再び
「「いらっしゃい~」」
二人の店主の声が店内に響く
「こんにちは、リリーとパンジー」
僕はリュックを床に置き、二人を見た
「「あら~、ハジメじゃない」」
今日はどうしたの?という二人に、僕はアリアのお使いのメモを見せる
「どうかな、今日中に用意できる?」
僕が二人に聞くと、二人とももちろんと息をそろえて言ってくる
うん、さすが双子だ
息ピッタリと心の中でひっそりと僕はつぶやいた
「「早速作るわよ~」」
二人が腕まくりし、アリアから頼まれたものを作り始める
相変わらず、お店には行列ができている
このお店の中には僕の他にお客がいない
この店は一度に大勢の客を相手にするのではなく、一組ひとくみじっくりと二人で考えながら、お客さんの希望に応えていくそうなので、店の前には行列ができてしまうということだ
日本ではこんな店はなかったはず
僕はそう思いながら二人がアリアの頼まれたものを作っていく姿を眺めていた
「「よし、できたわよ」」
二人からできたものの確認をするために渡される
うん、アリアのメモ通りのようだ
「ありがとう、二人とも。完璧みたいだよ」
僕は二人に向けて笑顔を送る
そうと言うと、二人は後ろを振り返って何かを言い合っている
僕はあえてそれをスルーし、二人に話しかけることにした
「明日から、船上レストランは逆移動で、風の国、土の国、火の国と回っていく予定なんだ」
二人の故郷はもしかして、風の国?と僕が聞くと、二人がすごい勢いで頷いていた
「「ええ、風の国よ。帰りたいけれど、この店放っておけないしね」」
遠慮しておくわと二人に言われたので、
明日の朝にミトリ公園から出発すると言った後、僕はその話をするのをやめた
パンジーがアリアに頼まれたものを紙袋に入れてもらっていると、リリーが僕に話しかけてきた
「ハジメは、ファイ様のこと知っているの?」
リリーが言ってくるファイ様って、今朝の人のことかな
「もしかして、硝子細工を売っている人のこと?その人だったら今朝会って硝子細工をもらったよ」
ほら、と言って今朝もらった硝子細工を二人の前に差し出す
まあ、と言うリリーにパンジーもまあと言い、紙袋に入れる手を止める
「もしかして、ファイ様からもらって?」
パンジーが僕に言うので、頷く
「そうだよ。そういえば、ファイさんも風の国が故郷って言ってたから、明日から船で一緒だよ」
二人はその言葉に目を丸くしていた
「どうしたの?そんなに目を丸くして・・・。というより、二人はなんでファイさんのことをファイ様って呼ぶの?」
僕がその疑問をぶつけると二人は言葉を濁した
その時、店のドアが開く
「ファイ様って呼ぶのは、ここであたしが二人の店開きを手伝ったからだね」
ドアを開けて立っていた人は、今朝会ったばかりのファイさんだった
「あれ、ファイさん?」
どうしてここに?と言う僕の言葉を受け流しながら、二人に僕と同じように服を注文してきた
「明日からの旅の準備に服を新調しようと思ってね」
カウンターにメモを置き、二人に作るように依頼すると二人はあわただしく服を作り始めた
「硝子細工はどうやら気に入ったみたいだな、ハジメ坊」
僕が手に持っている硝子細工を見ながら、ファイさんは僕に話しかけてくる
僕はハジメ坊と言う言葉を気にしたが、ファイさんに言ってももう無駄だろうと思った僕は諦めることにした
「・・・はい、気に入りました。ところで、ファイさん、さっきまでお客さんの行列ができていたはずなんですが、どうやって入ってきたんですか?」
へ?と言う顔でファイさんは僕の方を見る
「行列なんか私が入ってくるときはなかったぞ?」
ファイさんは抹茶色の髪を揺らしながら首をかしげた
変だなと思っている僕に、パンジーがこっそり教えてくれた
ファイさんは行列を無視して店に入ってくるので、抹茶色の髪の人が行列を無視して入ってくることがありますが、何も言わないであげてくださいと言ってあるそうだ
なるほど、行列を無視するのか
僕は頷きかけたが、途中でやめた
他の人の迷惑も考えたらどうなんだと思ったが、マイペースなファイさんに僕のお説教は通用しないと思ったので、さっきと同じように諦めた
僕は二人から受け取った紙袋をリュックに詰め込みながら、店内を見て回るファイさんの姿を眺めていた。
ファイがまたも出てきました。ファイはマイペースで、我が道を行く感じの女性です。ファイに双子は頭があがりません。店を開くのを手伝ってもらったのもありますが、他にも理由があります。その理由については後で触れる予定なので気長に待ってくれると嬉しいです。




