宴
「今日はありがとうな、付き合ってくれて」
ファイさんは僕に向かって、ウインクをしてきた
高台の景色に満足した僕たちは、あの後高台から下りてきて、そのままファイさんの店の前までやってきた
「元気出して帰るんだぞ?」
そういうファイさんは僕の背中を軽く叩きながら、僕に元気をくれた
「はい!」
僕は元気いっぱいの笑顔でファイさんにお礼を言う
ファイさんの店から僕が立ち去った後、
「明日な、ハジメ坊」とファイさんの声が聞こえたとき
こっそり笑ったのは内緒だ
石畳の敷かれた街の道を僕は一人で歩いていく
僕が進む方向はたくさんの人であふれていた
家族連れや和やかな老夫婦、
煌びやかな衣装に包まれた女性とその女性をエスコートする男性、
夕日が沈んでも遊び足りない子どもたちがあふれている
僕は日本でこのような光景を見たことがあるのだろうか
答えは分かっている
あるわけがない
必要最低限の外出で済ませてきたのだから
家と学校の往復
家族ともあまり話さない
仲が悪いわけでもなく、不登校というわけでもない
でも、極力他人とは関わらない
そうしてきたんだ
僕の創った積み木の世界に落ちてくるまでは
そう思いながら、人混みをかき分けていくと、目の前のレストランに長蛇の列ができていた
その長蛇の列ができているレストランは、なんと宿り木だった
僕はリュックをしっかりかるいなおす
今日は休業と言っていたような
とりあえず、僕はリュックを持つ手に力を加えながら、店の中へと急ぐことにした
~ レストラン・宿り木 店内 ハジメが帰ってくる1時間前 ~
「マスター、ただいま!!」
「おう、おかえり」
元気にリュックを持って入ってくるアリアに俺は視線を向ける
「ばっちり、調達してきたよ」
そう言って、アリアはカウンターの上にリュックを置く
「そうか、そこ置いといてくれ」
俺は適当にアリアへと支持を出し、料理の準備をする
リュックを置き終わったアリアがカウンターへと戻ってくる
「うん?何でマスター料理の下ごしらえしているの?」
アリアが首をかしげてくるので、俺は昼間起こったことを素直に白状することにした
「実はな・・・」
リドは渋々話し出した
一体何があったのだろう?と私は思う
マスターの話によると
デニーもフネの移動に参加して、故郷である土の国に帰るということらしい
それはよかったのだが、
その後、デニーとのやり取りを他の人に聞かれてしまい、デニーとマスターの里帰りをお祝いしようということになり、
急遽、このレストランを夜から営業することになったということだ
なるほどね、それで料理の下ごしらえを
私はマスターの話に大きく頷いた
「分かったわ、マスター。今夜は思いっ切り盛り上げましょ!!」
手を突き上げて賛成するアリアにリドはほっと胸をなでおろしていた
このやり取りの1時間後、お祝いを聞きつけた人たちがレストランの前のミトリ公園にごった返すという事態になったのは言うまでもない
そして現在に至る
「どうしたの、これ!?」
お店休業日じゃあなかったの、と息を切らして入ってくる創に、席に座っているお客さんが話しかけてくる
「今日はリドとデニーの里帰りのお祝いだぞ~、坊主」
すでに飲み過ぎたのか、顔の赤い客が僕に話しかけてくる
他のお客さんも口を揃えて言ってくる
どうやら、それでお店をあけたみたいだな
事態を把握した僕は急いで部屋に向かい、従業員の制服に着替えた
「いらっしゃいませ!!」
僕は店のドアを開けて、尚も入ってくるお客さんを店に招き入れる
店内に入りきれないお客さんにも飲み物やつまめるものを外、ミトリ公園に
準備する
その中でリドと一緒に来たデニーさんはお酒を飲んでいる
そのデニーさんの後ろにはノアさんが迫っている、というのは本人に言わないでおこう
きっと面白いことになるだろうから
僕は見なかったことにして、公園のお客に目を向ける
リリーとパンジーもお祝いを聞きつけたのか、ジュースを飲みながら、ミトリ公園に座っていた
二人とも僕に手を振ってくれた
ロウも同じなのだろう、アリアの方に向かっていくのが見えた
酔っぱらった人がそのロウの行く先で寝ているのには気づいたのだろうか、
そう思いながらジュースやお酒などの飲み物をお客さんに配る
ジェルは自分の店で働いているのだろう、来ていなかった
今日従業員が三人くると言っていたから、きっと張り切っているだろうな
僕が空になったグラスをカウンターに持っていくと、リドがあり得ない速さで料理をしていた
本来祝われるべきはずのリドが、料理を振る舞っているのはどうなのかと僕は思ったのだが、
本人は料理ができてとても嬉しそうなのでよしとしよう
アリアはというと、飲み物をお盆に乗せ、人の間を滑るように進んでいく
お客さんとの雑談も笑顔で楽しんでいる
皆が楽しいならそれでいいか
僕も負けじと飲み物の注文を取って行った
そう思っていた僕も楽しかったのかもしれない
どんちゃん騒ぎのお祝いは皆が疲れて眠るまで続いたのだった。
ファイさんから元気をもらったハジメが目の当たりにしたのは、長蛇の列とごった返したレストランのお客でした。
電話などのハイテクな連絡手段を使えるものがないこの世界では、レストランにお客がごった返ていたとしても知る由がないのです。そう考えると、携帯って便利、そう思うのかもしれません。




