画策
~ フェルエ 森林地帯・ケリー盗賊隠れ家 ~
夜になったのだろうか
さっきまで見張っていた兄妹の会話を推察するに
外では日が沈み、暗くなってきたようだった
どこかへと続くドアを開け、二人はこの部屋を出て行った
僕はしばらくして身を起こす
アリアとリド、デニーは未だに意識を回復しない
僕は皆の手首に指をあて、脈を確かめる
脈は全員正常で、問題なかった
近くに寄ってみると、全員が寝息をたてていたので、どうやら寝ているようだ
とりあえず、命に別状がなかったことに僕は一安心した
夜遅くまで続いた宴会で疲れていたのだろう、皆気持ちよさそうに寝ていた
さっきまで、ケリー兄妹がいた部屋を僕は見回す
窓はなく、目の前にテーブルと二脚の椅子があっただけだった
そして、目の前には僕たちの荷物が置いてあった
その中で、ほんのり緑色に光り輝くものが見えた
「あれは、ファイさんからもらった・・・」
硝子細工?と首をかしげていると、突然その硝子細工が目の前で浮いた
へっ?
浮いた、硝子細工がひとりでにリュックから出てきた
僕は自身の目を疑っていた
けれど、硝子細工は風で運ばれてきたように牢屋の扉の隙間をすり抜け、僕の方へと向かってきた
僕はそれを両手で受けとめる
硝子細工が一際光っているところを指で擦ってみると、急に音がする
「・・・!!」
何か言っているようだが、僕にはよく聞こえなかった
だから僕はその光っている部分に耳を傾けた
「ハジメ、無事か!?」
硝子細工から聴こえてきたのは、これをくれた人の声だった
ファイさんだ
僕は嬉しくなって、声をあげた
「ファイさん?」
僕は硝子細工に向かって語りかけるように話した
「無事だったのか。よかった」
心配そうな声は落ち着いたようだった
「これは一体どうなっているんですか、ファイさん」
硝子細工が急に光り始めて、という僕の言葉にファイさんは制止の言葉をかけた
「待て、その話は後だ。ハジメ坊、今はこっちの話を聴いてくれるか?」
ファイさんの有無を言わさぬ言葉に、僕はうんと頷く
「よし、じゃあ今の状況把握だ」
ファイさんの言葉に僕はひたすら頷いていった
ファイさんによると、僕たちが今閉じ込められているところは、ケリー盗賊という兄妹二人を頭にした二十人ぐらいの集団の隠れ家でだということ
そして、その人たちは今まで物を盗るだけで、それ以外に実害はなかったということ
このケリー盗賊は風の国でのお尋ね者で、彼らのアジトである隠れ家を管理前から探していたが、今回僕らが捕まったことにより、アジトがどこにあるのか発覚したとのこと
だから、風の国はこのチャンスを逃さないように動くということで、明日の朝に突撃してくるということだった
とりあえず、助けが来るのが分かって僕は安心した
ファイさんからは以上だと言われた
よし、今度は僕の番だな
「ファイさん、僕から提案したいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだ、ハジメ坊?」
今度はファイさんが耳を傾けてくれるので、僕は硝子細工に向かって話しかける
「今僕以外の人は寝ているんですよ」
どうやら昨日の遅くまでの宴会の疲れがでたらしくて、という僕の言葉にファイさんも苦笑していた
「そうか、ただ寝ているだけならむしろ好都合だな」
ファイさんの言葉に頷いた
「それでですね、僕に提案が一つあるんですよ」
言葉を区切り、ファイさんが頷くのを待つ
「なんだ、提案って?」
見えていたら首を傾げいたのだろう
ファイさんのは不思議そうな声だった
僕は硝子細工に一際静かに語りかけた
その言葉にファイさんは僕に対して指示を出してくれた
その後、僕は体力を温存することにした
眠っている三人には内緒でしたいことがあったから
明日の朝に備えるために僕は目を瞑った
~ ケリー盗賊・隠れ家 早朝 ~
「おはよう、ミリ」
「おはよう、タグ兄」
それぞれの部屋から僕たちがいる部屋に出てきた兄妹は元気そうだった
僕はもうすでに目を覚ましていたので、二人に話しかけることにする
「ふわあ、よく寝た」
今起きた、何も知らないただの少年を装って
「あ、やっと起きたの!?」
こげ茶色の髪を揺らしながら、僕の方を妹の方が見る
その妹の言葉に僕は頷く
「はい、ここはどこですか?」
僕が首をかしげていると、青年の方が近づいてきた
「覚えていないの?」
妹同じくこげ茶色の髪をした青年が僕に向かって話しかけてくる
「はい、と言うよりも」
僕はぐしぐしと目をこすりながら、タグと言う少年の言葉に頷く
二人は続く僕の言葉に顔を見合わせていた
「僕は誰なんだろう?」
その言葉に二人が驚くのはさして時間がかからなかった
「もしかして・・・」
「記憶喪失なのか?」
二人のヒソヒソ声を僕の耳は拾う
よし、いい感じに騙されてるみたいだ
僕は二人が相談している間、口元に笑みを浮かべていた。
ファイさんがくれた硝子細工はここで活躍します。今後も活躍しますが、第一の見せどころでしょう。創の画策を知っているのは創とファイだけです。ケリー兄妹はその画策に気づくことができるのでしょうか。楽しみです。




