灯台もと暗し
ファイさんの声に僕は牢屋の扉を開ける
三人は未だに寝ている
昨日の僕の提案通りに、ドアを開けたままファイさんは入ってこない
僕はその落とし穴の上を渡れるように橋を架けた
空洞の上に積み木と同じの材質の橋が架かる
ファイさんはそれを渡って僕の前まで来た
僕も兄妹が落ちている穴の上に橋を架け、ファイさんに近寄る
「ハジメ坊、よくやった」
僕はファイさんに頭を撫でられた
僕は黙って撫でられることにした
分かった、犬とかが撫でてもらうときのあのときの顔
あんな感じの気分なのだ
僕はそう思った
しばらく撫でられてから、ファイさんは牢屋の中で未だに寝ている三人に目を向ける
「このような事態になっても三人は目を覚まさなかったのか?」
ファイさんは苦笑を通り越して、呆れていた
「ええ、そうなんですよ」
僕は頷くと、牢屋に戻りアリアの頬をつつく
「アリア、起きて?」
僕とファイさんは全員を起こすことにした
~ アリアの夢の中 ~
「アリア、ブルーベリージュースとブルーベリータルトできたぞ」
レストランでマスターがカウンターの上に置いてくれる
「なんだ?食べないのか」
そうか、がっかりとした様子で皿を下げる
え、ちょっと待ってよマスター
私いらないとか一言も言ってないよ!?
私は下げられた皿めがけて手を伸ばした
アリアがうーんと悩んで、手を伸ばしてくるので僕はその横に座り、その手をとる
「私のブルーベリー!!」
返せ!!と言う風に僕の方に手をやってくるので、僕はその手を引っ張った
寝ぼけてるんだな
そう思ったので、少しいたずらすることにした
手を引き、アリアの耳を僕の方に近づける
「起きないとあげないよ」
僕はアリアの耳にそっと声を落とした
ハッと声をあげて目を覚ます
アリアは本当に僕の言葉で起きてしまった
ブルーベリーは?と聞かれるので、僕は答える
「夢でも見てたんじゃない?」
アリアが起きてからは二人がもそもそと起きた
ファイさんは二人を見ながら、朝だぞと声をかける
三人ともなぜこんなところで寝ているか分かっていなかったようだった
それならば知らなくていい
僕は三人には今までの事は言わないことにした
「ファイ様!!表の片づけ終わりました」
兵士姿の人がドアを開け入ってくる
「ご苦労、先に織り籠へ帰っていてくれるかな」
ファイさんが兵士に対し労いの言葉をかけると、兵士はそそくさとドアを閉め出て行ってしまった
「一体何があったの?」
アリアの言葉に僕は答える
「僕たちが探していた、風の加護者に会えるんだよ」
ファイさんに案内されるんだと僕は皆に向かって言う
昨日、ファイさんから風の加護者からの協力を受けると言われていたから
たぶん今からそこへ行くのだろう
僕は皆にさあ行こうと言うと、ドアを開けて出て行った
しばらく森の中を五人で歩く
デニーさんは酔いがさめたのか、顔がすっかり白くなっていた
リドは肩を鳴らし、森の中を眠たそうにしながら見回していた
アリアはというと、森の香りにご機嫌のようだった
襲われる前とほとんど変わらない
穏やかな森の道を五人で抜けて行った
しばらくして、視界の遠くの方に建物が見え始める
「あれが、風の織り籠だ」
ファイさんが皆に向かって言ってくる
緑色の光に包まれ、辺りには風が満ち溢れていた
これが風の加護者がいるという建物なのか
僕たちはその中に足を踏み入れた
歩いている最中で、兵士僕たちの間を風がそよいでいく
花の香りや果物の香り、森の香りを運んでくる
青々とした葉がある木々に覆われたところに籠長室はあった
「ただいま、クロウじい」
バンとドアをファイさんが開ける
「おおう、帰ってきたか」
無事で何より、と言っている人の良さそうなおじいさんはファイさんにクロウじいと呼ばれていた
「あなたが、風の国の管理者ですか?」
僕がそれを問うと、クロウと言う人は首を振る
「いいや、違うぞ少年。風の国の管理者、つまり風の加護者は少年の近くにおるじゃろう?」
おぬしが連れてきよった者じゃと言うので、皆の方を振り返る
心当たりがあるとすれば、この人しかいないのだろう
「ファイさん?」
ファイさんが伏せていた顔をあげ僕を見る
「そうだ、ハジメ坊。黙っていて済まなかった」
にっこりとほほ笑むファイさんは新緑色の瞳を輝かせていた
風の加護者は僕のすぐ傍にいたのだと、思ったのは僕だけではなかったらしい
アリアやリド、デニーも驚いていた
まさか、風の加護者が水の国にいた人とは思わなかったのだろう
かくいう僕も知らなかったわけで
風の織り籠内で僕たちの叫び声が響いたのは言うまでもなかった。
風の国での創の苦難が終わりました。風の加護者がファイだったと判明し、創とアリアやリド、デニーが驚いています。探していた人が近くにいたら、誰だって驚くことになるでしょう。灯台下暗し、です。




