反転する世界
お皿を拭き終わり、振り返るとタイニーはテーブルにふせって寝ていた
近くにあった掛布団をとるとタイニーの上に置く
リュックに入れていたペンとノートに書置きをして、僕はハーブ園の中にあるタイニーの小屋を出た
そろそろ帰ろうかな
リュックをかるいなおし、ハーブ園の出入り口を目指していると、抹茶色の髪をしている見知った人を見つけた
「ファイさん?」
僕が声をかけながら寄ると、ファイさんは驚いていたようだった
「ハーブ園に行ったとクロウから聞いていたんだが、姿が見当たらなくてな。今までどこにいたんだ?」
僕の方を向きながら、後ろの髪を揺らす
「ここのハーブを育てているっていう子の小屋にお邪魔していたんですよ」
僕がファイさんを見上げていると、ファイさんが僕に近づいてきた
「いい香りがするな」
ああ、さっきタイニーに貰ったミントかな
僕は袋に入ったミントを見せながら、ファイさんと出口に行く
その間に僕はハーブ園で起こったことを伝えた
「なるほど、そんなことがあったわけか」
ハーブティとクルミパンでタイニーとティータイムをしたことも伝えると、
ファイさんは羨ましそうに僕を見てきた
そういえば、ファイさんハーブティ好きだったっけ?
そう思った僕はファイさんの前に袋を差し出す
「よかったら、ファイさんどうぞ」
僕がそう言うと、ファイさんは袋ごと受けとる
「ああ、何よりうれしいな」
袋をあけ、香りを楽しむファイさんは嬉しそうだった
ファイさんの笑顔に微笑みかけながら、僕たちは織り籠へと帰って行った
~ 風の織り籠 ファイの部屋 ~
帰ってきてみると、アリアとマスター、デニーがファイさんの部屋に集まっていた
「はあ、おいしかった!!」
お腹をさすっているアリアは食堂にずっといたようだった
お昼の時間からだいぶ経っていたのに、まだ食べていたらしい
ということは今まで食べ続けていたということになるのかな?
僕はそう思いながら、次にリドの方に視線を向けた
「今日は楽しめたぞ」
リドは厨房に入り浸っていたらしい
厨房に入って調理していたんだ、というマスターの言葉は弾んでいた
よっぽど楽しかったんだろうな
最後に僕は、片手に酒瓶を持ったデニーを見た
「酒の種類も豊富でな~、飲みがいがありそうだな」
飲みがいがありそうと言っている本人はすでに飲んでいるようで、顔がほんのり赤かった
各々、好きなことに集中していたはずだが、なぜかファイさんの部屋に集まっているのを見て僕は不思議に思う
「どうして皆ファイさんの部屋にそろっているんですか?」
目の前に居たクロウさんに僕は尋ねた
クロウさんは僕の言葉を受け、口を開く
「以前、加護者は国中に広めないと正式な意味ではなれないといったじゃろう?」
僕の方をみながらクロウさんは話を続ける
「そこで、国中を回ろうと思ったのじゃがの、陸路で行ったのでは全てをまわるだけで、1か月は超えてしまう。これは、あまりにも時間がかかり過ぎじゃろう?何か良い方法がないかと、わしとファイで考えたんじゃ」
「そこで、だ」
僕の横に居たファイさんが僕の前に出てくる
「ハジメ坊にお願いがあるんだが」
僕の方を真剣に見てくる新緑の瞳に僕は頷く
ファイさんのお願い、なんだろうな
僕はファイさんの言葉に耳を傾けたのだった
ファイさんのお願いは、風の加護者としてのお披露目を僕たちが乗ってきた船で行いたいということだった
僕は全く構わなかったので、リドとアリア、デニーに行ってもいいか聞いてもらえればいいと言う僕にファイさんとクロウさんは拳を作っていた
「よし、じゃあフネでできるな」
「そうじゃのう」
すでに3人には許可を取っていたようで、二人は晴々としていた
お披露目は明後日から行うという話になったので、自室に帰るために廊下へ出る
ハーブ園での出来事をアリアやデニーさん、リドに話し、それぞれ自室の前で別れていった
今日も終わったな
僕は用意されているベッドの上に身を投げ出す
お披露目は7日間で、風の国を一周する形でまわるらしい
その間、レストランも経営するということで、僕は張り切っていた
風の国の人たちはこのレストランを受け入れてくれるだろうか
そう思いながら、眠りについていった
あの夢の続きだ
僕は湖に落ちている何かに手を伸ばそうとしている最中だった
その行動を続ける
湖の水は僕の手を音もなく呑み込んでいく
肘まで入り、もう届くだろうと思っていたが届かない
近くにあると思うのに、なかなか手に届かない
それでも懸命に腕を伸ばす
肩まで、水がつかる
もう少しだ
僕が湖の水に手を突き刺すと、視界が反転する
さっきまで湖の水に上から伸ばしていたはずなのに、逆になっている
湖の中から僕は水面に向けて手を伸ばしていた
でも、その伸ばした手は水面に届かず、湖の底へと体ごと落ちていく
薄れゆく意識の中で夢から覚める
木々が風で揺れているのが耳に入ってきた
「またこの夢か」
窓の外で揺れている木に目をむけ、僕はベッドから立ち上がった。
アリアは早食いでもありますが、大食いでもあります。でも、食べても食べても太りません。羨ましい限りです。




