歓声
飛び出していったマキさんを見送り、僕はため息をつく
徹夜ってけっこうきついんだな
欠伸を噛み殺しながらドアを眺めていると、マキさんが戻ってきた
「ほら行くんだよ、風の織り籠に」
ほれと言って僕を手招きしてくる
でも、ほれと言われても、僕はムキがいないと空を飛べないのですが
それでも尚、手招きしてくるマキさんに僕は渋々ついていった
朝日に照らされる中、僕とマキさんは学校を歩いていく
なんと、その目の前には織り籠が聳え立っていた
あれ?
僕は首を傾げる
どうやら学校は行政地区の中の、織り籠の真横だったらしい
これなら鳥がなくても行けるわけだ
僕そう思いながらマキさんの後をついていくのだった
学校を出て門をくぐり、織り籠へと僕は帰ってきた
今頃は部屋で寝ているつもりだったんだけどな
僕が目を細めていると、
「ほら、さっさといくよ!!」
と言われたので、背中を叩かれた僕はマキさんの先を行くことになった
とりあえず、ファイさんに会ってもらえばいいのかな
僕はファイさんの部屋を訪れることにした
ノックし、しばらく待つ
「どうぞ」
ファイさんの声が聞こえたので僕はドアノブに手をかけようとした
けれど、その前にマキさんがドアノブに手をかけた
開け放たれるドアを見て、ファイさんは驚いていた
「ま、マキ婆・・・」
ファイさんが心なしか、後退したように見えた
「ファイ!!」
マキさんがファイさんの方へとにじり寄っていく
少しひいているファイさんの前にマキさんが立つ
そして、瞳をじっとのぞきこむ
「小学校のころは、風の国生まれではありえない琥珀色だったが、すっかり
新緑色になって」
完全な風の加護者じゃと言って、マキさんはファイさんに抱き着いていた
おいおいと泣いているマキさんをファイさんが背を撫でている
困っているような感じなのだけれど、ファイさんの表情は暖かかった
まだ泣いているマキさん越しに、ファイさんは僕の方へと視線を向ける
「一体、今までどこに行っていたんだ?」
ファイさんの言葉に僕は考えた
「散歩していました」
僕はにっこり目の下の隈をファイさんに見せながら微笑んだ
それからというもの、マキさんがファイに今までの事を聞いたりしていたが、
時間の流れというのは早いものだ
「ファイ様、お時間です」
兵士がお披露目の時間を告げに来た
その声にファイさんはマキさんから離れる
「行こうか」
僕の方に頷きながら、ファイさんは部屋を後にした
織り籠の表に来てみると、人でごった返していた
きっと、鳥たちが運んでくれた手紙が功を奏したのだろう
僕は人々が風の織り籠にいるのを見ると嬉しくなっていた
「風の加護者って?」
「新緑の瞳を持つ人だよ」
口々に民衆が風の加護者について話しているのが聞こえる
「きれいなんだろうな」
うっとりとしている人に、もう一人の人が小突く
「どうだろう、期待しないでおこうよ」
そんな雑談が聞こえる中、兵士が織り籠から出てきた
整列した兵士を見て、国民も同じように道を開ける
ファイさんが織り籠の門をくぐって出てくる
普段は結っている抹茶色の髪を風になびかせながら、民衆の前へと出た
「私はファイ・N・フローラルと申します。この国の新たな風の加護者です」
普段とは違う言葉遣いで、ファイさんは民衆にお辞儀をした
もう、ここからお披露目は始まっているんだ
僕はそう思いながら、門の中から見ていた
ファイさんが黄色い歓声に包まれている中、僕たちもそろそろと門をくぐる
ファイさんに視線を向けている民衆たちは、僕たちが門からでてきたことに
気づいていなかった
僕たちは人の間を縫い、ファイさんより先にレストランへと向かうことにした
森の中を僕たちは歩く
その後ろでファイさんに対する黄色い歓声があがる
「ファイ様~!!」
「きれいなんてものじゃないわ!?美人中の美人よ」
きゃ~と上がる女性陣の声にファイさんは微笑みかける
「きれいすぎるよな」
「なんで、俺らこんな美人に気が付かなかったんだ?」
悔しそうな表情をしている男性陣に対しては手を振った
2年ぶりの風の加護者の登場に、民衆の気持ちは舞い上がっているようだった
おめでとう、ファイさん
心の中で僕は呟きながら、先へと急ぐのだった
レストランへと辿りついた僕はある人物を目にする
昨日ファイさんとハーブ園に行ったきり、帰ってこなかったというタイニー
だった
僕を見つけたタイニーが走ってきた
「ハジメ兄~!!」
若干涙を貯めながら僕を見る
そのタイニーを僕が撫でていると、僕の後ろからついてきていたアリアが声をかけた
「どうして、タイニーくんがここにいるの?」
不思議そうにしているアリアにタイニーが力なくうなずく
「実はね・・・」
タイニーが昨日のファイさんとの出来事を語っていく
その中で、明日のお披露目の間、ファイさんにハーブティを淹れてほしいと言われたのだということだった
朝出発するから、それまでにレストランの前に来ること
そう言われたので、タイニーはレストランの前で待っていたようだ。
ファイのお披露目開始です。タイニーはハーブ園でファイさんにつれまわされていたようなので、若干やつれています。この後も大変だよと言ってあげたいです、タイニーに。




