演技の裏に
「はい、記憶喪失みたいです」
僕は慌てている二人の前で頷いた
「お二人は僕を助けてくれたのですか?」
僕が首をかしげていると、二人は目を丸くしていた
「タグ兄、この子本気で覚えてないみたいよ」
「そうみたいだな」
「助けてくれたんですよね?」
僕はもう一度二人に問うように言った
「ああ、そうだよ」
青年の方が僕の言葉に反応してくれた
「でも、どうして僕この人たちと寝ていたんだろう?」
僕はさらに二人に話しかけるように言った
「それは・・・」
青年の方が言葉を濁していると、妹が叫んだ
「昨日あんたが森で倒れていたところをタグ兄が見つけてくれたんだよ!」
妹は必死に僕に言ってきた
「それで、助けたところこの三人もあんたの傍に倒れていたんだ」
ね?と言う風に兄の方を見る妹に兄は頷くしかなかった
「そうそう、だから、仲間かと思って一緒に連れてきてそこに寝かせて置いたんだけど、違ったかい?」
兄の方は頬を掻きながら僕に言ってきた
だから僕はそれに答える
「こんな人達のことなんか知りません。僕にとってはあなたたちが命の恩人です!!」
僕はすがるような目で二人に訴えた
「お二人はお仕事、何をなさっているんですか?」
僕の純粋そうな瞳に妹が答える
「狩りさ」
妹が腕を組みながら言ってくるので僕はその言葉に耳を傾けることにした
兄妹を含め仲間が20人ほどおり、この国にいる盗賊を懲らしめようと日々狩りを行っているらしい
ふむ、なるほど。昨日ファイさんが言っていた20人ぐらいの集団には当てはまるな
そう思いながら、僕は口を開いた
「素敵なお仕事なんですね」
僕は目を輝かせながら、二人の方を見た
「悪い人を懲らしめて、この国が平和になるように助けているなんて、凄いなあ」
僕は尊敬の眼差しで二人を見上げた
二人とも満更でもなさそうだった
妹の方、よくそんな嘘がひょいひょい出てくるな
僕はある意味、感心していた
でも、僕にはそれが嘘だってことは分かっている
え、なぜかって?
それはもちろん、僕は記憶喪失ではないからだよ
僕は満更でもなさそうな二人にお願いをする
「お願いします!!僕の記憶がもとに戻るまで一緒に働かせてもらえませんか?」
僕のお願いに二人は悩んでいる様子だった
悩んだ末、兄の方が僕に声をかける
「僕たちの仕事に感動してくれたの?」
兄の問いかけに僕は答える
「もちろん!!」
僕はすぐさまに返事をした
「じゃあ、決まりね!!」
妹がパチンと指を鳴らすと、牢屋のドアが開いた
「今日からあたしたちの仲間よ!!」
さあ出てきて、と言われるので僕は牢屋から出て行く
どうやら、僕の話を信用してもらえたようだ
僕はそう思いながら、二人の方に駆け寄って行った
~ ネリア・3大都市 フェルエ・籠長室 早朝 ~
「ファイよ、このぐらいの人数あれば上等だろう?」
あたしに話しかけるクロウは意気込んでいた
「上等!!」
クロウの言葉に答えながら、20人の兵士を引き連れ、あたしは出発する
今から助けに行くぞ、ハジメ
20人の兵士とあたしは森の中を静かに移動していくのだった
~ ケリー盗賊・隠れ家 ~
「皆!今朝新しい仲間ができたよ!!」
妹が僕を前に出して、挨拶させる
そこでは屈強な男たちが歓喜の声を上げていた
「いいかい?この子は記憶喪失だからな、優しく教えてあげてくれ」
兄の方が僕に優しく接するように言ってくれる
その言葉に答えなければ、僕はそう思ったので、よろしくお願いしますと元気な声で皆さんにあいさつする
「ところで、名前はなんだ?」
僕の近くに座っていた人に聞かれたので僕は困った表情を見せた
「この子は自分の名前まで完全に忘れている、完全記憶喪失みたいだよ」
肩に手を置かれ、僕を励ますようにしてくれている
盗賊と呼ばれる人たちでも、情がある人はいるんだろうな
僕はそう思いながら、目の前で繰り広げられるこの子の名前を何にするか論争を見ていた
「よし!オルバはどうだ?」
という言葉になぜかみんなが賛成している
どうやらここで僕はオルバと呼ばれるようだ
ありがとうございます、と言う感謝の意を示すように僕はぺこりと頭を下げた
名前が決まり、さっきの部屋に戻ってくる
「みんなに歓迎されていてよかったな、オルバ」
兄の方が僕の頭を撫でてくる
「あたしも嬉しいよ」
笑顔で言ってくる妹の方は僕に微笑んでいる
これだけを見るといい人たちなんだけどな
僕はそう思いながら、ファイさんからの連絡を待つことにした
一人の盗賊員が僕たちの分の朝ごはんと椅子を一脚持ってきてくれた
僕たちはそこで朝食をとることになった
リドの方が遥かにうまいなあ
僕はそう思いながら、スープに口を付けるのだった。
創が盗賊に取り入って、仲間にしてもらいました。見た目が13歳なので、成し得ることでしょう。
ケリー兄妹は仲間思いではありますが、創達を襲った時に硝子細工などが見えなかったので、心に淀みのある人ということになります。ケリー兄妹はこの後どうなるのか、想像していこうと思います。




