コーヒーの可能性
「飲んでみるとよく分かるじゃろうて?」
苦笑しながらも、僕から受け取ったカップをマキさんは置く
「見ただけでは分からんことじゃよ」
その言葉に僕は頷く
確かに、砂糖を熱いコーヒーの中に入れると、たちまち角砂糖は溶けて
しまった
けれど、コーヒーに入ったことで、砂糖自体がなくなることにはならなかった
角砂糖の形は無くなってしまったかもしれないが、その代わり、「甘さ」に姿を変えてコーヒーの中に残っていた
「他にコーヒーには何をいれるんじゃ?」
その言葉に僕はミルク、シロップとかですか?と答える
「そうじゃな、いろんなものがコーヒーにいれることができる」
マキさんは、砂糖の入ったコーヒーを飲み干した
「そして、コーヒーの味に変化をもたらしたりもする」
そして、カップを置き、僕の方に目線を向けた
「それは、ハジメ。お前さんのいるこの世界でも同じことが言えるんじゃないのかい?」
真剣な眼差しで言ってくるマキさんに、僕は理解しようとする
「ちょっと唐突すぎたかね、もう少し噛み砕こうか」
飲み干したコーヒーカップをマキさんはテーブルの端へと動かす
「お前さんが接する人たちは、お前さん自身、コーヒーを変えていく角砂糖やミルク、シロップに成り得るのではないか、と言いたいんじゃよ」
その言葉に僕は、マキさんの質問の意図が読めた気がした
つまりだ
マキさんが言いたいのは、人と関わることで何も得られないものはない
いい意味のものでも、悪い意味のものでも、
何かしら人と接することで得られるものはある
そして、人と接することによって
砂糖を入れて甘くなったコーヒーと同じように
僕自身もいろんな味に変わることができる
どんな人にでも成ることができる、そんな可能性が僕にはあるんだ
そう僕に言いたいんだろう
僕はマキさんの言葉の意味が体の中に染み渡っていくのを感じた
「ハジメ」
マキさんの言葉に僕は面を上げる
「人と接することを忘れるでないよ」
そう言いながら角砂糖を摘むマキさんから、それを受け取る
僕はマキさんの言葉にしっかりと頷きながら、角砂糖を一ついれた
マキさんとの話が終わるころ、日が東へと傾くころだった
甘くなったコーヒーを飲み干し、僕はマキさんにお礼を言い席を離れた
アリアもリドも気合を入れている
そろそろ、レストランを営業する予定の目的地に着くはずだ
「さあ、頑張るわよ!!」
アリアの元気な声に僕も気合を入れる
「はい!」
僕も元気よく返事し、接客する準備に取りかかった
準備が一通り終わり、テラスにいるムキのところへ向かう
大量の紙が入った紙袋を手に、ムキの背中へとよじ登る
そして、僕は夕日に染まる空へと旅立っていった
事は、ファイさんがお披露目している最中、森を僕たちで歩いている時
まで遡る
「あ!!」
アリアの突然の声にそこにいた皆は驚く
「どうしたんだ、アリア」
リドがアリアを落ち着けるように声をかけた
そのリドの言葉を無視して、アリアは立ち止まった
「レストラン・宿り木のことって、風の国の人達は知っているの?」
アリアの言葉にデニーさんは首を傾げる
「どうだろうな~、俺の知る限りでは水の国限定だったと思うが」
デニーさんの言葉にアリアはマキさんを見る
「マキさん、レストラン・宿り木のこと、知りませんか?」
アリアはマキさんにすがるような目で訊ねた
けれど、マキさんは当然のように首を振る
「レストラン・宿り木じゃと?あたしゃ、そんな名前の店、聞いたことないね」
マキさんの言葉に、アリアは落ち込んでいた
「・・・そうだよね。そうだと思ったよ、うん」
遠くを見る目のアリアの魂は、今にも抜けそうだった
「アリア、気をしっかり」
僕はアリアに元気を出してもらうように励ました
「でも、待って」
アリアは僕の方に視線を向けてきた
その表情は何か閃いたようだった
「いいこと、思いついちゃった」
ウインクしながら見てくるアリアに、その場にいた皆は首を傾げた
「ハジメが鳥に乗って、レストランありますよって言う広告をばら撒く
のはどう?」
「おう、それいいんじゃないか」
ガイの言葉に、皆も賛成の声をあげた
「ハジメなら、鳥を任せてもよさそうだしな」
ガイの言葉に、やったあと声をあげているアリアが僕の肩に手を置いてきた
他ならぬアリアの頼みなら仕方ないか
僕はアリアの頼みを承諾した
そして、ファイさんの一つ目の都市でのお披露目が終わり、レストランが海へと移動した後、ムキがやってきた
いつ帰ってくるかは分からないが、まあ帰ってくるだろう
ガイと僕だけが鳥の降り立つ音を理解していたので、衝撃音事件にも慌てずに出て行けたのだ
ムキと会った後、ガイとは少し気まずかったが、お酒で気分がよくなっていたのだろう
すぐにガイとの仲を戻した
それから、ムキに乗っていいかガイに改めて聞き、アリアが用意していた大量の広告が入った紙袋を両手に抱える
「いってきます」
レストランにいる皆に言ってから、僕はレストランのドアを開けた。
最初の方は1200字で一話分を書いていたのですが、気が付けば2000字近くまで使って書いていたことに気づきました。更新のスピードが落ちているのはなぜだろうか、と思っていたのですが、原因はそれでした。
1200字でたくさん出すよりも、一話じっくり考えて2000字ぐらいで出すのが調度良いのかなと思いました。しばらく2000字で行きます。




