仕事の終わり
ドアを閉めて振り返ると見知らぬおじいさんがいた
「どうされましたか?」
僕はその人に声をかける
「少年!リリーとパンジー、嫁に貰うならどっちが良いかな?」
うん?と僕に近づきながら首をかしげてくる
・・・なんなんだこの状況は!?
僕は頭の中で火山の噴火が一瞬で起きたかのようなパニックに陥っていた
なぜリリーとパンジー!?そして、この人はそんなことを口にする!!?
考えても分からないと思い顔をあげると、老人は忽然とその場から姿を消していた
代わりに、リリーとパンジーがそこにいた
「「ごめんなさい。今のは私たちのおじいちゃんなの~」」
もうどうしようもない行動ばかりとるから困っているのよ~
ふふ~と二人が言っている遥か後ろで、うつぶせに倒れている人はさっき人だろうか
何をした、と二人にに聞きたいところだったが
僕の寿命が縮む可能性があるのでやめておくことにしよう
僕はリリーとパンジーが後ろ手に老人を引きずっていくのを見ながら、手を振った
レストラン・宿り木の最後の客達が、また来るよと言って手を振り、店を出ていく
「「ありがとうございました!!」」
僕たちがお見送りの挨拶とお辞儀をし終わり、面をあげる
今日何回鳴っただろうか、ドアのベルの音が最後に鳴った
「二人ともお疲れ」
ほれ、と言ってカウンターにアリアが好きなブルーベリージュースを二つ置く
僕たちはカウンターに座った
「うーん!仕事の後のブルーベリージュースは格別ね!」
ね、ハジメ!というアリアに僕は同意する
アリアにとっては、仕事終わりのビールと同じ感覚なんだろうな
僕はそう思いながら、ブルーベリージュースに口を付けた
「で、今日は接客楽しかったか?」
リドがカウンターで夕食を作ってくれている
時間的には、夕日が地平線に落ち始めている頃だ
「うん!すっごく楽しかったよ、マスター」
とびっきりの笑顔で言うアリアにリドも嬉しそうだった
「ハジメはどうだったんだ?」
リドは僕にも同じ質問を投げかける
「うん。大変だったけど、楽しかったよ。ただ、リドの料理スピードには驚きっぱなしだったけどね」
カウンターに腕を投げ出しながら僕は言った
そうか?と首をかしげながら、リドはあっという間に夕飯を作りあげた
日本の料理人もこんな感じなのか?と思いながら僕は席を立ち、レストランのひとつのテーブルを拭く
昼間の青一面の光はなくなり、代わりに夕日の光がレストランを照らしていた
これはこれできれいね、というアリアはお冷を三人分持ってくる
最後にリドが料理を持ってきて、目の前に置いていく
今日の夕飯は、昼間のコース料理と同じだ
クラッカーにサワーチーズ、いくら、水菜を添えて食べる前菜
鶏のすね肉をネギや玉ねぎ、芽キャベツ、ローリエを一緒に煮込んだスープ
鯵と鯛を酢でしめ、薔薇の花びらをかたどった刺身のようなカルパッチョが魚料理のメイン
羊の肉を臭みがなくなるまでホロホロに山椒と煮込み、それをオーブンで軽く焼き、
しょうゆ風味のソースをかけたものが肉料理のメイン
人参と大豆、じゃがいも、いんげんをコンソメで煮、バルサミコ酢のようなものをさっとかけたものが野菜料理のメイン
なぜメインが三つあるのか、気にならないかな?
メインが三つあるのは、肉や魚が苦手な人がいるということから
リドがその場で考えて作ったらしい
僕はリドの料理の腕に驚かずにはいられなかった
メインを食べ終わった僕たちは、焼きたてのバジルパンとトマトパンを頬張る
最後に、アリアが昨日買ってきた大量のブルーベリーを使ったアイスが出てきた
もちろん、アリアは目を輝かせている
幸せそうに食べるアリアを見るのは好きだな
アイスを食べ終わったアリアに、僕がまだ手をつけていないアイスを渡す
さらに幸せ度が上がったアリアは、クルクルと踊り始めてしまった。
アリアは嬉しくなると、行動で嬉しさを示すようになっています。彼女の喜びが読んでいる人に伝わっていると嬉しいです。
リリーとパンジーのおじいちゃんもデニーのお嫁さん同様、出てくるかどうかまだ分かりませんが、何らかの形ではかかわってくると思うので、忘れないでいてあげてください。




