな
僕は湯船につかる女の子の傍に行き、表情を眺めることにした
アリアは女の子の服選びに手間取っているのだろうか、なかなか風呂場に戻ってこなかった
規則正しく呼吸している女の子を見ていると、肩を震わせ、くしゃみをした
もしかしてお湯の温度が下がっているのかな
僕がお風呂のお湯に手を入れて確認しようとした途端、女の子は目をあけた
まつ毛の下にある琥珀色の飴玉が僕の目に焼きついて離れない
その瞳の色に僕が目を奪われていると、女の子は頭を起こした
「誰!?」
琥珀色の瞳で僕を睨みつけながら、体を起こす
そして、女の子の視線は僕がお湯の温度を確かめるために入れていた僕の手に移った
「!?」
彼女はそれを見た途端、口をパクパクとさせていた
「落ち着いて!」
僕が女の子を宥めていると、甲高い声で叫ばれた
「痴漢!!」
その後、僕の頬に衝撃が走ったのは言うまでもない
~ 従業員の部屋の奥の倉庫 ~
倉庫から女の子の服を選んでいたら遅くなってしまった
「急がないとね」
私は服を持って倉庫を後にした
店内に出て、風呂場の方を目指していると、甲高い声の後にバチンという音が聴こえてきた
「何だ?」
「何だろうね?」
首を傾げているマスターとタイニーの横を素通りし、私は風呂場に直行する
そして、風呂場のドアを開け中を確認した
「何かあったの!?」
湯気が立ち上っている湯船の方を見てみると、ハジメが女の子の傍にいた
うん、さっき私が言った通り看てくれていたのね
私はそのことを思いながらハジメを見ていたが、そのハジメが頬を押さえているのが見えた
痛そうに歪めているその顔は、真っ赤だった
そのハジメの横で、女の子は身体を起こして目を見開き、腕を曲げている
湯船に近づき、私は頬を押さえながら放心状態になっているハジメを揺さぶる
「どうしたの、ハジメ!?」
我に返ったハジメは、挙動不審だった
「なっ、何でもないよ!?」
明らかに声が裏返っているハジメを宥めながら、私は起き上がっている女の子に話しかけた
「目が覚めたのね、よかったわ」
私が微笑むと、女の子は目を見開きながら私に言ってきた
「この人が、私に・・・」
わなわなと口を震えながら私に伝えようとするので、耳を近づける
「私に、何?」
問いかけた私の言葉の後、女の子は思いっ切り息を吸い込んて叫んだ
「痴漢してきたんです!!」
女の子の甲高い声が風呂場中に響き渡った
最初は何を言われたか分からなかった
あのハジメが、痴漢?
私はハジメに目を向けた
我に返ったハジメが首を横にふっているのが見えた
僕はしてないよと
言う声がしてくるように私は感じた
とりあえず、興奮している女の子を落ち着けないとね
私は女の子の体を湯船から引っ張り上げた。
すみません、女の子がどういう子なのかの説明にまでは至りませんでした。
目覚めた女の子に叩かれたハジメは放心状態です。いきなり痴漢疑惑かけられたらきっとこんな感じなのかなと思い、今回書きました。疑惑の目を向けられた方は、結構理不尽な思いをするんじゃないのかなと思います。




