波
お客達はそれぞれ、お酒やジュースを片手に話し合っている
生活のことや仕事のこと、趣味のことに言葉の花を咲かせあう人達もいる
皆、それぞれの生活を送っている
それはどの世界でも同じことだったのに気づく
僕は、この世界に来るまで、異世界に生きている人たちの生活のことを全く考えて
いなかった
いや、考える必要がなかった
だから、僕は世界を積み上げては壊す、それを繰り返した
ただの積み木の世界だから
そこに別の世界があると、本気にしていなかった
ただの積み木と思い、毎日のように作り上げては片手で壊していた
積み木なら、積み上げても、壊しても、誰にも文句を言われない
もちろん、法律にも違反しない
ただの個人的な趣味の域で終わるからだ
まあ、十八歳になってまだ積み木を持っているのか、と言われるのがおちなので
日本の世界にいる周りの人たちには言っていない
家族も知らない
知っているのは、僕だけだ
僕が積み木を組み立てるのは、ストレス発散のためだけではない
僕が望む本当の世界を創りたいからだ
でも、
今まで日本で積み木を組み立てている間、僕の望む理想的な世界は創れなかった
どうしてだろうか
僕はこの世界に来てもそのことを考えている
このときの僕は積み木で世界を創る意味を考えていた
この世界での生活が終わるころ、答えが出るとも知らずに
思考の渦に流されている僕を、アリアの言葉がひきあげてくれた
「皆様、お食事はお済みでしょうか?そろそろ、船上レストラン・宿り木の食事会を一旦お開きにさせていただきたいと思います。その後、お話を楽しみたい方やお食事をされる方、くつろがれたい方はどうぞごゆっくりとこの後も、このレストランにてお過ごし下さいませ。」
アリアがお辞儀をすると同時に、数人談笑しながらレストランを出ていく
他のお客は話が盛り上がっているのか、席を立とうとしなかった
けれども、例外が数人いた
まず、レストラン・フルの支配人、ジェルだ
ジェルは招待状の招待枠を使い、従業員四人を連れてきたらしい。その従業員たちをレストランの四方に飛ばし、従業員探しに奔走していた
僕の言葉通りに本当に探してるよ
床に落ちていたごみを拾いながら考えていると、床に誰かの影が漂っていた
顔をあげるとそこには、金髪野郎が目の前にいた
花屋のロウだ
「よう!今日の料理うまかったぜ、あれ誰が作ってんだ?」
にしし、という声が聞こえてきそうな笑顔で言うロウに、嫌味なにっこり笑顔で接客する僕は、リドを紹介するためカウンターへ案内し、リドに相手を任せた
よし、うまくいった
心の中でガッツポーズをしていると、今度は後ろからノアさんが話しかけてきた
「おや、この前とは全然雰囲気が違うねえ」
イケメンじゃないか!というノアさんは、遠慮なく背を叩いてくる
いや。というか、もうこれは殴ってくると言えるのでは?
思い切りのいい平手に僕はなす術もなく床へ倒れる
「ちょ!?何するんですか、ノアさん!」
やめてくださいよと言う僕に、ノアさんは豪快に笑っている
ため息をついている僕の上に人影が
「大丈夫か、坊主?」
ほらよ、と言って片手に酒、あいているもう一歩の手を差し伸べてくる人は、リドから今朝聞いた親友、酒屋のデニーのようだ
デニーの手を取って僕は起き上がる
「ありがとうございます、デニーさん」
「うん、デニー!?あんたどこまで行っていたんだい!?」
探したんだよ!というノアさんの言葉に後ずさるデニーは冷汗をかいていた
「かっ、母ちゃん!?何で、この町に!?」
後ずさるデニーにノアさんはじりじりと近寄る
「何で?何でじゃないよ!!」
お待ち!というノアさんの声は、レストランから逃げ出すデニーのドアを開ける音によってかき消される
ノアさんはデニーを探しにレストランを出て行ってしまった
ふう、なんとか助かった
ありがとう、デニーさん。あなたのこと忘れないよ
僕は何事もなかったかのように、満面の笑みで開きっぱなしのドアを閉めた。
デニーの名字がノアさんと違うのは、デニーが結婚しているからです。デニーのお嫁さんとのかかわりが今後あるのかないのか、まだ決めておりません。
もしかしたら、関わってくるかもしれませんが、出すとしたらもう少し先だと思います。




