暗転
「おい、あれ風の国じゃあないか!?」
酒瓶を持ってデニーさんがレストランに走って入ってきた
その声を聴いて、全員が店の外に出る
緑にあふれた新緑の街が目前にあった
「あれは、たぶん風の国、ネリアの3大都市のひとつ、フェルエだな」
ファイさんが腕を組みながら、僕たちに説明してくれる
「ああ、そうだな」
リドが頷いている
一度通ってきているリドは分かるらしい、懐かしむような顔をしていた
「へえ、これが風の国ね」
アリアがおでこの前に手を掲げ、遠くを見ている
「やっぱりそうかい?」
よかったよかったと胸をなでおろしているデニーさんは片手に持っているお酒を一口飲んでいる
「デニーさん、そろそろお酒はやめませんか?」
僕が見かねてデニーさんに声をかけると、デニーさんはお酒を直しにレストランの中へ入っていった
「じゃあ、そろそろ上陸準備、しようか!!」
アリアの声が弾んでいる
未知の大地を歩むことを楽しみにしているようだ
ファイさんはそのアリアを見て微笑んでいる
リドもそうしようかと言って、店内に入っていく
ファイさんとアリアがそれに続く
僕もその後に続いて入っていった
上陸準備が済んだ僕たちはレストランのドアを閉める
閉めたのを見届けてから、僕は積み木を手に取る
橋を架けよう
この船とこの風の国に
僕は積み木を操り、水の国のときと同様に橋を架けた
アリアが例のごとく橋を先に渡る
その後、ファイさんと僕、リド、そして最後にデニーさんが続く
「あら?ここにさっき橋とか架けてあったか?」
酔っ払いのデニーさんが不思議そうにしていたが、僕たちは先に橋を渡っていたのでその声が聴こえなかった
まあいいかと言う風にデニーさんは頭を掻きながら橋を渡っていく
「風の国に到着、ね!!」
アリアが地に足を付けてそう言った
水の国とはまた違う、森の中にある国のようで
花や木、ハーブ、薬草など様々な香りのものが穏やかな風に乗って僕たちの鼻をくすぐった
「なつかしいな」
リドが足を踏み入れながら、辺りを見回している
「花のいい香り~」
浮かれている声を発しているのはアリアで、クルクルと回っている
「ところで」
ファイさんが鋭い声で僕たちに言ってくる
「どうしたんですか?」
僕はそのファイさんの様子が気になって声をかける
「さっきから数十人の人に囲まれているんだが」
気づいているか?と言われたため、僕たちは凍りつく
え、囲まれてるってどういうこと?
僕がその言葉の意味を理解する前にその数十人に襲われる
「な!?」
僕は絶句していた
ここは僕が日本を基準として作った積み木の世界ではなかったのだろうか
僕はそう考えながらも目の前で起こっていることを把握しようとしていた
けれどもその努力は虚しく、視界が暗転する
僕は薄れていく意識の中、かすかに感じた風の感触を最後に目を閉じていった
僕たちが眠った後、話し声が聴こえていたのだ
二人組の話し声だった
「ちぇ、抹茶色の髪のやつ取り逃がしちゃった」
悔しそうにこげ茶色の髪の女の子が地団駄踏んでいた
「仕方ないだろう、やつは身のこなしが違ったからな、この四人と違って」
同じくこげ茶色の青年がデニーを小突いていた
この二人組はケリー兄妹と呼ばれ、この辺りに住んでいる盗賊達の頭で、風の国では有名だったようだ
二人組は四人が意識を失った後、リュックに入っていた物を盗もうとしたが、なぜか物が何もなかったと仲間に話していたという
仕方ないので、この四人を監禁して、人質にでもしようという話になったため、創たちが持っているものは一切盗られなかった
だが実際には、創たちは食べ物や衣類、お金、そして、書状など、いくらでも盗られるものは持っていた
けれども、盗られなかった
二人にはその盗る対象となるものが見えなかっただけなのだ
それは、創がファイから渡された硝子細工のおかげだったのだと
後から知った盗賊たちは卒倒することだろう
この後起こることを予測できない盗賊たちは、四人をアジトへ連れて行った。
ファイだけが助かりました。彼女はこの国でのキーパーソンなので、とことん動いてもらいます。彼女以外の創たちはどうなるのか、想像してみてください。




