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積み木の世界  作者: レンガ
~ 水の国 ~
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お姉さんからの質問

 いろんな意味でおいしいスープをお姉さんから食べさせてもらい、心も体もぽかぽかになった頃、お姉さんが使わなかったスプーンを皿に置き、僕の方に体を向けてきた


「おいしかった?」

「それはもう……」

 

 (天にも昇るようでした)


 笑顔で言う僕を見て、お姉さんは本当に嬉しそうだった


 「そう!それは良かったわ。……ところで、話が変わるんだけど、君に聞きたことがあるんだよね?聞いてもいいかな?」


 変わらない笑顔で言う彼女の目は、真剣そのものだった

それに応えないといけないと思った僕は、にやけていた顔を元に戻し、彼女を見上げた


「……はい。もちろん」


 僕の声は、緊張という二文字のせいで、震えていたように思う。実際、内心では何を質問されるのか分からず、さらに、聞かれた質問にどう答えるべきなのかという疑問が頭を回っていたために、僕はこの後拍子抜けした


「そうね・・・、いろいろ聞きたいことがあるんだけれど、まずは名前かな?」


 彼女が眉を寄せ、僕に訊ねてきたのは、何のことは無い、ただの名前だった。そう言われてみれば、僕は彼女に助けられてから、名乗っていなかったような気がしてならない

 僕はベッドで居住まいをただし、彼女を仰ぎ見た


「ごめんなさい名乗らずに食べてしまって。僕の名前は、相田 創です」


 僕の態度に彼女はニコリとしながら、僕の名前を聞いて頷いていた


 「分かった。ソウダ・ハジメ、ね。じゃあ、ハジメって呼んでもいいかな?」


 駄目かな?というように言ってくる彼女に、僕は首を縦に振っていた


 命の恩人なのだ、別に僕は何と呼ばれようと構わない。とは言ったものの、「チビ」と呼ばれるのだけは、勘弁してもらいたいというのが本音だが。


 「どうぞ」

 

 僕の返事を聞いた彼女は、よし!と言っている


 (うーん。それにしても、「ハジメ」って呼ばれるのは新鮮だな。基本高校までの間、クラスメイトからは「相田くん」しか呼ばれたことが無かったからな…。)


 僕が勝手に高校までの事を思い出していると、イスに座っていたはずの彼女が立ち上がっているのが、僕の視界に入った

 エメラルドで一括りににされた髪を揺らし、僕の前に立ち上がった彼女は、とても大きく見えた。それに伴って僕の視線も上げざるを得なかった

 彼女は、僕の前で胸に手をあて、軽いお辞儀をしていた


 「私はアリア・M・ジェーン。皆はアリアって呼ぶから、気軽に呼んでね!」


 軽くウインクする彼女の美貌は、僕のフィルターを通していても、通していなくても十分に伝わることだろうと思う

 僕は、圧倒的に背の高い女性と同じように立ち上がってから、頭を自然とさげていた


 「よろしくお願いします、アリア」

 

 僕が深々と下げた頭を上げると、なぜか彼女の目は輝いていた

 どうして彼女の目が輝いていたのかは、僕にはわからなかったが、彼女が何だかうれしそうだったので、それで良しと言うことにしよう


 自己紹介の後の恥ずかしさを紛らわすためにそのように思った僕の気は、明らかに緩んでいたが、その緩みを引き締めるよう、自分に言い聞かせていた


 僕はこれから聞かれるであろうことに対し、腹をくくっていた

 そんな僕の表情に気づいたのか、彼女は僕にベッドに座るよう促してきた


 「そんなに固くならなくても大丈夫。答えられるところだけ、答えてくれればいいから」


 イスに座る彼女は、僕の緊張をほぐそうとしてくれたが、それを僕は意味のないことだと知っていた

 なぜならば、彼女がこれからきっと質問すると思われることは、この僕の作った世界においての常識によってはかられることだったからだ。

 つまり、僕が何を言いたいのかと言うと、だ 


 「じゃあ、早速。ハジメはどうして空から降ってきたのかな?普通の人だったら有り得ないはずなんだけど……。」


 こういう質問が来た時に、僕が今までいた世界の常識が通用するとは思っていない、ということだ


 彼女の最もな質問に心の中でため息をつきながら、僕は微かに開いていた口を閉じた

 

 そして僕は、予め用意していた言い訳と言う名の「嘘」をつこうと思った


 閉じていた口を開き、僕は彼女にそれを言うために口を動かした。彼女が待っていた僕の答えはこうだった


 「…それが、僕にも何が何だか分からなくて、一体何が起こったのか自分でも分からないんです」


 ヒヤリとする僕の顔を見ながら、彼女は首を傾げていた


 「分からない?なんで?」


 その動作とともにさらさらと動く髪も、意志を持っていたら彼女と同じことを言っていたことだろうと思う


 彼女がきちんとした答えを待っている間に、僕は自分の考えを確認することにした


 (異世界から来ました!と真っ正直に言ってしまったら?僕のちっぽけな脳での予想であっても、大変なことに巻き込まれてしまうのはカクジツ、だ。日本で言う宇宙人だ!というような感じで、国立のセキュリティの大変厳しい、研究所に連れて行かれ、問答無用で研究対象とされたり、珍獣の中の珍獣しか入ることのできないという、合金素材でできた特注のオリの中に放り込まれ、見世物と化されてしまったり、はたまた、完全なる危険人物としてこの世界の人という人の敵と認定され、食べたものには全て睡眠薬・毒薬が入っているのが当たり前で、僕をあらゆる方法で抹殺されたりするかもしれない。万が一、異世界から来たことを肯定的に考えられたとしても、本当に信じてもらえるのだろうか……。だとしたら、)


 そう思って決めた僕は、これしか思いつけなかった。今も待っている彼女の目を見た僕は、その答えを述べた


「…えっと、空から降ってくる以前の記憶がですね、全くないんですよ」


 大ぼらとはまさに、このことだ


 どうして記憶喪失を装ったのか、それは弁明させてほしい。まず、この世界のことを詳しく知らないくてもおかしいと思われないと思ったからと、知りたいことは記憶喪失を盾にすれば、なんでも教えてくれるだろうという、魂胆からだった


 僕が寝返りをうっている間に考えた答えに、彼女はなぜか震えていた。そして、その声も同じように震えていた


「……はい?今記憶喪失って言ってなかった?」


 立ち上がる彼女に僕は、頷くしかなった。きれいな顔が、理由のわからない怒りで歪んでいたからだ

 彼女は僕に掴みかかるようにして僕に言った 


「記憶がないってことは、今までのことは何も覚えていないってこと?」


 何をしでかすのかわからないという雰囲気をまとった彼女に、決められたことしかできない、出来損ないのロボットのように返事をする


「はい」


 その度に、彼女の目に怒りという光が宿っていくのをその目で見ながら。そして、その光を発光させるのだ!と言わんばかりに目を開け、僕の方を見た彼女の目は、うるんでいた


「記憶がないのに、どうしてそんなに平然としているの!?」


 立ち上がった彼女の目に貯まっていたのは、「涙」だった。その彼女を見る限り、彼女には悪いとは思ったが、僕のぼらはそのまま信じられている様子だった


 (じゃあ、一応成功なのか。泣かせたっぽいけれども)


 僕は目の前で肩を震わせるアリアに、手を合わせて謝っていた


 すみません、泣かせるつもりはなかったんです、はい。信じてください。しんっじて、ってその前に。なぜ、彼女は僕の目の前で肩を震わせながら泣いているのだろう?いや、泣かせた僕にはその疑問の答えを訊ねる資格も、権利もないのだろうか……。


 無いよーという天の声を無視し、僕は苦し紛れに記憶喪失の信憑性を確実なものとするべく、語っていく


「どうしようもないんです。分からない。だから、僕はお手上げですよ」


 実際に手をあげて見せた僕を見た彼女は、僕の様子を不思議そうな目で見つめ、口を開いた


 「そんな、どうして不安じゃないのハジメは……。怖くないの?」


 心配そうにしているアリアの目をまっすぐとらえ、僕は本心で彼女に言った。嘘だということを、その時だけは忘れて


 「不安じゃないって言ったら嘘になるけれど、助けてくれた人がアリアだったから、僕は大丈夫」


 アリアは僕の言葉を聞いて固った


 (え、何?何か僕まずいことでも言っ……。)


 心の中で焦った次の瞬間だった

 エメラルド色の髪が、僕の視界の範囲に急速に近づいてきて、その後に僕の身体に似たような体温の物体がぶつかる感覚にさいなまれた

 

 (いや、さいなまれたとかではなく、抱きつかれた!?)


 そう思った僕は咄嗟に、彼女を僕の身体から離すようにした


 「ちょ、アリア!?」

 「……。」


 無言で抱きつく彼女に、僕は心底慌てていた


 (何これ!どういうこと!何がどうなってこうなって……ってええ!?)


 冷静な自分は一体どこにいってしまったのか、僕はパニックに陥っていた

 その僕を差し置いたように彼女は、まだ僕の腕の中にうずくまっていた


 「……アリア?」


 様子のおかしい彼女に、僕は慌てていた心を黙らせる

 そして、その僕の心が黙ったのを見計らったようにしてから、彼女は顔をあげた。僕が参ってしまうような、とびきりの笑顔とともに


 「……ハジメ、すっごく嬉しいよ。さっきの言葉」


 彼女の顔の憂いが晴れ、荒れ地の中で一つ生きている花が、畑の中で元々持っていたその笑顔を取り戻すかのように花開いた、そんな瞬間だった。


 3話目です。アリア姉さんはマスター以外の人に必要とされたことがないので、ハジメにすごくうれしくて抱きついてしまっているようです。海上レストランは誰も客が来ないので、必要とされる人がいなかったからです。

 今後も暖かい目で見守ってください。

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