お冷
アリアはメニュー表をカウンターに置き、立ち上がった
「ねえ・・・、何でお客様に対して話すときに敬語でないの?」
顔を上げず、アリアはウエイターに詰め寄った
「お客様がメニュー表を見て悩んでるのに、何もあなたは言わないの?」
顔を上げたアリアがウエイターをはっきり睨んだ
ウエイターはその迫力に後ろにたじろいでいる
まあ、そりゃそうだわな、と僕はカウンターにおとなしく座って眺めていた
「お客様が来たら、まずはいらっしゃいませ、でしょ!」
バンッとカウンターを叩くアリアに、さすがに僕もまずいと感じたので声をかけようとする
けれども、もう手遅れのようだ
アリアは我を忘れている
まあ、今まで接客できなかったアリアがこのような接客で満足しているウエイターを見逃すはずがないわけで
したくても、接客できなかったもんね・・・、今まで
ごめん、ウエイター。フォローはアリアの怒りに油を注ぐことになりそうだからほっとくよ
というわけで、僕は絶賛白切り中だ
「その後は、笑顔で、お冷を置くの、違う!?」
怒り心頭のアリアの手がカウンターから離れた
僕は視線だけをその方向へやる
「なのに、まだお冷が置かれていないのは・・・」
どういうことなのよ!!と言うアリアにウエイターはたじろぎっぱなしだ
ウエイターは1メートル程、さっきの立ち位置から後退している
もう少ししたら、後ろのお客さんのテーブルに体があたるんじゃないのかな
他のウエイターが持ってきたお冷に僕は口をつける
そのお冷を持ってきたウエイターがおろおろしている
ああ、この人もダメだな
僕はお冷を飲みながらこっそり思った
「お冷が置かれていないということは、お客様をお客様と思っていないというあなたの意志の表れよ!」
わかってるのかしら!と尚も詰め寄るアリアにウエイターはなす術もなく後ろに下がる
アリアは息をつく暇も与えずに言う
「接客は料理を作ってくれる料理人やこのレストランに足を運んでくれるお客様、このレストランで働けることに対する敬意の表れなのよ!それを分からずに接客をしているあなたは・・・、接客をするべき人間ではないわ!!」
腰に手をあて、アリアはウエイターに言い切った
ウエイターはさすがに頭にきたのだろう、手に力が入っていた
もしかしたら、アリアに手をあげるかもしれないな
僕はそう考え、二人の方に飲んでないお冷を持って行って近づいた
「な!?なんで、お前にそんなこと言われなくてはいけないんだ!?」
ウエイターは、顔を怒りと羞恥で赤くしながら手を握りこんだ
「何よ!?」
何か文句でもあるの!?と好戦的な言葉を発するアリアも自然と拳をつくる
パシャッ
二人の手が上がると同時に僕はお冷をかける
「ひゃっ!?」
「うわ!?」
二人の悲鳴がレストランに響く
お冷をかけた僕の方を二人が見る
「二人とも、ここをどこだっと思ってるの?」
頭を冷やしてくれるかな?とため息をつきながら、周りを見回すそぶりを見せる
二人も辺りを見回す
他のお客やウエイターが二人が殴り合いを始めるのではないかと怯えていた
二人の拳が空を切り、だらんと垂れ下がる
二人とも周りの状況がよく分かったようだ
完全に手遅れになる前に止められてよかった
僕はつくづくそう思った。
アリアは今回怒り爆発です。こんなウエイターきっと失格だろうなと思うものをかきました。レストランでの接客の定義を間違えてないといいのですが。少しそこのところが不安です。




