支配人の願望
「私はジェル・F・クラウディです。このレストランの支配人をしております」
ジェルとお呼び下さいと言い、軽く会釈するジェルに僕たちも順番に言いだす
「私は、アリア・M・ジェーンよ」
アリアでいいわ、というのにジェルは頷く
「僕は 相田 創 です」
変わった名前ですね、と言うジェルにハジメと呼んでほしい、と僕は言う
なるほど、というジェルの頷きを僕たちは見る
「ではアリア、ハジメと呼ばせて頂きます」
眼鏡をあげるジェルの姿はまさしく支配人だった
「では、本題に入らせていただきますね」
僕たちの前に紙の束を置く
どうやら契約書の類のようだ
その中からジェルは一枚抜き取って、アリアの目の前に置く
「アリア、この店で働きませんか?」
契約書のような紙の上にペンを置き、ジェルはアリアを見上げた
へっ?と固まっているアリアを見るのは、正直面白かった
「さっきの従業員に対しての言葉・・・」
感動しました、と言っているジェルを見て、僕は憐みを覚えた
従業員足りないんだろうな
あのようなウエイターを雇うぐらいなのだから
考えるのをやめ、ソファの上で固まっているアリアに僕は声をかける
「アリア・・・、聞いてる?」
僕はアリアの頬をつつく
はっ!と気づいたアリアは、驚きのあまり言葉を発するのを忘れていたようだ
「あの、えっと、お気持ちはありがたいのですが・・・」
しどろもどろになりながらも、アリアは言葉を紡ぐ
「私達、もうすでに別のレストランで働いているんです」
ごめんなさい、と謝るアリアに支配人の目が光った
「そうですか・・・。どこで働いてらっしゃるんですか?」
尚もアリアに食い下がるジェルはまだあきらめていなかった
「この町の近くの渦潮に囲まれているレストラン、ご存知ですか?」
そのレストラン、宿り木で働いてますとアリアはきっぱり言う
ジェルはレストラン、宿り木?と首を傾げていた
「すみません、私ここに来てから三日しか経っておりませんでして、ここら辺のことはまだよく分かっていないのです」
明日、このレストランが定休日なので、散策に行こうと思っておりました、と言う支配人の言葉に僕は度肝を抜かれた
三日でレストランの支配人!?なんだそれは
僕は驚きを隠せなかった
「じゃあ、散策ついでに宿り木に来てみては?」
どうぞ、とリュックから取り出したのはアリア特製の招待状
これは?と聞いてくるジェルにアリアは答える
「明日からレストラン、宿り木はミトリ公園の前で12時より食事会を行います。そこで、今日会った親しい人や親しくなった人にこの招待状を渡しているんです」
ジェルもどうですか?と聞いてくるアリアにジェルは唸っている
そのジェルに僕は耳打ちをする
「もしかしたら、質のいい従業員雇えるかもしれませんよ」
にこっと微笑む僕にジェルの目は輝きを増した
あっ、釣れた
「はい、喜んで参加させていただきます」
アリアの手を取って、ジェルは従業員確保の炎を背負っていた
背後の炎を見ていると、アリアから帰ろう!と言われたので店を後にした
~ ヴァレンシア 市場通り 夜 ~
すっかり日が沈み、月と星に照らされた市場通りは静寂に包まれていた
「すっかり遅くなったね」
前を見ながら言うアリアの瞳は月明かりに照らされ、青や紫にかわるがわる変わっていた
「そうだね」
僕はリュックを黒のリュックをかるいながら、同意する
「ハジメは今日楽しかった?」
心配そうな顔で聞いてくるアリアに僕は答える
「うん、凄く」
楽しかったよ、と言う僕の言葉にアリアはスキップしていた
そうなんだ!といって元気に僕の横でスキップするアリアは今日一番の優しい笑顔だった。
アリアがジェルにレストラン、フルの従業員に誘われました。ハジメとリドがいなければそのままそのレストランで働くこととなっていたでしょう、きっと。
今後もジェルの働くレストランでアリアを働かせる気はありませんので、安心してください。




