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積み木の世界  作者: レンガ
~ 水の国 ~
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妖精の囁き

 水の国と言われるだけあって、街には水路が豊富だ


 日本と違って船やゴンドラと言う交通手段がないせいか、ほとんどの人が泳いで渡っている



 そして今、僕の目の前にも水路があった



 他の人は泳いで渡っている



 言っておくが、僕はそんなに泳ぎはうまくない



 なのに、25メートルプール以上にあるこの水路を着衣で泳いで渡れるのか








 いや、渡れない




 そういうわけで、僕は水路の前に立ち止まっていた





 「どうした、ハジメ坊?」


 ほら、泳ぐぞとファイさんが僕を引っぱってくる



 「・・・」

 「ほら、行くぞ?」


 ファイさんが僕を覗き込んでくる



 けれど、そんなの今の僕にとってはどうでもいいことだった




 レストランの船で入るには狭すぎる水路を渡るにはどうしたらいいのか




 僕はファイさんの声に耳を貸さず、思考をめぐらす




 船やゴンドラにできる素材もないしな




 どうしようかと考えていると、僕は目の前の木材屋さんが大きな板を持ってくるのを見かけた


 その店の前に木材を立てかけていく





 そうか!レストランの船でも僕は今日してきたじゃないか



 よし、やってみよう





 僕は意気込んで、ポケットの中にあるものを取り出す為、手をつっこんだ









 さっきから、ハジメが動かない


 泳いで渡ればいいのに、なぜか立ち止まったままだ




 どうしたものか・・・




 あたしがハジメの対応に困っていると、目の前でそのハジメが動き出した



 「どうした、ハジメ坊?」


 なにをするんだとハジメの前に出ようとしたとき、ハジメの手の中にあるものが見えた



 ・・・あれは、積み木?



 ハジメがその積み木に左手を添えると、音がした



 あたしがその音のした方に目を向けたとき、水路の上には橋が架かっていた





 は?





 「よし!うまくいった」


 ファイさん行こうよ、と得意げに言うハジメにあたしは反応できなかった



 目の前で起こったことに気を取られていたからだ




 「もしかして、ハジメ坊が?」



 あたしは横にいるハジメを恐る恐る見た



 「後で説明しますから、先に高台に行きませんか」

 ね?というので、あたしはハジメに手を繋がれ歩き始めた



 ハジメと一緒に突如できた橋を渡り、あたしが行きたいと言った高台へと続く道を進んでいった







 「ファイさん、ここが高台?僕初めて来ましたよ」



 創たちが高台に着いたときは、ちょうど夕日の光が高台に差し込むころだった



 そこには夕日に照らされた噴水といくつかのベンチ、そしてアリアの好きな白い花々が咲き誇っていた



 僕たちもベンチへと座る


 ファイさんが僕の力について聞きたそうにしているので、僕は口を開く



 「驚きましたか、ファイさん」



 にっこりと笑って言葉を投げかけると、ファイさんが頷いてくる



 「そりゃもう・・・」


 一体どういう仕組みだ?とファイさんの顔が言っているので勝手に説明する






 さっき橋を架けたのは僕で、自由に橋を作り出せる



 そしてその力は、ファイさんが明日乗る予定の船にも使われている



 僕のこの力は積み木を操れる僕によってしか発動しない



 積み木を盗られたりしても分かるし、壊そうとする人たちが出てきてもこの積み木は壊れないと、






 僕はファイさんに向かって淡々と話していく


 話を聴き終わったファイさんが夕日に染まる景色から僕の方へ目を向ける 




 その顔はなぜかとても穏やかだった


 「凄いじゃないか、ハジメ坊」


 そうか、だから私も風の国に帰れるのかと言ってファイさんが顎に手をあてていた


 僕を褒めるその言葉は心なしか弾んでいた







 えっ?どうして僕のことを変だと思わないのだろうか



 18歳になっても積み木を持っているし



 突如理解できない現象が目の前で起こったら普通は気味悪がるはずなのに





 僕はファイさんの反応に正直拍子抜けしていた




 「なんだ、ハジメ坊?」


 僕から反応がなかったことに気づいたのか、話しかけてくる



 その言葉に僕は応じる



 「変だって思わないんですか?僕のこの力を見て」

 「うーん、変も何もなあ」



 ファイさんは僕の質問に首をかしげていた



 「目の前で分からないことが起こったら、普通は気味悪がるでしょう?」


 僕がそういうと、ファイさんは目を見開いた



 そうやら僕の言葉の意味に気づいたようだ





 なぜ僕を軽蔑しないのか?と







 ファイさんの言葉を待っていると、突如座っていた彼女が目の前に立つ




 夕日を背にし、ファイさんは新緑の瞳でまっすぐに僕を見つめてきた







 「どんな力が使えてたとしても、ハジメはハジメだ。それ以上でも、それ以下でもない。軽蔑する必要がどこにあるんだ?」





 そういうファイさんの言葉に僕は俯いていた面をあげる




 「どんなことがあっても、お前はお前だろう。他人と違ったところがあったとしても、そんなことは関係ないんだぞ?」


 分かったな?というファイさんは風になびく抹茶色の髪をかきあげながら、僕に微笑みかけていた



 その姿はまるで、森の中でさ迷っている旅人に囁いた妖精のようだった。



    

 ファイさんは我が道を行きますが、本当に他人にとって困ることは言いません。本当に困っていたら手を差し伸べる、そんな素敵な女性です。今後も楽しみにしていて下さい。

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