目覚め
薄暗いランプの灯りに照らされて、僕は目をあける
見慣れない天上とベッドに、ため息が出る
「……夢じゃなかったみたいだ」
辺りを見回すために体を起こすと、同じく見慣れないお姉さんが僕の傍で寝ていた
どうやら僕の看病してくれていたみたいで、お姉さんはガクガクなりながら椅子の上で首を揺らしていた
僕の生きていた日本では滅多にお目にかかることのできないお姉さんの髪色は、とても鮮やかなエメラルド色だった
そう、あの緑の宝石を閉じ込めたような、そんな色
そのきれいで長い髪を一括りにし、きれいに結い上げているのをずっと見ていたと思ってしまったが、お姉さんの寝る姿があまりにもきつそうな大勢だったので、
僕は自分の気持ちに目を瞑って、お姉さんを起こすことにした
「お姉さん、お姉さん?」
トントンと肩を軽く叩き、彼女がイスから落ちないように僕は起こす
お姉さんはそれに気づいたのか、ピクッと動いてから頭を上げた
眠そうに擦ってから僕の目をまっすぐに見たその瞳は、僕の心を十分すぎるほど奪ってしまった
月明かりに照らされた薄暗いけれど、気高い夜空の色をスポイトですくい取ったような、瞳
具体的に何色なんだ?と聞かれても、僕にはうまく表現できなかったが、なんとなく夜色の瞳と僕は呼びたい。そして、ものすごくきれいだということを分かってもらいたいと思う
「うん……。あら?私、寝てた?」
首を傾げるお姉さんは、いつ自分が寝たのか分からず、不思議そうな顔をしていた
そんな無防備な彼女に、僕はクスリと笑っていた
「はい。寝てましたよ」
僕が看病してくれていたらしいお姉さんの方を向いてベッドから起き上がろうとすると、
「待って!寝てなきゃダメよ!さっきまで冷え切っていたんだから」
と言い、お姉さんは鋭い目をこちらに向けてきた
(うーん、ここはおとなしくベッドで体を横たえることが賢明だろうな)
そう思った僕は、軽く頷いてから、めくっていた布団をかぶり直していた
僕が起き上がらないことに安心したお姉さんは、僕の方を見て飛び切りの笑顔を
「今、暖かいスープを持ってくるから、待ってて!」
そう僕に良い残してから、彼女は小さな竜巻のように部屋を出て行った
彼女がいなくなって静かになった部屋に僕はひとり、だから、考えてみよう
どうして、僕はこの世界に来ているのだろうか?
この世界は僕が創った世界であって、外から干渉はできても、この中に入るなんてことはできないはずだと、そう思っていたのに……。
現実は、この世界に僕だけが落とされているという始末
「一体どういうことなんだ?」
眉間にしわを寄せ、呟いた僕は、自分がここに来た経緯を考えたが、今の僕にはその答えを出すことができなかった
「まあでも、来てしまったものは仕方がないのか……。」
どうやってこの世界から抜け出すのかは、この際おいておくことにしようと決めた僕は、仰向けだった身体を壁のある方に向かせるために寝返りをうっていた
―― 十五分後――
しばらくして、この部屋のドアが何者かによって開かれた。ドアからお姉さんの顔だけが見える。そして、その彼女の手には、ほかほかと湯気を立てているスープが乗せられているお盆があった
さっきと変わらない笑顔で僕に近づいてきた彼女は、僕の寝ているベッドの横にある簡易机に、そのお盆をのせていた
彼女は、スープ皿をお盆の上に持ち上げ、僕の方に見せてきた
「おまたせ!トマトと卵の相性抜群、マスター特製のぬくもりのスープよ。これを食べれば、氷づけにされていた小熊もあっという間に回復というぐらいにね!」
ウインクする彼女に差し出されたスープ皿を、僕はただ見るだけだった
(なぜ、氷漬けの小熊を引き合いに出すのかと、突っ込んでしまってはいけないよな…。)
そう頭の中に思い浮かべ、彼女の顔色を窺うように僕は下から彼女を見上げた
「い、いいんですか食べても?」
いや、そもそもまだ名前も名乗っていない、得体のしれない人間をベッドに引き入れている時点で、かなり警戒心のない人だなと思っていると、彼女からスープ皿をずいと差し出されていた
「いいの、いいの!食べなさい」
先ほど座って眠り込んでいたイスに腰掛けている親切で、無防備なお姉さんは、尚も、湯気の立つアツアツのスープ皿を僕に差し出してくる
(好意は受け取るものだろう)
僕がそう決めてから皿を素直に受け取ろうと手をのばしたが、その手は皿に触れることは無かった
(へ?)
と心の中で言っていると、目の前でスープ皿を引っ込めて悩むお姉さんの姿があった。彼女は、スープ皿と僕を交互に見てくる
(一体彼女は何をしたいのだろうか。僕にスープを食べさせたいのか、それともたち悪く、目の前にあるけれど、お前にはあげないよーというような軽いジョークといじりのつもりなのだろうか……。)
そんな風にひねくれた考えをしていると、彼女の頭に電球の光が一つともったような気がした
彼女は嬉しそうな笑顔でこっちを見てきた。そしてそれは、僕の予想だにしないことだったのだ
「あっ、でも……、体力が落ちてる人にこのまま食べさせるのもね。……ああ。じゃあ、こうしたらいいんじゃないの?」
何か閃いた彼女は、お盆に乗っていた木製のスプーンを手に取っていた
その次に、彼女はそのスプーンで、スープ皿の中身をすくい取っていた。最終的にそのスプーンがどこに持って行かれるのか、あなたは分かるだろうか?
「はい!」
無邪気な笑顔でと差し出されるスプーンを僕は見ていた
まさか、そのまさかなのだ。彼女が何をしたいのか、それは前者で、僕にスープを食べさせたいということだった。それはあっている。なんて、心優しい人だと僕は思う。けれど、けれどもだ!彼女は、僕にそのスプーンを使って食べろというのではなく、あまつさえそのスプーンをその手で僕に差し出してきた。これは…)
一体なんなんだ!と叫ぶ自分の心を押さえ、僕は右手を前に出していた
「じ、自分で食べられますよ?」
その僕の動作を見て、呆気にとられた彼女は僕の様子に笑いながら言う
「遠慮しないの!ほら、食べな」
彼女はさらに僕の口に届くようにそれを近づけてきた。きっと彼女は、僕が食べることを遠慮していると思ったのだろう
(いや、食べたいよ?食べたいけれどもさ、お、女の子に食べ、食べさせてもらうなんてこと、今まで一度もなかったんだから、そんなことあるはずが…、いや、あってていいわけがない)
心の葛藤をしつつ、僕はスプーンを見た
そして、僕の状態を心の眼でみた
僕は今、冷え切っている(彼女が言うには)
僕は今、ものすごくお腹がすいている
僕は今、正直食べたいと思っている(その温かで、おいしそうなスープを)
そして、その僕の状態を分かっているといわんばかりに、目の前でスプーンが揺れる
これは、すでに決められている一択問題だ
(ええい、どうにでもなればいい!)
僕は火照る顔を気にせずに、木製スプーンにかみついていた
パクッ
まあ、噛みつくといっても、実際にはこのような音だったのだ
赤面している顔をなかったことにして、僕は静かに口を動かしていた
「どう?」
やっと一口食べた僕を見て心配そうにのぞいてくるお姉さんに、僕は目をパチパチとあけながら答える
恥ずかしさよりも何よりも、この言葉が僕の正直な心の叫びだった
「…とっても、おいしいです!」
僕がスープのおいしさで笑顔になっているのを見たお姉さんは、スプーンの柄の部分を横にある机に突き立てていた
「でしょ?マスターの料理は、最高なのよ!!」
僕のスープを褒める言葉をきっかけに、笑顔でマスターとやらの料理について語り始めたお姉さんの言葉は弾丸のように流れて行った
僕がその話に相槌を打ちながら、並行して食べさせてもらっていた間も、彼女はずっとそうだった。
お姉さんはマスターの料理のとりこです。少年もとりこになっていきます。
(2014年1月21日)
けっこう文章を変えてみました。最初の方の分を見てみると、自分がどんな感じで書いていたのかの確認にもなっていいなと思いました。1月21日以前の話を読まれた方はどうでしょうか?読みやすくなっていることを願っております。