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積み木の世界  作者: レンガ
~ 風の国 ~
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人の声

 「はあ、久しぶりだったね、ララの講座は」



 腰を押さえながら立ちあがるマキさんは、ララの昔のことを教えてくれた



 ララは小学校のとき、幼馴染であるファイとガイと言い所に過ごした



 その小学校では進級時に試験があり、その試験で進級できるかどうかを決めるということだった



 その試験に対し、ファイとガイは無関心だったらしい


 

 当時、二人は試験勉強をしなかったという



 ララはそんな二人と一緒に進級したいと考えていた



 けれど、二人は無関心だった




 冗談じゃないわよ!!そう思ったのだろうか、ララは二人を空いた教室に呼んでから正座させた


 

 「進級試験の勉強が完璧になるまで正座よ!」



 こうしてララの二人に対しての講座は始まったのだ



 試験勉強に無関心な二人に対し気合を入れてもらう為、ララは教える度に正座させ、完璧になるまで教え込んでいったと言う



 偶然その所を見たマキさんが教室に入ったところ、ララに正座するように強制されたらしい



 その日は、ララの進級試験の勉強講座が終わるまで、教室から出してもらえなかったという




 そのことを思い出し、マキさんは苦虫を噛み潰したような表情をしていた


 

 二人は正座させられる恐怖から、勉強を始めた



 そして、分からないところに直面するたびに、ララは正座させ、講座を開いていた


 おかげで二人は無事進級試験を合格していき、一緒に卒業できた 



 6年間という長い月日を、ララは二人が分からない時に講座を開いたそうだ




 その話を聞く限りでは、むしろ二人を落第の危機から救っているという良い面しか思い浮かばなかった



 僕が考えていると、同じように正座から立ち上がったファイが僕に言ってくる


 「小学校の間はな、それで本当に助かっていたんだ」


 だがなというファイの言葉の後に、マキさんは説明を続けてくれた


 

 小学校の間だけなら、助かるだけで済んでいた



 けれど、ファイとガイが筆記の試験勉強のときに浮かべていた、分からないという表情をみると、ララは講座を開くという行為をせずにはいられなかった




 いつしかララの行為はファイとガイだけではなく、分からないというような表情をした人とその視界にいた人に対して及ぶようになっていた




 そして、質の悪いことに、講座を開いている時の本人の記憶が飛ぶということが起こっていた




 マキさんが僕に話し終わり、傍にあったコーヒーを飲み干した




 つまり、ファイとガイに教えていたことが原因で、他の人に対しても正座させ、その人の理解が完璧になるまで教える講座を開く、という癖がついた



 しかもその行為は、やがてララの表情と雰囲気、言動も変え、その時のことを忘れさせてしまうようになっていた




 そんなに二人はやる気がなかったのか



 どうしたの?という表情を浮かべている顔のララに、僕は憐みを覚える





 ただ、二人の為にララは頑張っただけなのに、まさか周りに対して迷惑をかけていることになっているなんて、露ほどにも思っていないことだろう



 講座のときの記憶がないことが唯一の救いだ、そう思った



 と同時に、この人の前では絶対に分からないと言う表情をしてはならないとも思うだった




 僕はそのことを肝に銘じ、ララに椅子に座るように声をかけた








 


 何が起こったか分からないというようなララをファイとマキさんが宥めている間、僕は空になったカップをカウンターへと持っていく





 あのようになってしまう人もいるのか



 僕はそう思いながら、カウンターにいるリドに洗い物を渡す



 「何かあったのか?」



 リドが皿を洗いながら器用に聞いてくるが、あのことは話さない方がいいだろう



 僕はララの講座のことは言わずに、ファイの幼馴染が来たことだけを告げた




 






 夜も更け、閉店の時間を時計の針の音が知らせてくれる



 その音を革切りに、お客がレストランを出て行く



 満足そうなお客が外へと出やすいよう、僕はドアを開けて立つ



 

 6日間に及ぶ営業が最後のお客の見送りによって終わった瞬間だった









 「営業終了だな」



 リドの言葉に僕はほっとする




 よし、無事に今日の営業が終わったんだ




 僕が心の中で喜んでいると、眠気が襲ってきた





 傍にいたアリアが僕を覗き込んでくる



 「ハジメ、大丈夫?」



 目の下に隈ができてるけど、と言う言葉に僕はぼんやりした頭で思い出す



 

 そういえば、この国でのレストラン営業開始のとき、完全に徹夜したような





 霞む視界をはっきりさせようと、僕は目を擦る




 「もう眠いなら寝ていいよ」


 アリアの言葉おぼろげに頭の中へと響いてくる




 まるで、水の中で聞こえてくる人の声のように




 僕はアリアの言葉に甘え、自室へと引っ込む



 そして、ベッドの上で僕は意識を手放した







 




 揺蕩っている意識を覚醒させ、僕は目をあける



 あの夢の中に僕はいた



 沈みながら手を伸ばしている僕は、手を伸ばすことを諦めない



 水面の光を見ながら僕は底の方へと背中から沈んでいく


 

 しばらく光を見ながら身を任せていると、下の方から何か聞こえてきた





 「・・・・・・」



 何か言っている



 誰かが



 けれど、聞こえない



 僕は水面に背を向け、声のする方へと水を掻き分けた。




  

 ララの講座のとき、お客は4人とは遠い席にいたのとララの視界に入っていなかったので、正座させられませんでした。視界に入っていたら、きっと全員正座でした。その光景を見たいような気もしますが、やめておきます。

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