始まり
さて、今日はどんな世界を創ろうか
平和な世界もいいけれど、平和でない世界もいいかもしれない
自分の望む世界を今日こそは創られるだろうか
そんなことを、僕は考えていた
世界の積み木をしよう
丸、三角、四角、円柱・・・、それらを思い浮かべて世界の柱にしよう
気に入らなかったらまた、創ればいいのだから
積み立てては、壊してしまえばいいのだから…
―― 水の国ミラルダ 料理店「宿り木」 店内 ――
とある海の上、渦潮に囲まれた人工の孤島に、一人の女性と男性はいた
二人がどうしてこのようなところにいるのか、それは決して自給自足!サバイバル生活体験中~、というわけではないということを言っておこう
カウンターにため息をつく女性とその女性を見ながら皿磨きに勤しむ男性は、ただ話し合う
「マスター、今日もお客来ませんね」
「そうだな」
……。というような沈黙が続いた後、女性の方がバンッと手の平をうちつけて、男性の気をひこうとする
「そうだな、じゃないんだよマスター。…せっかく、せっかくマスターのおいしいご飯が、この誰もいないレストランで待っているというのに!」
拳を震わせて、どうしようもないじゃないという顔をしている女性は、彼に向かって言うのだが、言われている男性はあまり気にしていない様子で、皿を磨いていた
「そうだな」
ポツリと先ほどと同じ言葉を彼女に投げかけたが、もはや彼女に彼の声は聞こえていなかったようで、
「お店もきれいで、毎日通いたくなるようなところなのに…。」
また、いつものが始まったと感じた彼は、適当に相槌を打つことにした
「そうだな」
彼女は未だに拳を震わせている
「でも、こんなところじゃあ、お客さん来たくても来れないよね?おいしくても、無理だもんね…。だってここは、」
切った言葉に、いつものように彼は声をかけていた
「だってここは?」
貯めに貯めた感情を爆発させるように、彼女は自分たちの置かれている状況を口走った
「渦潮に囲まれている、私以外の誰もが渡ってくることのできない、孤島という名の海上レストランですから!!」
軽く涙目で言っている彼女を見ていた、いつの間にか止めていた手を動かし、ため息をついた
「・・・そうだな」
温度差は違うものの、同じように店内に響く二人分の声は、周りにある渦潮の音によってかき消されてしまう
彼女は、その音を聞いて我に返り、目の前に立っている男性の肩を掴んで揺り動かしていた
「…マスター。さっきから、「そうだな」しか言ってないですよー?いい加減にしてくださいよ、その受け答え……。」
夜色の瞳で恨めしそうに見つめられた彼は、磨いていた皿を一枚、カウンターの上に置いた
「だって、なあ?」
誰に言うでもなく、彼は横を向いていた
「だって、ではないです!!ったくもう……。」
彼の態度を見て、彼女はそう言うしかなかったのだ
二人以外誰もいない海の上、誰もいない孤島、そして、誰もいないこの閑散としたレストランで、彼女はガックリと肩を落とした
彼女は言っていないが、きっと心の中ではこう言っていることだろう、
「レストラン宿り木は、今日も変わらず、赤字経営です……、とほほ。」
と。
彼女が客がいないという現実から逃避していた頃、マスターと呼ばれる男性は、来ない客のためにひたすら皿を磨いていた
その彼の姿を見て彼女は思う、
誰も来ないと分かっていても、磨いてしまう料理人魂は凄いと。
それに比べて私は……というように、自分を顧みた彼女は、気合を入れるために頬をピシャリと叩いていた
(ええい!待っていてもしょうがないや。とりあえず、無駄かもしれないけれど、外からお客さんが来ていないか見てこようかな)
彼女は、磨き続ける料理人に、声をかけていた
「マスター、表に出てきます」
気を取り直した彼女に、彼は視線を皿からあげていた
「はいよー」
その返事を聞いた後、女性はレストランと外を唯一繋ぐ扉を開けていた
余りある力で勢いよく開けたドアから見える景色に、彼女は目を細める
「相変わらず、見渡す限りの青い海ね」
彼女の目に映る景色は、一面、青だった
「さてさて、お客さんは来てないかな~?」
独り言を言う彼女が、ふと海と同じように青い空を見上げた時だった、
黒い点のようなものが、彼女の視界に捉えられた
「あれは…?」
首を傾げる彼女は、黒い点のようなものの正体を確認するために、この船にある甲板に行くための通路に向かっていた
ゆっくりと、けれどそれは着実に、点から団子、団子からボール、そして、ボールから人へと姿を変えていった
そのとらえている中で彼女は思った
(人!?)
そう思った束の間の出来事、
「うわあーーーーーーーーーーーー!!」
という声と同時に、彼女の目の前に人が落ちてきた
ドボンッという音によってかき消された悲鳴に、私は我に返っていた
落ちてきたものがよく見える甲板に移動すると、溺れそうになっている人を彼女は見つけていた
海の渦潮に向かって真っ逆さまに落ちてきた人は、彼女の知らない黒髪の少年だった
彼女はそれを頭の中で必死に理解しようとした
(何で少年が空から?え、空から!?有り得ない…。有り得ないって。いやいや、そんなことを考えている場合じゃなくて!?)
「生きてるの!?」
彼女は自身と落ちてきた少年にそうツッコみながら、彼が落ちた場所を見つめる
すると、少ししてから少年が水面に顔を出すのが見えた
「あ、生きてたわね…。」
(う~ん、失礼なこと言っちゃったかもしれない……。)
そう思ってから、軽く彼女が顔を赤くしていると、いつまでたってもこの甲板に上がってこない彼に、彼女は横に向けていた首をもう一度海の方に戻した
その落ちてきた少年の泳ぐ動作を見た彼女は気づいた
「も、もしかして君、泳げないの!?」
海の中で、手と顔だけを出して、同じ場所をゆらゆらと浮かんでいる少年に、頷く余裕などなかった
そんな彼を見た彼女は勢いよく、少年がいるところまで飛び込んでいた
「ちょっと、君!大丈夫!?」
海の中で少年を抱き上げ、意識を失良そうになっている彼に、声かけをしながら、彼女は頬をペチペチと叩いていた
赤みを帯びる頬と同時に、うっすらとあけられた彼の瞳に彼女は吸い込まれていた
「……真っ黒な」
瞳、と言っている間に、気を失った彼の瞼はすぐに閉じてしまい、体からは力が抜けていくのを彼女は感じた
(このままだと危ないわ)
そう判断した彼女は、すぐに少年を海から抱き上げ、足でレストランのドアを蹴り開けていた
「マスター、お風呂沸かして!大至急!!」
先ほどと同じように皿を磨いていた彼は、皿を置き、何も聞かずにすぐに風呂を沸かしに行ってくれた
お風呂のお湯が沸くまでの間、彼女は少年を船内にあるありったけのバスタオルでくるみまくっていた。
初めまして、レンガです。ある程度、自分の中ではこの物語が完成しているので、それを更新できるときはできるだけしようと思っています。
それなりの長さになるとは思うので、読んで頂ける方はご覚悟下さい。
(2014年1月21日)
空中には少年が一人降ってき たところだった
↓
少年が一人、青く澄み切った空の中で迷子になっているのが見えた
ご指摘を受けた部分も含め、大幅に文章を変えてみました。少年を助けてくれる人の目線で見てもらいたかったので「なっている・見えた」を、そして、助ける人が少年が落ちてきてしまったことについて、本当に驚いているのだということを、迷路から抜け出せない人の様子に例えて書き直してみました。ありがとうございました。
いかがでしょうか。もしまた変なところを見つけたり、この表現は変えた方がいいと思ったりした場合は、感想等を使い、節度を守ってご指摘くださいね。
作者を喜ばす言葉も大歓迎です。今後ともよろしくお願いいたします。