気配り
「えっ!?」
タイニーはおじさんの言葉に目を見開く
「僕のも褒めてくれたじゃない」
タイニーは手を震わせていた
「なのに、どうして僕の方よりマスターさんの方なの!?」
タイニーは評価を受け入れたくなかったようだった
おじさんはそんなタイニーにしっかり目をむけて言う
「君は、お茶を飲む人のことを考えて淹れたのかな?」
おじさんの言葉にタイニーの震えは止まる
なんのことかと、首を傾げているタイニーにおじさんは説明する
「じゃあ、リドの方のティーカップを見てごらん」
おじさんの言うとおり、タイニーは視線を向ける
僕達も同じように視線を向けた
「君とのカップの違いを言ってくれるかい?」
おじさんの言葉にタイニーはおずおずと答えていく
「えっと、ハーブティのあるカップの横にレモンのスライスと角砂糖、匙が置いてあります」
それだけです、と言うタイニーにおじさんは頷く
「じゃあ、今度は君のカップを見て見ようか」
おじさんの言うとおり、タイニーはカップに目をむける
「君のカップにははちみつが入っていたね」
おじさんがカップの方を見て言う
その言葉にタイニーは静かに頷く
「そのはちみつが苦手な人がいたらどうする?」
おじさんの言葉にタイニーは目線を上げる
「はちみつが苦手な人?」
「そう」
おじさんの言葉に首を傾げながらもタイニーは答える
「入れないです」
その言葉におじさんはそうだなというように首を縦にふる
「さっき飲んだ時に私はね、おいしいと思ったよ君の紅茶をね」
けれど、と言うおじさんはタイニーに静かに言う
「はちみつの苦手な人がこのハーブティを飲むとどうなるかな?」
カップを持ち上げながら、タイニーの方に問うおじさんの目は優しかった
その言葉の意味にタイニーははっと気づく
「嫌な気分になる?」
恐る恐る言うタイニーの言葉におじさんは頭を撫でる
「そうだ。人には好きずきがあるからな、必ずしもこのはちみつ入りのハーブティが好まれるとは限らないんだよ。その点で言うと、リドのハーブティは」
合格だなというおじさんの言葉にタイニーは目に涙をためる
反論したいけれど、言えない
それは、リドがレモンスライスと角砂糖を直接ハーブティに入れず、好きな人だけが使えるように横に置いているだけだからだ
レモンや角砂糖が好きな人とそうでない人がリドのハーブティを飲めるように
リドはそこまで気を配っていた
現に、4人の料理人たちはそれぞれレモンを入れたり、角砂糖を入れたり、そのままで飲んだりしていた
「だがな、負けた理由はそれだけじゃないんだ」
おじさんが涙目になっているタイニーに諭すように言ってくる
「他にもあるの?」
タイニーの質問に料理長のおじさんは頷く
「リドがハーブの入ったポットにお茶を注ぐ前のことは分かるかい?」
タイニーが首を横にふるので、僕が代わりに答える
「リドはその前、カップをお湯に注いでいたね。カップを温める為、かな?」
僕の言葉に料理長はもう一つのポットに視線を向ける
「そう。リドはカップを温めていた。だから、ハーブティをカップに注いでも、ハーブティがぬるくなり過ぎなかったんだ」
証拠にと、リドにカップをもう一つ用意してもらう
リドはさっき言ったように、お湯を注いでから、温めていた
「そっか」
それを目の当たりにしたタイニーの声は落ち着いていた
「だから僕は負けたんだね」
タイニーは静かにおじさんに微笑んでいた
「アリア姉さん!!」
タイニーはアリアの方を向いて言う
「マスターさんは、ぼくと同じくらいじゃなくて、ぼくよりおいしいハーブティを淹れるよ!!」
飲む人のことを考えたねというタイニーの声に、アリアはウインクして返す
そのウインクを見て、タイニーはリドの方を向く
「マスターさん、ぼくと勝負してくれてありがとう!!」
とびっきりの笑顔を向けるとリドも微かに微笑んでいた
こうして、タイニーとリドのハーブティ対決は幕を閉じた
他人のことを思い、気を配ること
これはきっとどの世界に居ても同じように大切なことなのだろう
僕はそう思いながら、リドとタイニーが淹れてくれたハーブティを堪能していた
対決が終わり、タイニーがリドに自己紹介をする
そう言えば、自己紹介せずに対決したんだったな
そう思いながら、リドに自己紹介をするタイニーを飲んでいる横目で見ていた
その後、タイニーがリドの本名を知った
けれど先ほどと変わらず、アリアと同じようにマスター呼びになった
まあ、アリアと違って呼び捨てではなく、さん付けだが
僕は二人がハーブのことで盛り上がっているのを見ながら、残っていたハーブティを飲み干すのだった。
気配りについて私なりに考えてみました。好きなものが入っている場合はいいけれど、嫌いなものが入っているとなるといい気分はしないと思います。そのとき、リドのように好きなものだけを入れられるようにしてあればいいのになと思うことが多々あります。




