流れてきた女の子
慌てているアリアの目の前に行き、水面に浮かんでいるビート板を手に取る
手に取ったビート板を訳が分からないという表情で見ているアリアに、僕は説明した
「これはビート板って言うんだよ」
そして、こうやって使うんだと言い、僕はビート板の上に両腕をのせ、泳いで見せた
「僕の国では泳ぐときの補助として使える物なんだ」
僕がビート板に掴まりながら泳いでみせると、アリアは感嘆の声をあげていた
「何それ、見たことないわ!」
そんな便利なものがあるのね~というアリアは、僕の横に泳いでやってくる
物珍しそうにビート板を見るアリアに、僕はさらに言う
「そうだね。僕もこの国では見たことがないな」
そう言って頷いていると、アリアが僕の肩を掴んできた
「・・・ちょっと待って、ハジメ」
ビート板に体重を駆けながらアリアの方を振り返ると、眉間にしわを寄せていた
どうしたの?と声をかけると、
「さっきは聞き流したんだけど、どこの国生まれか思い出したの?」
と言ってきた
はい?
僕はアリアの言葉に目をパチパチとさせた
「だってさっき、僕の国では泳ぐときの補助として使える物なんだって、言ってなかった?」
そのアリアの指摘に僕はさっき言ったことを思い出してみる
あ、まずい
言ったかもしれない
僕は自分の言ったことを思い出しながら、冷汗をかいていた
そうだった
僕はアリアには記憶喪失だと言ってしまったんだった
さて、どう説明しようかと考えていると、遠くの方からタイニーの声が聞こえてきた
「ハジメ兄、アリア姉!ちょっとこっち来て!!」
早く!と大声で叫んでいるタイニーが僕たちを呼んでいる
タイニーの雰囲気がただならぬようなので、僕はアリアに提案する
「この話はまた後でしよう、アリア」
今はタイニーのいるところに行こうと言うと、アリアも頷いてくれた
僕たちはタイニーのいるところへ急いだ
タイニーのいるところまであと少し
ビート板に体を預けながら泳いでいると、タイニーの後ろに流木のようなものが見えた
あれはなんだろう?
そう思いながら泳いでいると、タイニーがさらに僕たちに向かって叫んできた
「人があっちの方から流れてきたの!!」
人が流れてきただって!?
口をメガホンのように覆い伝えてくるタイニーの言葉に、僕は呆然としていた
そして、タイニーが振り向いた先にあるのは、まだ見えていない土の国だった
タイニーの言葉にアリアの泳ぐ速度が加速したのが見えた
僕はできるだけ早くその人のもとに着くよう、水の中で足を動かしたのだった
アリアが先にその人のもとへと着き、その人を抱き上げる
「ちょっと、あなた大丈夫!?」
アリアに抱き上げられているその人は、女の子だった
アリアは頬を叩いて意識をはっきりさせようとしているが、その子の意識は戻らない
「とりあえず、レストランに運ぶわよ!」
アリアの号令とともに、その子をレストランへと引き上げることとなった
「リド!!」
アリアとタイニーが女の子をバスタオルにくるんでいる間に、レストランのドアを開く
店内にいたデニーさんとリドは何事かという表情で僕を見てくる
「至急お風呂を沸かしてって、アリアが」
早く!とせかすと、リドは急いで風呂場に行ってくれた
その後、タイニーがドアを開けている間に、バスタオルにくるまれた女の子をアリアが抱き上げて入ってきた
僕からは遠目でよく見えなかったが、その女の子の髪はキャラメル色をしていた
とてもきれいな透き通った髪と思っていると、リドが風呂場から出てきた
「準備できたぞ」
リドの言葉を聞き、アリアはその子と風呂場に入っていった
アリアと女の子が風呂に入っている間、僕は考える
なぜ女の子が土の国の方から流れてくるのだろうか
風呂場に入ったアリアたちを見てオロオロしているタイニーに、僕は見かねて肩を叩いた
「オロオロしててもしょうがないよ、タイニー」
ふえっ?と言う風に涙をためているタイニーが僕の方を振り返る
「でも、ハジメ兄はあの女の子のことが気にならないの?」
タイニーの問いかけに対し、僕は目線を合わせていった
「気にならないことはないさ」
僕の言葉にタイニーが耳を傾けていたので、話を続ける
「けど、ここでタイニーが待っていることは、あの女の子の為になるの?」
タイニーはどう思う?と訊ねてみると、タイニーは考えるしぐさをした
「うーんとね、為にならない?」
首を傾げながら僕を見上げたので、頭を撫でてやる
「うん、そうだね。待っているだけじゃあ何にもならないから、タイニーができることをして待っているといいんじゃないかな」
僕が頭を撫で終わると、タイニーが顔を上げ、僕を見てきた
「うん、わかったよハジメ兄!!」
僕、とびきりおいしいハーブティを淹れるよ!と言い、タイニーはリドのいるカウンターへと走り去ってしまった
さて、僕もあの子の為になることをしよう
まずは体を温めることができる毛布を取に行くことかな
僕は従業員の部屋の奥にある倉庫に新品の毛布を取りにいった。
ハジメ達が泳いでいるところに、一人の女の子が流れてくるのをタイニーが見つけます。この子はどういう子なのか、次回分かります。




