オモテウラ
潮風と波の音にレストランが包まれる
このレストランが渦潮から抜け出て、街に向かったときもこんな感じだったかな
僕はそう思いながら、閉じていたカーテンを開ける
また、青の祝福をレストランが受ける
一面の青の世界に染まっているレストランに対し、ファイさんが声をあげる
「へえ、すごいじゃないか、このレストラン」
ファイさんがテーブルに座ってハーブティを飲んでいる
最初の目的地、風の国に帰るのが希望の彼女は、どこにいてもマイペースのようだった
まあ、その横にアリアもいたのだが
女性は女性同士、話が盛り上がっているようなので僕は遠慮することにした
店の外に出て、テラスの方に出てみると、デニーさんが座っていた
この人は土の国まで、だったかな
僕はデニーさんに軽く会釈する
「坊主も酒を飲むか」
「いえ、遠慮します」
法律違反ですから、と言う僕の言葉にデニーさんは首をかしげていた
ここでの法律では18歳から飲酒可能らしいが、僕はこの世界の住人ではないから法律は適応されないはず
そう思って僕は敢えて、日本の法律を自分に適応させていた
デニーさんの顔が可哀想な人を見るような表情になっている
「坊主、もしかして飲めないのか」
憐れんだ目で僕をみてくる
どうやら僕が全く飲めないと思っているようだ
僕は飲んだことがないから、そこのところはよく分からない
「はい、そうなんですよ」
だから僕はデニーさんの言葉に同意することにした
でも、僕は思うんだ
昼間からお酒はだめだろう
そう思うのは僕の勝手なのだろうか
心の中でダメだしをしながら僕はテラスを後にした
店内に入ってカウンターに目を向ける
リドがハーブティの追加を作っている途中だった
なんでもござれの料理人であるリドにとっては、ハーブティを淹れるのにさして労力を使わないようだった
淹れている最中のリドに僕は話しかける
「いつも、リドは何かの料理を作っているような気がするな」
僕の言葉に注ぎながらリドは答えてくれる
「まあ、そうだな」
ハーブティの色を確認し、もう一つのティーカップにも注いでいく
「今まで、料理人をやっていて、つらかったこととかはないの?」
僕の言葉にリドは茶葉の入ったポットを静かに揺すりながら顔をあげる
「そらまあ、あるわな。仕事だからな」
でもな、と言うリドの言葉に僕は耳を傾ける
「つらいことや仕様もないこと、理不尽なこともあるかもしれないがな、全部がつらいことで括ってしまうと楽しくない人生だろう?」
僕は頷きながらリドの言葉を聞く
「俺にとっては料理をすることは楽しいことでもあるし、やりがいのあることでもある。その楽しいこととつらいことは表と裏なんだ」
「表と裏?」
そうだと言う風に頷くリドはお茶を淹れ終り、お盆に乗せてくれる
「つらいことも楽しいことも、その人の考え次第ではカードの表と裏をめくるようにどちらにでもできるってことだな」
持って行ってくれるか?と言われたので、お盆を持ってアリアたちのところに行く
僕にはその言葉を理解するのが難しかった
アリアたちにうわの空でハーブティを運ぶと、僕は自室に向かった
ドアを閉め、ベッドに飛び込む
僕はさっきのリドの言葉の意味を考える
楽しいことやつらいこと
それは表と裏である
そしてそれは、カードをめくるように自分の手で動かせるのだ
つまり、自分の考え次第ではつらいことも楽しいことにできるし、楽しいことをつらいことにすることができる
要は、つらいことを楽しいことにすることができるのは自分自身で
その自分自身が何事も楽しまなくては、楽しいことも楽しくなくなってしまう
ということなんだろうか
日本に住んでいただけの以前の僕では考えなかったことだろう
僕はこの世界に落ちて来てもよかったのかもしれない
僕はリドにさっきの言葉の意味を聞きに自室を飛び出した。
創が心の成長をしました。仕事のつらさっていうのはどうしようもないことも多いかもしれないけれど、結局自分から動かなくては現状は何も変わらないのは事実だと思います。つらいことも楽しく、そんな人生にできたら嬉しいです。




